[1154] 6分間歩行試験の新たなる可能性
キーワード:6分間歩行試験, 慢性閉塞性肺疾患, desaturation
【はじめに,目的】
慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の運動耐容能評価法として,6分間歩行試験(6MWT)は簡便な検査指標として広く用いられる。6MWTに関しては,6分間歩行距離(6MWD)による生命予後などについては多くの報告があるが,6MWT中における息切れやDesaturationの関連性については確立されていない。臨床場面においても,労作時の息切れは強いが経皮的酸素飽和度(SpO2)に変化がない場合,もしくは労作時の息切れはないがSpO2低下を認める場面に遭遇することも少なくない。本研究の目的は,6MWT中の息切れとDesaturationについての関連性を検討することで,COPDの病態把握に対する6MWTの新たなる可能性を明らかにすることである。
【方法】
外来診療にて6MWTを実施したCOPD患者28名(男性:26名,女性:2名,70.04±8.93歳)を対象とした。対象者選択基準として。①在宅酸素療法(HOT)を使用していない ②肺機能および肺拡散能検査後,6MWT実施日までが2週間以内である ③右室収縮期圧<50mmHgと設定した。6MWTは,米国胸部学会ガイドラインに基づき実施し,6MWT中のSpO2測定に関して,スタープロダクト社製のWristOxTM6-MWを使用した。調査項目は,年齢,性別,Body Mass Index(BMI),GOLD重症度分類,肺機能(対標準肺活量;%VC,対標準努力性肺活量;%FVC,1秒量;FEV1.0,対標準1秒量;%FEV1.0,対標準肺拡散能;%DLco,%DLco/VA,対標準残気量;%RV,対標準機能的残気量;%FRV,対標準最大呼気流量;%PCF,対標準全肺気量;%IC),6MWD,6MWT中のSpO2最低値(SpO2(min)),SpO2最高値とSpO2最低値の差(ΔSpO2),修正Borg Scaleの最高値(B.S(max))を後方視的に調査した。SpO2(min),ΔSpO2,B.S(max),6MWDに対する各変数との相関関係について変数特性に応じ,Pearsonの積率相関係数,Spearman順位相関係数で解析した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,神戸大学大学院保健学研究科保健倫理委員会において承諾されている。また,対象者には試験内容を口頭および紙面にて説明し,同意を得て実施している。
【結果】
対象者データは,GOLD重症度分類(I:5名,II:11名,III:9名,IV:3名),BMI:22.17±3.78,%VC:82.06±21.05,%FVC:78.39±20.11,FEV1.0:1.64±0.53,%FEV1.0:60.28±20.72,%DLco:51.11±20.27,%DLco/VA:%DLco/VA:42.27±19.64,%RV:87.26±33.66,%FRV:94.24±34.79,6MWD:413.13±124.40であった。相関関係(相関係数[95%信頼区間],p value)は,6MWT中のSpO2(min)に関し,%DLco(r=0.67[0.40-0.84],p<0.01),%DLco/VA(r=0.60[0.29-0.80],p<0.01)で有意な相関を認め,同様にΔSpO2でも%DLco(r=-0.64[-0.82-0.35],p<0.01),%DLco/VA(r=-0.63[-0.81-0.33],p<0.01)で有意な相関を認めた。B.S(max)は,FEV1.0(r=-0.47[-0.71-0.11],p=0.01),%FEV1.0(r=-0.45[-0.71-0.10],p=0.02),%FVC(r=-0.41[-0.68-0.04],p=0.03)で有意な相関を認めた。6MWDは,FEV1.0(r=0.58[0.27-0.79],p<0.01),%FEV1.0(r=0.40[0.04-0.68],p=0.03),%FVC(r=0.41[0.04-0.68],p=0.03),%PCF(r=0.41[0.04-0.68],p=0.03)で有意な相関を認めた。
【考察】
本研究により,6MWT中のSpO2(min)およびΔSpO2は%DLco,%DLco/VAが関連し,息切れはFEV1.0,%FEV1.0,%FVCが関連し,6MWDはFEV1.0,%FEV1.0,%FVC,%PEFが関連していた。これは,desaturationは気腫優位型病変が非常に強く関係し,一方で息切れと6MWDは気道優位型病変が関係することが示唆される。現在のCOPD診断はスパイロメトリでの肺機能検査が実施され,GOLD重症度分類においても%FEV1.0が基準である。しかし,本研究から現在の重症度分類のみでは,労作時のdesaturationについて必ずしも反映せず,肺機能検査のみでは不十分である可能性が示唆された。desaturationに強い相関を認めた%DLco,%DLco/VAは,全ての医療機関で測定可能ではない。特に,COPD未診断患者の多くを占める在宅場面での評価は,さらに困難である。また,高齢者の肺機能検査は,正確な評価が困難との報告もある。COPD患者の大半は高齢者であり,診断には肺機能検査に加えdesaturation評価の観点からも6MWTを積極的に実施する必要があると考える。そして,労作時の息切れや低酸素血症に対するHOTの有用性は明らかになっているが,HOT導入基準に関し安静時の動脈血酸素分圧(PaO2)で検討することが多いと報告され,労作時に低酸素血症を呈しながらも安静時PaO2が適応基準外でありHOTを導入されていない例は少なくない。今後,6MWTによりCOPD病態の簡便な判別が可能になることや適切な酸素流量処方評価法への可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
健康日本21にCOPDが追加され,6MWTに対する保険診療報酬も認可されたことでCOPDに対する注目が集まっている。在宅医療への転換が図られる中,理学療法学的観点から6MWTという簡便な検査方法の新たなる解釈を提言する非常に意義のある研究であると考える。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の運動耐容能評価法として,6分間歩行試験(6MWT)は簡便な検査指標として広く用いられる。6MWTに関しては,6分間歩行距離(6MWD)による生命予後などについては多くの報告があるが,6MWT中における息切れやDesaturationの関連性については確立されていない。臨床場面においても,労作時の息切れは強いが経皮的酸素飽和度(SpO2)に変化がない場合,もしくは労作時の息切れはないがSpO2低下を認める場面に遭遇することも少なくない。本研究の目的は,6MWT中の息切れとDesaturationについての関連性を検討することで,COPDの病態把握に対する6MWTの新たなる可能性を明らかにすることである。
【方法】
外来診療にて6MWTを実施したCOPD患者28名(男性:26名,女性:2名,70.04±8.93歳)を対象とした。対象者選択基準として。①在宅酸素療法(HOT)を使用していない ②肺機能および肺拡散能検査後,6MWT実施日までが2週間以内である ③右室収縮期圧<50mmHgと設定した。6MWTは,米国胸部学会ガイドラインに基づき実施し,6MWT中のSpO2測定に関して,スタープロダクト社製のWristOxTM6-MWを使用した。調査項目は,年齢,性別,Body Mass Index(BMI),GOLD重症度分類,肺機能(対標準肺活量;%VC,対標準努力性肺活量;%FVC,1秒量;FEV1.0,対標準1秒量;%FEV1.0,対標準肺拡散能;%DLco,%DLco/VA,対標準残気量;%RV,対標準機能的残気量;%FRV,対標準最大呼気流量;%PCF,対標準全肺気量;%IC),6MWD,6MWT中のSpO2最低値(SpO2(min)),SpO2最高値とSpO2最低値の差(ΔSpO2),修正Borg Scaleの最高値(B.S(max))を後方視的に調査した。SpO2(min),ΔSpO2,B.S(max),6MWDに対する各変数との相関関係について変数特性に応じ,Pearsonの積率相関係数,Spearman順位相関係数で解析した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,神戸大学大学院保健学研究科保健倫理委員会において承諾されている。また,対象者には試験内容を口頭および紙面にて説明し,同意を得て実施している。
【結果】
対象者データは,GOLD重症度分類(I:5名,II:11名,III:9名,IV:3名),BMI:22.17±3.78,%VC:82.06±21.05,%FVC:78.39±20.11,FEV1.0:1.64±0.53,%FEV1.0:60.28±20.72,%DLco:51.11±20.27,%DLco/VA:%DLco/VA:42.27±19.64,%RV:87.26±33.66,%FRV:94.24±34.79,6MWD:413.13±124.40であった。相関関係(相関係数[95%信頼区間],p value)は,6MWT中のSpO2(min)に関し,%DLco(r=0.67[0.40-0.84],p<0.01),%DLco/VA(r=0.60[0.29-0.80],p<0.01)で有意な相関を認め,同様にΔSpO2でも%DLco(r=-0.64[-0.82-0.35],p<0.01),%DLco/VA(r=-0.63[-0.81-0.33],p<0.01)で有意な相関を認めた。B.S(max)は,FEV1.0(r=-0.47[-0.71-0.11],p=0.01),%FEV1.0(r=-0.45[-0.71-0.10],p=0.02),%FVC(r=-0.41[-0.68-0.04],p=0.03)で有意な相関を認めた。6MWDは,FEV1.0(r=0.58[0.27-0.79],p<0.01),%FEV1.0(r=0.40[0.04-0.68],p=0.03),%FVC(r=0.41[0.04-0.68],p=0.03),%PCF(r=0.41[0.04-0.68],p=0.03)で有意な相関を認めた。
【考察】
本研究により,6MWT中のSpO2(min)およびΔSpO2は%DLco,%DLco/VAが関連し,息切れはFEV1.0,%FEV1.0,%FVCが関連し,6MWDはFEV1.0,%FEV1.0,%FVC,%PEFが関連していた。これは,desaturationは気腫優位型病変が非常に強く関係し,一方で息切れと6MWDは気道優位型病変が関係することが示唆される。現在のCOPD診断はスパイロメトリでの肺機能検査が実施され,GOLD重症度分類においても%FEV1.0が基準である。しかし,本研究から現在の重症度分類のみでは,労作時のdesaturationについて必ずしも反映せず,肺機能検査のみでは不十分である可能性が示唆された。desaturationに強い相関を認めた%DLco,%DLco/VAは,全ての医療機関で測定可能ではない。特に,COPD未診断患者の多くを占める在宅場面での評価は,さらに困難である。また,高齢者の肺機能検査は,正確な評価が困難との報告もある。COPD患者の大半は高齢者であり,診断には肺機能検査に加えdesaturation評価の観点からも6MWTを積極的に実施する必要があると考える。そして,労作時の息切れや低酸素血症に対するHOTの有用性は明らかになっているが,HOT導入基準に関し安静時の動脈血酸素分圧(PaO2)で検討することが多いと報告され,労作時に低酸素血症を呈しながらも安静時PaO2が適応基準外でありHOTを導入されていない例は少なくない。今後,6MWTによりCOPD病態の簡便な判別が可能になることや適切な酸素流量処方評価法への可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
健康日本21にCOPDが追加され,6MWTに対する保険診療報酬も認可されたことでCOPDに対する注目が集まっている。在宅医療への転換が図られる中,理学療法学的観点から6MWTという簡便な検査方法の新たなる解釈を提言する非常に意義のある研究であると考える。