[1156] 消化器外科手術後患者の身体活動量と運動機能の関連
Keywords:身体活動量, 運動機能, 周術期
【はじめに,目的】周術期のリハビリテーション(以下,リハ)の目的は,呼吸器合併症予防とADL・運動機能の早期改善である。そのための介入としては,肺拡張手技や排痰援助に加え早期離床,運動療法を実施している。しかし,術後のリハプログラムは順調に進行していても,疼痛や起立性低血圧,ドレーンや点滴類の管理,疲労感などの術後の様々な問題で離床がリハの介入時間だけにとどまっていることも少なくない。その結果,身体活動量(physical activity:以下,PA)の低下が運動機能低下を招き,ADL・運動機能の早期改善の弊害になることが示唆される。そこで,入院中の消化器外科手術後患者のPAと運動機能の推移を明らかにし,PAと運動機能の関連について検討すること本研究の目的とした。
【方法】対象は2012年7月から2013年9月の期間に消化器外科手術を受け,手術前後のリハを実施した21例(平均年齢72.1±8.7歳,男性16例,女性5例,食道癌8例,胃癌3例,膵臓癌7例,大腸癌3例)である。これらを対象に,PA,運動機能評価として下肢筋力,バランス能力,運動耐容能を測定し,術後棟内歩行可能となった日を調査した。PAは,万歩計(テルモ活動量計MT-KT01)を用いて術前のリハ開始日から退院前日までの歩数を測定し,リハ開始日から手術前日までの術前,術後翌日から1週間および術後1週から2週までの1週間の平均の中央値(歩/日)を算出した。下肢筋力はアニマ社製μTas-MF01を用い,等尺性膝伸展筋力を測定した。バランス能力は片脚立位時間を,運動耐容能は6分間歩行距離を測定した。運動機能評価は,術前,術後1週,術後2週に行い,6分間歩行距離のみ術前,術後2週に実施した。また,PAの低下と運動機能との関連を明らかにするために,PAおよび運動機能の変化率も算出した。PA変化率は,{(術後2週のPA-術前PA)/術前PA×100}で求め,運動機能の変化率も同様に算出した。以上から得られた結果より,術前,術後1週,術後2週のPA,運動機能の推移をFriedman検定,Bonfferoni法,Wilcoxonの符号付き順位検定を用いて検討した。そして,PAと運動機能の変化率との関連について,Spearmanの順位相関係数を用いて検討した。なお,危険率5%未満を有意差判定の基準とし,測定値はすべて中央値(四分位範囲)で示した。
【倫理的配慮,説明と同意】倫理的配慮として,当院臨床試験審査委員会の承認を得た(承認番号:第2314号)。すべての対象者にヘルシンキ宣言に沿って本研究の評価の趣旨,方法,およびリスクを説明し,同意の得られたものみを対象とした。
【結果】1.PAの推移 PAは術前,術後1週,術後2週の順に,2279(3378)歩/日,410(461)歩/日,1170(2344)歩/日であった(p<0.05)。術後1週のPAは術前の18.0%,術後2週は術前の51.3%であり,ともに術前よりも有意に低値を示した(p<0.05)。なお,術前,術後1週,術後2週のPAは,性別,手術部位別で差を認めず,年齢との間にも相関は認めなかった。また,術後棟内歩行可能となったのは術後2(3.5)日であり,その症例の割合は術後1週で90.5%,術後2週で100%であった。
2.運動機能の推移 等尺性膝伸展筋力は,術前,術後1週,術後2週の順に,28.8(11.5)kgf,23.8(13.5)kgf,26.4(11.4)kgfであり(p<0.05),術前と術後1週の間に有意差を認めた。片脚立位時間の推移は,術前49.5(56.2)秒,術後1週19.9(43.2)秒,術後2週53.4(37.4)秒であり(p<0.05),術後1週と術後2週の間に有意差を認めた。6分間歩行距離は,術前400(160)m,術後2週325(225)mであり,術後に低値を示した(p<0.05)。
3.PAと運動機能の関連 PA,等尺性膝伸展筋力,片脚立位時間,6分間歩行距離の変化率は順に,-12.7(0.76)%,-7.5(18.9)%,0(13.2)%,-15.8(37.1)%であった。PAと等尺性膝伸展筋力,6分間歩行距離の変化率との間には有意な相関関係を認め,その相関係数は順に0.54,0.58であった(p<0.05)。
【考察】消化器外科手術後のPAは術前に比較し顕著に低下しており,全例が棟内歩行可能となっている術後2週の時点においてもPAは術前の値まで回復していないことが明らかとなった。また,PAと同様に,術後は運動機能も低下していた。そして,PAの変化率は下肢筋力および運動耐容能の変化率と相関関係にあり,術後のPA低下は運動機能低下と関連があることも明らかとなった。以上のことから,消化器外科手術後患者の運動機能の低下予防や早期改善には,従来の早期離床に加えて,その後のPAを高める必要性があるものと考えられた。今後の課題は,術後のPA低下要因を明らにすること,および術後に運動機能を低下させないPA水準を検討することである。
【理学療法学研究としての意義】消化器外科手術後のPAと運動機能の推移とそれらの関連を明らかにした研究であり,周術期の呼吸リハの介入方法を身体活動量の面から新たに検討するものである。
【方法】対象は2012年7月から2013年9月の期間に消化器外科手術を受け,手術前後のリハを実施した21例(平均年齢72.1±8.7歳,男性16例,女性5例,食道癌8例,胃癌3例,膵臓癌7例,大腸癌3例)である。これらを対象に,PA,運動機能評価として下肢筋力,バランス能力,運動耐容能を測定し,術後棟内歩行可能となった日を調査した。PAは,万歩計(テルモ活動量計MT-KT01)を用いて術前のリハ開始日から退院前日までの歩数を測定し,リハ開始日から手術前日までの術前,術後翌日から1週間および術後1週から2週までの1週間の平均の中央値(歩/日)を算出した。下肢筋力はアニマ社製μTas-MF01を用い,等尺性膝伸展筋力を測定した。バランス能力は片脚立位時間を,運動耐容能は6分間歩行距離を測定した。運動機能評価は,術前,術後1週,術後2週に行い,6分間歩行距離のみ術前,術後2週に実施した。また,PAの低下と運動機能との関連を明らかにするために,PAおよび運動機能の変化率も算出した。PA変化率は,{(術後2週のPA-術前PA)/術前PA×100}で求め,運動機能の変化率も同様に算出した。以上から得られた結果より,術前,術後1週,術後2週のPA,運動機能の推移をFriedman検定,Bonfferoni法,Wilcoxonの符号付き順位検定を用いて検討した。そして,PAと運動機能の変化率との関連について,Spearmanの順位相関係数を用いて検討した。なお,危険率5%未満を有意差判定の基準とし,測定値はすべて中央値(四分位範囲)で示した。
【倫理的配慮,説明と同意】倫理的配慮として,当院臨床試験審査委員会の承認を得た(承認番号:第2314号)。すべての対象者にヘルシンキ宣言に沿って本研究の評価の趣旨,方法,およびリスクを説明し,同意の得られたものみを対象とした。
【結果】1.PAの推移 PAは術前,術後1週,術後2週の順に,2279(3378)歩/日,410(461)歩/日,1170(2344)歩/日であった(p<0.05)。術後1週のPAは術前の18.0%,術後2週は術前の51.3%であり,ともに術前よりも有意に低値を示した(p<0.05)。なお,術前,術後1週,術後2週のPAは,性別,手術部位別で差を認めず,年齢との間にも相関は認めなかった。また,術後棟内歩行可能となったのは術後2(3.5)日であり,その症例の割合は術後1週で90.5%,術後2週で100%であった。
2.運動機能の推移 等尺性膝伸展筋力は,術前,術後1週,術後2週の順に,28.8(11.5)kgf,23.8(13.5)kgf,26.4(11.4)kgfであり(p<0.05),術前と術後1週の間に有意差を認めた。片脚立位時間の推移は,術前49.5(56.2)秒,術後1週19.9(43.2)秒,術後2週53.4(37.4)秒であり(p<0.05),術後1週と術後2週の間に有意差を認めた。6分間歩行距離は,術前400(160)m,術後2週325(225)mであり,術後に低値を示した(p<0.05)。
3.PAと運動機能の関連 PA,等尺性膝伸展筋力,片脚立位時間,6分間歩行距離の変化率は順に,-12.7(0.76)%,-7.5(18.9)%,0(13.2)%,-15.8(37.1)%であった。PAと等尺性膝伸展筋力,6分間歩行距離の変化率との間には有意な相関関係を認め,その相関係数は順に0.54,0.58であった(p<0.05)。
【考察】消化器外科手術後のPAは術前に比較し顕著に低下しており,全例が棟内歩行可能となっている術後2週の時点においてもPAは術前の値まで回復していないことが明らかとなった。また,PAと同様に,術後は運動機能も低下していた。そして,PAの変化率は下肢筋力および運動耐容能の変化率と相関関係にあり,術後のPA低下は運動機能低下と関連があることも明らかとなった。以上のことから,消化器外科手術後患者の運動機能の低下予防や早期改善には,従来の早期離床に加えて,その後のPAを高める必要性があるものと考えられた。今後の課題は,術後のPA低下要因を明らにすること,および術後に運動機能を低下させないPA水準を検討することである。
【理学療法学研究としての意義】消化器外科手術後のPAと運動機能の推移とそれらの関連を明らかにした研究であり,周術期の呼吸リハの介入方法を身体活動量の面から新たに検討するものである。