[1151] 振幅確率密度関数を用いた筋疲労分析に関する実験的研究
Keywords:表面筋電図, 筋疲労, 評価
【はじめに,目的】
表面筋電図による筋疲労の評価は,最大負荷時に振幅及び周波数の低下,最大下負荷時に振幅の上昇と周波数の低下が起こるが,低出力時の周波数感受性は低く,筋疲労を確定しにくいとされている。本研究目的は,低出力での持続的筋収縮時の筋活動の変化を追跡し,振幅確率密度関数(Amplitude Probability Distribution Function:APDF)と従来の筋電図学的指標の経時的変化の相違から,より有効な筋疲労評価方法を検討する事である。
【方法】
健常成人14名(男性9名,女性5名,平均年齢:21.6±0.6歳)を対象とした。被験筋は利き手側の上腕二頭筋とし,最初に,肘関節屈曲90°位で壁面に固定された表面筋電計と同期したロードセルを最大努力で5秒間牽引し,その間の筋活動電位と発揮トルクから各々のピーク値を抽出した。次に同様の肢位にて,抽出されたピートルク値の25±5%の出力でロードセルを牽引し続け,この出力が連続して5秒以上維持できなくなった時点で課題終了とした。課題の持続時間を10等分し,各時点(開始時,10から90%時点及び終了時)の3秒間の波形から平均振幅及び中間周波数(高速フーリエ変換)を算出した。APDF解析は,筋活動電位のピーク値を100%として,各時点のデータ分布から5%毎の階級で度数分布を作成(0-100%peakを20階級に分割),各階級の全データ数に対する割合を算出し,各階級の出現確率とした。統計学的検定には一元配置分散分析を使用し,多重比較検定(Dunnett法)にて開始時に対する各時点の変化を,加えて,各指標間の男女差を対応のないt検定を用いて有意水準5%未満で検討した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に基づき,被験者は研究の目的と内容の説明を受け,同意の後に本研究に参加した。
【結果】
課題の平均持続時間は653.7±184.5秒で,男女間に有意差はなかった。平均振幅は50%時点以降終了時まで有意に高値を示したが(p<0.01),中間周波数は終了時との比較で初めて有意に低値を示した(p<0.05)。また,疲労の影響と思われる男女差を示さなかった。APDF解析では,0-5%peak階級で30%時点以降有意に低値を示したのに対して,5-10%peak階級では10%時点からすでに有意に高値を示した。さらに10-80%peak階級では,50%時点から大きい階級ほど有意性の出現が後半へと移行し,高値を示していた。また男女差を見ると,有意性の出現が5-50%peak間の各階級で女性が遅く,女性は50%peak以降で有意性がないのに対して,男性は65%peakまで有意性を示していた。
【考察】
持続的筋収縮時には,筋線維の疲労により収縮張力が低下し,要求された張力維持ために動員される運動単位数が増加すること,TypeII線維の易疲労性により動員数が漸減し,発揮張力が低いTypeI線維動員数の漸増により,相対的に動員される運動単位数が増加して振幅が増大する。また,周波数も同様の理由から反応する刺激頻度特性の相違のため,周波数スペクトルが低周波帯へ移行することで低下するため,この2条件が満たされた場合に筋疲労が確認されたことになる。しかし,低負荷での筋収縮では,出力要求に対して動員される運動単位数が少ないため,十分な活動交代が可能である。従って,本研究で用いた低い出力要求では,平均振幅は課題遂行時間の50%時点以降から有意に高値を示し,中間周波数では終了時にのみ有意な低値を示したと考えられた。APDF解析では,0-5%peak階級で30%時点以降有意に低下し,5-10%peak階級は10%時点,10-80%peakの間のすべての階級で,50%時点以降から有意な上昇を示した。0-5%peak階級の出現確率が減少するのは,筋電図波形が基線を通過する頻度が減少したことを示し,持続的筋収縮による筋活動の変化は,従来の概念よりもはるかに早期から発生していることが確認された。また,高い値の%peak階級の出現確率が増加することは,周波数の低い波形が複合干渉波形の中に混入していることを示している。本実験結果では,この出現確率は課題の後半以降に徐々に増加したが,中間周波数に反映されるほど大きな変化ではなかったと考えられた。さらに男女間の比較では,従来の指標では見られない相違を出現時期で示すことができ,今回の実験からAPDF解析は,筋疲労による筋活動の変化に高い感受性を持つことが示された。現在,中及び高強度出力での本解析による特性についても検討を加えており,継続的に報告をしたいと考えている。
【理学療法学研究としての意義】
筋収縮状態の変化は,理学療法プログラムの構築及び遂行時の重要な指標である。これを経時的にとらえることは,評価及び効果判定を正確に行う事が可能となるため意義深いと考える。
表面筋電図による筋疲労の評価は,最大負荷時に振幅及び周波数の低下,最大下負荷時に振幅の上昇と周波数の低下が起こるが,低出力時の周波数感受性は低く,筋疲労を確定しにくいとされている。本研究目的は,低出力での持続的筋収縮時の筋活動の変化を追跡し,振幅確率密度関数(Amplitude Probability Distribution Function:APDF)と従来の筋電図学的指標の経時的変化の相違から,より有効な筋疲労評価方法を検討する事である。
【方法】
健常成人14名(男性9名,女性5名,平均年齢:21.6±0.6歳)を対象とした。被験筋は利き手側の上腕二頭筋とし,最初に,肘関節屈曲90°位で壁面に固定された表面筋電計と同期したロードセルを最大努力で5秒間牽引し,その間の筋活動電位と発揮トルクから各々のピーク値を抽出した。次に同様の肢位にて,抽出されたピートルク値の25±5%の出力でロードセルを牽引し続け,この出力が連続して5秒以上維持できなくなった時点で課題終了とした。課題の持続時間を10等分し,各時点(開始時,10から90%時点及び終了時)の3秒間の波形から平均振幅及び中間周波数(高速フーリエ変換)を算出した。APDF解析は,筋活動電位のピーク値を100%として,各時点のデータ分布から5%毎の階級で度数分布を作成(0-100%peakを20階級に分割),各階級の全データ数に対する割合を算出し,各階級の出現確率とした。統計学的検定には一元配置分散分析を使用し,多重比較検定(Dunnett法)にて開始時に対する各時点の変化を,加えて,各指標間の男女差を対応のないt検定を用いて有意水準5%未満で検討した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に基づき,被験者は研究の目的と内容の説明を受け,同意の後に本研究に参加した。
【結果】
課題の平均持続時間は653.7±184.5秒で,男女間に有意差はなかった。平均振幅は50%時点以降終了時まで有意に高値を示したが(p<0.01),中間周波数は終了時との比較で初めて有意に低値を示した(p<0.05)。また,疲労の影響と思われる男女差を示さなかった。APDF解析では,0-5%peak階級で30%時点以降有意に低値を示したのに対して,5-10%peak階級では10%時点からすでに有意に高値を示した。さらに10-80%peak階級では,50%時点から大きい階級ほど有意性の出現が後半へと移行し,高値を示していた。また男女差を見ると,有意性の出現が5-50%peak間の各階級で女性が遅く,女性は50%peak以降で有意性がないのに対して,男性は65%peakまで有意性を示していた。
【考察】
持続的筋収縮時には,筋線維の疲労により収縮張力が低下し,要求された張力維持ために動員される運動単位数が増加すること,TypeII線維の易疲労性により動員数が漸減し,発揮張力が低いTypeI線維動員数の漸増により,相対的に動員される運動単位数が増加して振幅が増大する。また,周波数も同様の理由から反応する刺激頻度特性の相違のため,周波数スペクトルが低周波帯へ移行することで低下するため,この2条件が満たされた場合に筋疲労が確認されたことになる。しかし,低負荷での筋収縮では,出力要求に対して動員される運動単位数が少ないため,十分な活動交代が可能である。従って,本研究で用いた低い出力要求では,平均振幅は課題遂行時間の50%時点以降から有意に高値を示し,中間周波数では終了時にのみ有意な低値を示したと考えられた。APDF解析では,0-5%peak階級で30%時点以降有意に低下し,5-10%peak階級は10%時点,10-80%peakの間のすべての階級で,50%時点以降から有意な上昇を示した。0-5%peak階級の出現確率が減少するのは,筋電図波形が基線を通過する頻度が減少したことを示し,持続的筋収縮による筋活動の変化は,従来の概念よりもはるかに早期から発生していることが確認された。また,高い値の%peak階級の出現確率が増加することは,周波数の低い波形が複合干渉波形の中に混入していることを示している。本実験結果では,この出現確率は課題の後半以降に徐々に増加したが,中間周波数に反映されるほど大きな変化ではなかったと考えられた。さらに男女間の比較では,従来の指標では見られない相違を出現時期で示すことができ,今回の実験からAPDF解析は,筋疲労による筋活動の変化に高い感受性を持つことが示された。現在,中及び高強度出力での本解析による特性についても検討を加えており,継続的に報告をしたいと考えている。
【理学療法学研究としての意義】
筋収縮状態の変化は,理学療法プログラムの構築及び遂行時の重要な指標である。これを経時的にとらえることは,評価及び効果判定を正確に行う事が可能となるため意義深いと考える。