[1152] 病棟内ADL自立度判定における行動観察型評価スケールの有効性についての検討
キーワード:病棟内ADL自立度, 行動観察型評価, 認知機能
【はじめに,目的】
当院ではFunctional Balance Scale(FBS)や動作観察により担当理学療法士(PT)が安全性を判断し,高次脳機能障害の有無や長谷川式簡易知能評価スケール(HDR-S)を参考にして作業療法士,看護師(Ns)と相談のうえ病棟内ADL自立度を判断している。しかし,高次脳機能障害や認知症を有する症例ではその判断に難渋する。上内,島田らは病院独自の評価表を作成し,身体機能,認知機能に加えて行動分析評価の有用性を報告している。本研究では病棟内ADL動作に加えて,認知機能面の項目も追加した病棟内ADL行動観察型評価スケール(ADL-S)を作成し,病棟内ADL自立度判定の際に有効な指標と成りうるかを検討した。
【方法】
対象は平成25年8月以降に当院回復期リハビリテーション病棟入院中の症例とし,疾患,高次脳機能障害や認知症の有無,性別は不問とした。病棟内ADL自立度は,起居移乗・移動動作に介助を要さない症例を自立群とし,上記動作に見守りを要する症例,離棟などの危険行動がみられる症例を非自立群とした。ADL-Sは当院リスクレポートやPT・Nsへの問診,認知症行動障害尺度(DBD),臨床認知症評価法-日本版(CDR-J)を参考にして作成した。評価項目は全8項目(動作:ベッド周り,起居,整容動作,移動,トイレ,認知:記憶力,見当識,判断力)で,三人のNs(一人/日)が病棟内行動を観察し(日勤帯2日,夜勤帯1日),各項目について自立度を評価した(非自立0点,自立1点,合計得点0-24点)。ADL-Sの再現性については再テスト法により1週間以内に再評価し,検者間信頼性は日勤帯の結果より信頼性係数を算出した。自立度判定に使用する評価指標として,FBS,HDS-R,FIM,ADL-Sを使用した。統計的処理は,まず,ADL-Sの妥当性についてSpearmanの順位相関係数により各指標とADL-Sの相関を算出した。また,自立群と非自立群間で対応のないt-検定,Mann-WhitneyのU検定により項目分析を行った。群間比較において有意差の認められた項目を独立変数とし,現在の病棟内ADL自立度を従属変数としてロジスティック回帰分析を行い,ADL自立度に影響する因子を抽出した。また,抽出された因子についてreceiver operating characteristic(ROC)曲線からカットオフ値を算出した。なお,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者にはヘルシンキ宣言に従い,事前に研究の趣旨を説明し,文章により同意を得た。
【結果】
対象者の内訳は自立群19名,非自立群13名であった。基本属性は自立群/非自立群において中枢疾患14/9名,整形疾患5/4名,年齢(平均値±標準偏差)56.0±17.6/74.5±14.2歳であった。ADL-Sの再現性についてICC(1.1)=0.987,ICC(2.1)=0.935であった。ADL-Sと各指標との相関は,年齢(r=-0.61),FBS(r=0.42),HDS-R(r=0.65),FIM(r=0.58)で中等度の相関が認められた(p<0.05)。また,両群間で年齢,FBS(48.2±6.7/40.2±12.9点),HDS-R(23.4±8.1/17.0±7.4点),FIM(96.4±26.1/69.0±20.9点),ADL-S(22.7±1.7/8.7±5.9点)に有意差が認められた。ロジスティック回帰分析の結果,ADL-Sのみが抽出された(寄与率R2=0.91,的中率93.1%,オッズ比2.93,P<0.05,95%信頼区間(CI)=1.02-8.37)。ADL-SにおけるROC曲線の曲線下面積は0.99(95%CI=0.97-1.01)であり,カットオフ値は19点(感度94.7%,特異度92.3%)であった。
【考察】
当院では病棟内ADL自立度判定にはFBSやHDS-Rなどの指標を用いていたが,疾患や高次脳機能障害,認知症の有無に関わらず病棟内ADL自立度判定に対する行動観察型評価スケールであるADL-Sの有効性が示唆された。ADL-S(8項目2段階)はFIM(18項目7段階)との相関も高く,また,島田らの転倒関連行動測定表より項目数が少ない(19項目3段階)ことから,より簡便に評価可能で,かつ外的妥当性のある評価方法であると考えられる。セラピストによる身体機能,認知機能の評価結果を踏まえ,ADL-Sを用いてNsによる病棟内の「しているADL」を評価することで,PTとNs間で問題点を共有することができると考える。
【理学療法学研究としての意義】
回復期病棟において病棟内ADL自立度の判断は転倒や危険行動の予防のためにも重要となる。病棟とセラピストの情報共有のためにも行動観察型評価スケールを作成する意義があると考えられる。
当院ではFunctional Balance Scale(FBS)や動作観察により担当理学療法士(PT)が安全性を判断し,高次脳機能障害の有無や長谷川式簡易知能評価スケール(HDR-S)を参考にして作業療法士,看護師(Ns)と相談のうえ病棟内ADL自立度を判断している。しかし,高次脳機能障害や認知症を有する症例ではその判断に難渋する。上内,島田らは病院独自の評価表を作成し,身体機能,認知機能に加えて行動分析評価の有用性を報告している。本研究では病棟内ADL動作に加えて,認知機能面の項目も追加した病棟内ADL行動観察型評価スケール(ADL-S)を作成し,病棟内ADL自立度判定の際に有効な指標と成りうるかを検討した。
【方法】
対象は平成25年8月以降に当院回復期リハビリテーション病棟入院中の症例とし,疾患,高次脳機能障害や認知症の有無,性別は不問とした。病棟内ADL自立度は,起居移乗・移動動作に介助を要さない症例を自立群とし,上記動作に見守りを要する症例,離棟などの危険行動がみられる症例を非自立群とした。ADL-Sは当院リスクレポートやPT・Nsへの問診,認知症行動障害尺度(DBD),臨床認知症評価法-日本版(CDR-J)を参考にして作成した。評価項目は全8項目(動作:ベッド周り,起居,整容動作,移動,トイレ,認知:記憶力,見当識,判断力)で,三人のNs(一人/日)が病棟内行動を観察し(日勤帯2日,夜勤帯1日),各項目について自立度を評価した(非自立0点,自立1点,合計得点0-24点)。ADL-Sの再現性については再テスト法により1週間以内に再評価し,検者間信頼性は日勤帯の結果より信頼性係数を算出した。自立度判定に使用する評価指標として,FBS,HDS-R,FIM,ADL-Sを使用した。統計的処理は,まず,ADL-Sの妥当性についてSpearmanの順位相関係数により各指標とADL-Sの相関を算出した。また,自立群と非自立群間で対応のないt-検定,Mann-WhitneyのU検定により項目分析を行った。群間比較において有意差の認められた項目を独立変数とし,現在の病棟内ADL自立度を従属変数としてロジスティック回帰分析を行い,ADL自立度に影響する因子を抽出した。また,抽出された因子についてreceiver operating characteristic(ROC)曲線からカットオフ値を算出した。なお,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者にはヘルシンキ宣言に従い,事前に研究の趣旨を説明し,文章により同意を得た。
【結果】
対象者の内訳は自立群19名,非自立群13名であった。基本属性は自立群/非自立群において中枢疾患14/9名,整形疾患5/4名,年齢(平均値±標準偏差)56.0±17.6/74.5±14.2歳であった。ADL-Sの再現性についてICC(1.1)=0.987,ICC(2.1)=0.935であった。ADL-Sと各指標との相関は,年齢(r=-0.61),FBS(r=0.42),HDS-R(r=0.65),FIM(r=0.58)で中等度の相関が認められた(p<0.05)。また,両群間で年齢,FBS(48.2±6.7/40.2±12.9点),HDS-R(23.4±8.1/17.0±7.4点),FIM(96.4±26.1/69.0±20.9点),ADL-S(22.7±1.7/8.7±5.9点)に有意差が認められた。ロジスティック回帰分析の結果,ADL-Sのみが抽出された(寄与率R2=0.91,的中率93.1%,オッズ比2.93,P<0.05,95%信頼区間(CI)=1.02-8.37)。ADL-SにおけるROC曲線の曲線下面積は0.99(95%CI=0.97-1.01)であり,カットオフ値は19点(感度94.7%,特異度92.3%)であった。
【考察】
当院では病棟内ADL自立度判定にはFBSやHDS-Rなどの指標を用いていたが,疾患や高次脳機能障害,認知症の有無に関わらず病棟内ADL自立度判定に対する行動観察型評価スケールであるADL-Sの有効性が示唆された。ADL-S(8項目2段階)はFIM(18項目7段階)との相関も高く,また,島田らの転倒関連行動測定表より項目数が少ない(19項目3段階)ことから,より簡便に評価可能で,かつ外的妥当性のある評価方法であると考えられる。セラピストによる身体機能,認知機能の評価結果を踏まえ,ADL-Sを用いてNsによる病棟内の「しているADL」を評価することで,PTとNs間で問題点を共有することができると考える。
【理学療法学研究としての意義】
回復期病棟において病棟内ADL自立度の判断は転倒や危険行動の予防のためにも重要となる。病棟とセラピストの情報共有のためにも行動観察型評価スケールを作成する意義があると考えられる。