第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 神経理学療法 ポスター

発達障害理学療法3

Sat. May 31, 2014 2:50 PM - 3:40 PM ポスター会場 (神経)

座長:日浦伸祐(社会医療法人大道会森之宮病院リハビリテーション部)

神経 ポスター

[1142] 重度脳性麻痺児における移動手段の検討

堀田祥司1, 堀尾愼彌1, 平田好文1, 大隈秀信1, 山田隆治1, 藤本茂雄1, 野尻麻希1, 増岡鮎美1, 野島麻裕1, 清田輝1, 浪本正晴2 (1.医療法人堀尾会熊本託麻台リハビリテーション病院, 2.九州中央リハビリテーション学院)

Keywords:脳性麻痺児, 電動車いす, QOL

【はじめに,目的】
厚生労働省によると電動車いす(以下:P.W.)の支給対象者は少なくとも小学校高学年以上が望ましいとされている。また,海外においては幼少期のP.W.導入が,認知,社会面の発達に影響を与えるという報告がされているのに対し,実際には学齢期に支給される例は少ないのが現状である。近年,脳性麻痺(以下:CP)児におけるP.W.操作能力に関する報告が多数されているが,その多くは上肢の操作能力が比較的保たれている対象に関するものが多く,重度CP児に関する報告は少ない。今回,著しい上肢機能障害を呈し,ADL全介助の重度CP児において早期のP.W.導入により,支援学校での移動における自立活動が可能となっている症例を経験した為,導入から現在の使用状況について,考察及び今後の展望を踏まえ以下に報告する。
【方法】
1)症例紹介:12歳男児の脳炎後遺症後痙直型四肢麻痺,身長159cm,体重49kg,GMFCS:レベルV.Chaily姿勢運動発達レベル:椅子座位レベル2。STFE:手関節,手指の著明な拘縮により測定不可。バギー上で,肩・肘関節運動のみで目標物までのリーチ可能。WISC-III:IQ46(言語性のみ実施),エアハート発達学的視覚評価:視覚定位,追視,注視,注視点移行可能であるが眼と頭部の分離性は乏しい。主たる介助者は母親で腰痛有り。自宅では背臥位でテレビを見るかリクライニングチェアーでipadをして過ごすことが多く,学校でのP.W.操作が最も好きなことである。ADLは全介助で特に移動,移乗が介助者の負担となっている。
2)調査内容:①P.W.導入経緯②現在使用しているP.W.の特性③現在の使用状況を調査した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究を行うにあたり,研究の目的と方法,プライバシーの保護について十分な説明を行い,症例本人とご両親の同意を得た。
【結果】
①H17.12月。当時4歳の時より自力での移動手段確保の為に理学療法の際にP.W.操作練習開始。H21.7月。当時8歳の時に母親より学校用P.W.の作成依頼あり,申請。1年後のH22.7月に審査通過し,同年11月。当時9歳の時完成。直後より学校で導入。
②ティルト機能を有するMAD(きさく工房社製)使用。本児の四肢体幹機能を考慮しモールドタイプシート,体幹ベルト,アームサポート,テーブルを付属。ジョイスティックはゴム製で球状のものを使用。
③支援学校では監視の下,個別学習の時間を利用し,他の児童が比較的少ない環境で廊下往復150m,走行時道幅は最大230cm,最小75cm,段差数カ所を問題なく走行可能。病院での理学療法ではジグザグ走行,道幅広,中,狭において障害物に接触することなく走行可能で,自動ドアの通過も可能。走行の際には周囲の状況,操作手を視覚的に確認しながら行う。操作は右手関節掌屈位で中指,環指,小指のPIP,DIP関節は常時屈曲位にて,中節骨背面をジョイスティックに押し付けるまたは,中指-環指間もしくは環指-小指間に引っ掛けることで遠位部を固定し,中枢部の肩・肘関節を動かすことにより行う。
【考察】
早期から電動移動機器を用いて移動経験を行うことは,子どもたちの認知・社会面の発達に多大な影響を及ぼすとGallowayらは述べている。本症例の場合,早期のP.W.導入が,本児の移動意欲の向上,正常運動発達の過程で成熟される認知機能の発達を促進し,P.W.操作に繋がったものと考える。また,認知課題の遂行能力は座位姿勢による影響を受けると今川は述べている。本児の身体的特徴に合わせたシーティングにより,大腿部及び骨盤から肩甲帯までを安定させることで,頭頚部のコントロールが向上し,本児を姿勢保持課題より解放し,空間認知,危険予測等の認知活動に意識を向けやすくなっていると考えられる。加えてアームサポートが肩・肘関節の分節性を補助し,ゴム製で球状のジョイスティックにより,手指の接触面拡大と摩擦を高め,遠位部を固定することでP.W.操作を可能にしていると考える。現在,支援学校におけるP.W.移動は安全性の問題により限定された状況で使用するに留まっている。今後はP.W.を使用し,教材を職員室まで運ぶ等,本児に役割を持たせた活動や能動的な活動を促すことで自己効力感が高まり,QOL向上,社会参加に繋がるのではないかと考える。このように重度CP児においても,認知機能の発達促進と身体機能に対して人的,物的に支援を行うことで,自立移動獲得の可能性を高めると考えられる。本児は学校でのP.W.移動を1番の楽しみとしており,実用性も高い。今後は自宅でのP.W.移動自立を目標に住宅改修とリフト等の活用を検討し,本児の自立活動及び活動範囲を広げることが,両親の介助量軽減につながり,両者のQOL向上が期待できると考える。
【理学療法学研究としての意義】
重度CP児に対する早期の移動手段獲得は認知機能の向上,自立活動促進によるQOL向上や介助者の負担軽減に繋がることが予測される。本症例より重度CP児における早期P.W.導入の有用性が示唆された。