[1143] 心拍の揺らぎを用い理学療法中のリラックス状態を評価した症例
キーワード:心拍の揺らぎ, リラックス評価, 母子関係
【はじめに,目的】
近年,小児救急医療の進歩により救命された子ども達が増えてきている。それに伴い重い障害が残ったまま,在宅でケアするケースも増えてきている。小児の療育では,良好な母子関係が重要になる。しかし,反応の少ない児との関わりは難しいと予測される。そこで,表出できない反応を視覚化することで,一つのコミュニケーション手段になるのではないかと考えた。快不快の感覚については,先行研究において,心電図を用いた心拍の揺らぎを解析したものが散見される。自律神経活動では,副交感神経が優位になり交感神経が抑制されると,リラックスした状態と評価される。今回,理学療法中に,児がリラックス状態になっているかどうかを知るために,自発的な動きが少なく,表情の変化も少ない児に,心拍の揺らぎを測定し,検証した。
【方法】
対象は,当院入院中の8カ月男児で,在胎週数36週,体重1748gで出生し,子宮内胎児発育不全・先天性関節拘縮症と診断された。呼吸障害から,気管切開し,人工呼吸器管理で,適宜吸引を必要とする。日中に人工鼻の練習をしており,栄養法は経鼻経管からである。筋緊張の変化はあるが,関節可動域の制限があり,自発的な動きはみられず,表情の変化も少ない。今後は,在宅予定である。リラックス評価として,児に心電図モニターを装着し,抱っこ等の日常生活時や理学療法時に,心拍の揺らぎを解析した。理学療法は,児が心地よさを感じるように配慮して,四肢の関節可動域練習・呼吸介助・姿勢変換を行った。自律神経活動は,GMS社製の心拍ゆらぎリアルタイム解析装置MemCalc/Tarawaを用い,200Hzにサンプリングされた心電図波形からR-R間隔を認識し解析した。パワースペクトル値の低周波成分LFは0.04~0.15Hz域,高周波成分HFは0.15~0.70Hz域とし,自律神経機能の評価は,HFを副交感神経の活動指標,LH/HF比を交感神経の活動指標とし時系列で表した。
【倫理的配慮,説明と同意】
当院倫理委員会(第135号)の承認を得ている。また,対象児の母親に十分説明し同意を得た。
【結果】
刺激に対して,交感神経波と副交感神経波の変化がみられた。抱っこや理学療法の時間は,おおむね副交感神経波が上昇し,交感神経波が低下していた。人工鼻練習中は交感神経波が上昇し,副交感神経波が低下していた。予防接種後は交感神経波・副交感神経波ともに不規則な変化が見られた。
【考察】
このリラックス評価は,心電図モニターから解析でき,児にとって非侵襲的な方法である。本症例では,理学療法時や,母親の抱っこ時に,副交感神経波が上昇し,交感神経波が低下し,児にとって,リラックス状態であると推測された。また,人工鼻練習中は,交感神経波が上昇し,副交感神経波が低下し,リラックスしていないと推測される。予防接種後は,どちらでもなく,自律神経活動が混乱しているような状態であろうかと推測される。つまり,刺激に対して,快不快を視覚的に確認できたといえる。木原らの報告では,交感神経活動は,修正32週までにある程度成熟する。副交感神経活動は,32週頃から徐々にその活動は成熟し,35週頃に活動は強いものになる。変動が安定してくるのは36週以降であるとある。本症例は8カ月であり成熟に近づいていると思われる。見た目には,表出が少なくても,快不快を感じている可能性が示唆される。合わせて,環境設定を検討するうえで,児の感覚は重要な情報になりうるため,モニターを利用すべきである。結果を視覚化して示すと,母親からは,「ちゃんと解っているのですね。嬉しい。いっぱい抱っこしてあげるね。」と,発言があった。今回の症例では,理学療法中はリラックス状態で,心拍の揺らぎを解析することが,リラックス評価の一つになることがわかった。今後,症例を増やして,測定が可能な条件や理学療法内容による変化等も検討していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
心拍の揺らぎを測定することは,児のリラックス評価指標の一つになること,それを視覚化することにより,反応の少ない児に対する母子間のコミュニケーションとなることは理学療法学研究としての意義があると考える。
近年,小児救急医療の進歩により救命された子ども達が増えてきている。それに伴い重い障害が残ったまま,在宅でケアするケースも増えてきている。小児の療育では,良好な母子関係が重要になる。しかし,反応の少ない児との関わりは難しいと予測される。そこで,表出できない反応を視覚化することで,一つのコミュニケーション手段になるのではないかと考えた。快不快の感覚については,先行研究において,心電図を用いた心拍の揺らぎを解析したものが散見される。自律神経活動では,副交感神経が優位になり交感神経が抑制されると,リラックスした状態と評価される。今回,理学療法中に,児がリラックス状態になっているかどうかを知るために,自発的な動きが少なく,表情の変化も少ない児に,心拍の揺らぎを測定し,検証した。
【方法】
対象は,当院入院中の8カ月男児で,在胎週数36週,体重1748gで出生し,子宮内胎児発育不全・先天性関節拘縮症と診断された。呼吸障害から,気管切開し,人工呼吸器管理で,適宜吸引を必要とする。日中に人工鼻の練習をしており,栄養法は経鼻経管からである。筋緊張の変化はあるが,関節可動域の制限があり,自発的な動きはみられず,表情の変化も少ない。今後は,在宅予定である。リラックス評価として,児に心電図モニターを装着し,抱っこ等の日常生活時や理学療法時に,心拍の揺らぎを解析した。理学療法は,児が心地よさを感じるように配慮して,四肢の関節可動域練習・呼吸介助・姿勢変換を行った。自律神経活動は,GMS社製の心拍ゆらぎリアルタイム解析装置MemCalc/Tarawaを用い,200Hzにサンプリングされた心電図波形からR-R間隔を認識し解析した。パワースペクトル値の低周波成分LFは0.04~0.15Hz域,高周波成分HFは0.15~0.70Hz域とし,自律神経機能の評価は,HFを副交感神経の活動指標,LH/HF比を交感神経の活動指標とし時系列で表した。
【倫理的配慮,説明と同意】
当院倫理委員会(第135号)の承認を得ている。また,対象児の母親に十分説明し同意を得た。
【結果】
刺激に対して,交感神経波と副交感神経波の変化がみられた。抱っこや理学療法の時間は,おおむね副交感神経波が上昇し,交感神経波が低下していた。人工鼻練習中は交感神経波が上昇し,副交感神経波が低下していた。予防接種後は交感神経波・副交感神経波ともに不規則な変化が見られた。
【考察】
このリラックス評価は,心電図モニターから解析でき,児にとって非侵襲的な方法である。本症例では,理学療法時や,母親の抱っこ時に,副交感神経波が上昇し,交感神経波が低下し,児にとって,リラックス状態であると推測された。また,人工鼻練習中は,交感神経波が上昇し,副交感神経波が低下し,リラックスしていないと推測される。予防接種後は,どちらでもなく,自律神経活動が混乱しているような状態であろうかと推測される。つまり,刺激に対して,快不快を視覚的に確認できたといえる。木原らの報告では,交感神経活動は,修正32週までにある程度成熟する。副交感神経活動は,32週頃から徐々にその活動は成熟し,35週頃に活動は強いものになる。変動が安定してくるのは36週以降であるとある。本症例は8カ月であり成熟に近づいていると思われる。見た目には,表出が少なくても,快不快を感じている可能性が示唆される。合わせて,環境設定を検討するうえで,児の感覚は重要な情報になりうるため,モニターを利用すべきである。結果を視覚化して示すと,母親からは,「ちゃんと解っているのですね。嬉しい。いっぱい抱っこしてあげるね。」と,発言があった。今回の症例では,理学療法中はリラックス状態で,心拍の揺らぎを解析することが,リラックス評価の一つになることがわかった。今後,症例を増やして,測定が可能な条件や理学療法内容による変化等も検討していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
心拍の揺らぎを測定することは,児のリラックス評価指標の一つになること,それを視覚化することにより,反応の少ない児に対する母子間のコミュニケーションとなることは理学療法学研究としての意義があると考える。