[1148] 妊娠期における運動戦略の変化
Keywords:ウィメンズヘルス, 運動制御, 関節モーメント
【はじめに,目的】米国での調査では,働いている妊婦の約26%は,転倒経験があり,妊娠中期に転倒が増加すると報告し,妊娠による身体変化に伴い転倒しやすくなっていることを示している。本研究では,妊娠経過に伴う姿勢保持のための運動戦略の変化を運動力学的視点により明らかにすることを目的とした。
【方法】対象は妊婦群8名と非妊娠群8名とした。計測機器は,運動戦略を運動力学的に捉えるために3次元動作解析システムVICON NEXUS,床反力計2枚,赤外線カメラ10台を用いた。最大前方リーチ距離であるFunctional reach test(FRT)を課題動作として右上肢にて計測し,①非妊娠期と妊娠期での運動戦略の違いを明らかにするために非妊婦群とそれぞれ妊娠中期,末期での各パラメータ(FRT距離,関節モーメント,床反力前後,鉛直成分,体幹屈曲角度,COP進行方向距離)をMann-Whitney検定で比較した(p<0.05)。
【倫理的配慮,説明と同意】全ての被験者に対して,個人情報の守秘義務と研究の目的と方法を口頭と書面にて説明し,承諾を得た上で実施した。妊婦計測時には,妊婦および胎児に対する身体配慮を図るため,助産師による計測前後のバイタルチェック,児心音と腹部の張りの確認を行った。計測は,倫理的配慮を考慮するため筆者が所属する大学での倫理委員会の承認を得た上で実施した。
【結果】非妊婦群と各妊娠時期の比較では,FRT最大値が非妊婦群と比較して妊娠中期では22%,末期では28%有意に減少していた。FRT最大時の下肢関節モーメントは,非妊婦群に比べ妊娠中期末期共,両側股関節伸展モーメントが有意に減少し(妊娠中期右股関節33%,左股関節23%,妊娠末期右股関節35%,左股関節25%減少),妊娠中期では左足関節底屈モーメント,妊娠末期では両側足関節底屈モーメントが非妊婦群に比べ増加していた(妊娠中期左足関節15%,妊娠末期右足関節13%,左足関節18%それぞれ増加)。FRT最大時の両下肢床反力成分は,非妊婦群と比較して妊娠中期では,右下肢床反力後方成分が87%減少し,左下肢床反力鉛直成分が19%増加していた。非妊婦群と比較して妊娠末期では,右下肢床反力後方成分の72%減少と左右下肢の床反力鉛直成分が増加していた(右16%,左23%それぞれ増加)。FRT最大時のCOP進行方向移動量は,非妊婦群と比較して妊娠中期,末期共,左下肢のCOP進行方向移動量が減少していた(妊娠中期6%,末期7%減少)。FRT最大時の矢状面での体幹屈曲は,非妊婦群に比べ妊娠中期では44%,末期では49%減少していた。
【考察】妊娠期では,非妊娠時と比較して身体重心は,上前方にシフトする。この釣り合いをとるために体幹後屈位を取りやすくなり,体幹前屈角度減少と共にFRT値が減少したものと考えられた。非妊娠期と妊娠期の比較において妊娠期での左右股関節伸展モーメント減少の原因は,COP進行方向移動量の減少と共に,股関節と床反力ベクトルとのレバーアームが短くなったためと考える。妊娠期においてCOP進行方向移動量と床反力後方成分の減少により足関節と床反力ベクトルとのレバーアーム距離が短くなっているのにもかかわらず足関節底屈モーメントが増加していた原因は,妊娠中期においては左下肢床反力鉛直成分増加によるものと推察し,妊娠末期では,左右下肢床反力鉛直成分増加によるものと推察した。妊娠期では前方リーチ動作において,体幹屈曲角度が減少するため前方への重心移動量が減少し,足関節ストラテジー優位にバランス保持をしていたと考えられる。股関節ストラテジーがうまく使えないことは,急激な,もしくは大きなふらつき時での運動制御や不整地での歩行時での運動制御が困難になるということが予想され,妊娠期での転倒増加の一因である可能性が考えられた。
【理学療法学研究としての意義】妊娠期では,非妊娠期に比べ前方リーチ距離が減少し,足関節ストラテジー優位にバランス保持することが示唆された。本研究の意義は,妊娠期の運動戦略変化を定量的に把握することで,妊婦の日常生活時への転倒予防指導の一助となることと,転倒予防のために強化すべき箇所を提示することが可能となる点である。
【方法】対象は妊婦群8名と非妊娠群8名とした。計測機器は,運動戦略を運動力学的に捉えるために3次元動作解析システムVICON NEXUS,床反力計2枚,赤外線カメラ10台を用いた。最大前方リーチ距離であるFunctional reach test(FRT)を課題動作として右上肢にて計測し,①非妊娠期と妊娠期での運動戦略の違いを明らかにするために非妊婦群とそれぞれ妊娠中期,末期での各パラメータ(FRT距離,関節モーメント,床反力前後,鉛直成分,体幹屈曲角度,COP進行方向距離)をMann-Whitney検定で比較した(p<0.05)。
【倫理的配慮,説明と同意】全ての被験者に対して,個人情報の守秘義務と研究の目的と方法を口頭と書面にて説明し,承諾を得た上で実施した。妊婦計測時には,妊婦および胎児に対する身体配慮を図るため,助産師による計測前後のバイタルチェック,児心音と腹部の張りの確認を行った。計測は,倫理的配慮を考慮するため筆者が所属する大学での倫理委員会の承認を得た上で実施した。
【結果】非妊婦群と各妊娠時期の比較では,FRT最大値が非妊婦群と比較して妊娠中期では22%,末期では28%有意に減少していた。FRT最大時の下肢関節モーメントは,非妊婦群に比べ妊娠中期末期共,両側股関節伸展モーメントが有意に減少し(妊娠中期右股関節33%,左股関節23%,妊娠末期右股関節35%,左股関節25%減少),妊娠中期では左足関節底屈モーメント,妊娠末期では両側足関節底屈モーメントが非妊婦群に比べ増加していた(妊娠中期左足関節15%,妊娠末期右足関節13%,左足関節18%それぞれ増加)。FRT最大時の両下肢床反力成分は,非妊婦群と比較して妊娠中期では,右下肢床反力後方成分が87%減少し,左下肢床反力鉛直成分が19%増加していた。非妊婦群と比較して妊娠末期では,右下肢床反力後方成分の72%減少と左右下肢の床反力鉛直成分が増加していた(右16%,左23%それぞれ増加)。FRT最大時のCOP進行方向移動量は,非妊婦群と比較して妊娠中期,末期共,左下肢のCOP進行方向移動量が減少していた(妊娠中期6%,末期7%減少)。FRT最大時の矢状面での体幹屈曲は,非妊婦群に比べ妊娠中期では44%,末期では49%減少していた。
【考察】妊娠期では,非妊娠時と比較して身体重心は,上前方にシフトする。この釣り合いをとるために体幹後屈位を取りやすくなり,体幹前屈角度減少と共にFRT値が減少したものと考えられた。非妊娠期と妊娠期の比較において妊娠期での左右股関節伸展モーメント減少の原因は,COP進行方向移動量の減少と共に,股関節と床反力ベクトルとのレバーアームが短くなったためと考える。妊娠期においてCOP進行方向移動量と床反力後方成分の減少により足関節と床反力ベクトルとのレバーアーム距離が短くなっているのにもかかわらず足関節底屈モーメントが増加していた原因は,妊娠中期においては左下肢床反力鉛直成分増加によるものと推察し,妊娠末期では,左右下肢床反力鉛直成分増加によるものと推察した。妊娠期では前方リーチ動作において,体幹屈曲角度が減少するため前方への重心移動量が減少し,足関節ストラテジー優位にバランス保持をしていたと考えられる。股関節ストラテジーがうまく使えないことは,急激な,もしくは大きなふらつき時での運動制御や不整地での歩行時での運動制御が困難になるということが予想され,妊娠期での転倒増加の一因である可能性が考えられた。
【理学療法学研究としての意義】妊娠期では,非妊娠期に比べ前方リーチ距離が減少し,足関節ストラテジー優位にバランス保持することが示唆された。本研究の意義は,妊娠期の運動戦略変化を定量的に把握することで,妊婦の日常生活時への転倒予防指導の一助となることと,転倒予防のために強化すべき箇所を提示することが可能となる点である。