[1149] 最大筋力の反復測定における疲労の影響を考慮した休息時間の設定について
Keywords:筋力測定, 等尺性膝関節筋力測定器, 疲労
【はじめに,目的】
膝関節伸展筋力は起居・立ち上がりや歩行などの動作能力と相関があると報告されており,膝関節伸展筋力は患者の動作能力を予想するための一要素とされていることから,膝関節伸展筋力測定は臨床において有益である。膝関節伸展筋力を測定する機器として,ハンドヘルドダイナモメーターや等尺性膝関節筋力測定器,トルクマシンなどが開発されており,それらを使用して膝関節伸展筋力を測定した研究が多く報告されている。膝関節伸展筋力測定では,一般的に5秒間の等尺性筋収縮を2回または3回行い,その中の最大値が測定値として採用されることが多い。その際,いずれの先行研究においても疲労の影響を考慮して測定間には30秒~1分の休息時間を設けている。しかし,その休息時間の設定について明確な根拠となるデータは見当たらない。Sahlinらは,膝関節伸展筋において,疲労課題実施後の最大筋収縮力の回復には2分かかると述べているが,その内容は最大収縮の66%の持続収縮による疲労課題後,1秒間の最大収縮を繰り返し最大筋力へ回復するまでの時間を明らかにしたものである。この研究方法は,最大収縮を5秒程度行う一般的な筋力測定法とは条件が異なるため,休息時間の設定についての根拠とはならない。そのため,従来の測定間の休息時間の設定では,得られた測定値から疲労の影響が除かれているかどうかは不明である。
そこで,本研究の目的は,膝関節伸展筋力を反復測定する場合,疲労の影響が測定値に影響を与えないために必要な測定間の休息時間を明らかとすることである。
【方法】
対象は測定肢(利き足)の膝関節に傷病の既往がなく,現在痛みを生じていない20代の健常成人で,GT330(OG技研)を使用して膝関節伸展筋力を測定した。GT330で最大筋力を発揮するための練習は,実際に測定を行う3~5日前に行った。各被験者は測定を行う前にウォーミングアップとして立位での大腿四頭筋のストレッチングを20秒間行った。被験者は検者の合図により5秒間の最大等尺性収縮を行った。測定回数は2回とし,その間の休息時間について30秒,1分,2分の3条件設定した。条件間には10分以上の休息時間を設け,同一被験者が同日内に3条件での測定を行った。各条件を測定する順番は,乱数表を用いて被験者ごとにランダムに割り付けた。また,体重およびレバーアームを測定し,膝関節伸展筋力をトルク体重比として算出した。データ分析には測定毎のトルク体重比の平均値を使用した。統計解析はSPSSを使用し,正規性の検定後,条件間の1回目のデータの比較については分散分析,測定間の比較については対応のあるt検定,Bland-Altman分析を行った。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は当院倫理委員会の承認を得た上,被験者には研究の内容を説明し,参加の同意を得て行った。
【結果】
対象者は19名(男性8名,女性11名),年齢23.9±2.2歳,体重58.8±12.0kgであった。測定毎の平均トルク体重比は30秒1回目3.1±0.7Nm/kg,30秒2回目2.8±0.6Nm/kg,1分1回目3.1±0.7Nm/kg,1分2回目3.1±0.7Nm/kg,2分1回目3.1±0.6Nm/kg,2分2回目3.1±0.7Nm/kgであった。分散分析において,1回目のデータについては条件間で有意な差は認められなかった(p=0.70)。対応のあるt検定において,30秒の休息条件ではトルク体重比が有意に減少した(p=0.00)が,1分および2分の休息条件ではともに有意差は認められなかった(それぞれ,p=0.74,p=0.76)。Bland-Altman分析では,すべての条件において比例誤差は認められず(p>0.67),30秒の休息条件においてのみ,2回目が低くなる加算誤差が認められた(95%CI:0.13~0.78)。
【考察】
各条件の1回目の測定値について有意差がなかったことから,3条件は同等の状態で測定出来たと考えられる。30秒の休息条件の場合,トルク体重比の有意な減少が認められたが,1分または2分の休息条件では有意差は認められなかった。またBland-Altman分析で30秒の休息条件でのみ加算誤差が認められたことから,今回の設定においては,30秒の休息条件では筋疲労により測定値が影響を受けたと考えられる。
膝関節伸展筋力を測定している先行研究では測定間の休息時間を30秒と設定しているものが多く,最大値として採用されたデータの中には2回目に測定されたデータが含まれているかもしれない。今回の結果から30秒の休息条件では測定値に筋疲労が影響することが示唆されたため,仮に1回目の測定値よりも2回目の方が高くなったとしても,その値が真の最大値ではない可能性があると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
今後,今回の設定に準じて膝関節伸展筋力を反復測定する場合において,測定間の休息時間を設定する根拠としての基礎データとなり得る。
膝関節伸展筋力は起居・立ち上がりや歩行などの動作能力と相関があると報告されており,膝関節伸展筋力は患者の動作能力を予想するための一要素とされていることから,膝関節伸展筋力測定は臨床において有益である。膝関節伸展筋力を測定する機器として,ハンドヘルドダイナモメーターや等尺性膝関節筋力測定器,トルクマシンなどが開発されており,それらを使用して膝関節伸展筋力を測定した研究が多く報告されている。膝関節伸展筋力測定では,一般的に5秒間の等尺性筋収縮を2回または3回行い,その中の最大値が測定値として採用されることが多い。その際,いずれの先行研究においても疲労の影響を考慮して測定間には30秒~1分の休息時間を設けている。しかし,その休息時間の設定について明確な根拠となるデータは見当たらない。Sahlinらは,膝関節伸展筋において,疲労課題実施後の最大筋収縮力の回復には2分かかると述べているが,その内容は最大収縮の66%の持続収縮による疲労課題後,1秒間の最大収縮を繰り返し最大筋力へ回復するまでの時間を明らかにしたものである。この研究方法は,最大収縮を5秒程度行う一般的な筋力測定法とは条件が異なるため,休息時間の設定についての根拠とはならない。そのため,従来の測定間の休息時間の設定では,得られた測定値から疲労の影響が除かれているかどうかは不明である。
そこで,本研究の目的は,膝関節伸展筋力を反復測定する場合,疲労の影響が測定値に影響を与えないために必要な測定間の休息時間を明らかとすることである。
【方法】
対象は測定肢(利き足)の膝関節に傷病の既往がなく,現在痛みを生じていない20代の健常成人で,GT330(OG技研)を使用して膝関節伸展筋力を測定した。GT330で最大筋力を発揮するための練習は,実際に測定を行う3~5日前に行った。各被験者は測定を行う前にウォーミングアップとして立位での大腿四頭筋のストレッチングを20秒間行った。被験者は検者の合図により5秒間の最大等尺性収縮を行った。測定回数は2回とし,その間の休息時間について30秒,1分,2分の3条件設定した。条件間には10分以上の休息時間を設け,同一被験者が同日内に3条件での測定を行った。各条件を測定する順番は,乱数表を用いて被験者ごとにランダムに割り付けた。また,体重およびレバーアームを測定し,膝関節伸展筋力をトルク体重比として算出した。データ分析には測定毎のトルク体重比の平均値を使用した。統計解析はSPSSを使用し,正規性の検定後,条件間の1回目のデータの比較については分散分析,測定間の比較については対応のあるt検定,Bland-Altman分析を行った。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は当院倫理委員会の承認を得た上,被験者には研究の内容を説明し,参加の同意を得て行った。
【結果】
対象者は19名(男性8名,女性11名),年齢23.9±2.2歳,体重58.8±12.0kgであった。測定毎の平均トルク体重比は30秒1回目3.1±0.7Nm/kg,30秒2回目2.8±0.6Nm/kg,1分1回目3.1±0.7Nm/kg,1分2回目3.1±0.7Nm/kg,2分1回目3.1±0.6Nm/kg,2分2回目3.1±0.7Nm/kgであった。分散分析において,1回目のデータについては条件間で有意な差は認められなかった(p=0.70)。対応のあるt検定において,30秒の休息条件ではトルク体重比が有意に減少した(p=0.00)が,1分および2分の休息条件ではともに有意差は認められなかった(それぞれ,p=0.74,p=0.76)。Bland-Altman分析では,すべての条件において比例誤差は認められず(p>0.67),30秒の休息条件においてのみ,2回目が低くなる加算誤差が認められた(95%CI:0.13~0.78)。
【考察】
各条件の1回目の測定値について有意差がなかったことから,3条件は同等の状態で測定出来たと考えられる。30秒の休息条件の場合,トルク体重比の有意な減少が認められたが,1分または2分の休息条件では有意差は認められなかった。またBland-Altman分析で30秒の休息条件でのみ加算誤差が認められたことから,今回の設定においては,30秒の休息条件では筋疲労により測定値が影響を受けたと考えられる。
膝関節伸展筋力を測定している先行研究では測定間の休息時間を30秒と設定しているものが多く,最大値として採用されたデータの中には2回目に測定されたデータが含まれているかもしれない。今回の結果から30秒の休息条件では測定値に筋疲労が影響することが示唆されたため,仮に1回目の測定値よりも2回目の方が高くなったとしても,その値が真の最大値ではない可能性があると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
今後,今回の設定に準じて膝関節伸展筋力を反復測定する場合において,測定間の休息時間を設定する根拠としての基礎データとなり得る。