[1157] 仰臥位,側臥位,前傾側臥位における心圧迫を受ける肺体積の変化
キーワード:体位変換, 心圧迫, 肺気量位
【はじめに,目的】
呼吸理学療法では,気道内分泌物の移動や換気血流比の改善などを目的に体位変換を行う。体位の変化は心臓などの縦隔組織の形状や肺野との位置関係にも大きな影響を与える。縦隔組織による肺野の圧迫は,その部位の肺野の拡張を抑制することが報告されている。しかし,心臓を中心とした縦隔組織により,どの部位の肺野がどの程度圧迫されているかについて,詳細に検討した報告はない。もし,体位による心圧迫部位と体積の違いが十分把握できれば,体位変換時の参考資料となると考えられる。本研究の目的は,体位変換に用いられる頻度の高い仰臥位,側臥位,前傾側臥位における心臓により圧迫を受ける肺野の部位およびその体積の違いを明らかにすることである。
【方法】
対象は,健常人8名(男性6名,女性2名,年齢29.0±9.2歳)であった。測定体位は,仰臥位,左右の側臥位・前傾側臥位とした。撮像時の肺気量位は,機能的残気量(FRC)位,全肺気量(TLC)位,残気量(RV)位とした。撮像装置は,1.5TのMRI(東芝EXCELART Vantage1.5T)を用いた。各被検者に各体位にて各肺気量位での息止めを30秒程度行わせ撮像した。撮像は,三次元構築画像撮像として,腹側から背側方向へ肺全体の撮像を冠状断で行った。得られたMRI画像から画像解析ソフトimageJを用いて以下の分析を行った。まず,各画像の①左右別の肺面積,②心臓により重力方向に圧迫を受けている左右別の圧迫面積,を求めた。その後,円錐近位法を用いて各肺気量位別に左右の肺面積を合計することにより肺体積を算出し,各体位でのRV,FRC,TLCを算出した。さらに,各肺気量位別に左右の圧迫面積を合計することにより心臓による肺の圧迫体積を算出した。また,各肺気量位での肺体積で除すことにより心圧迫率を求めた。
【倫理的配慮,説明と同意】
研究の趣旨及び研究協力により対象者に発生が予測される利益・不利益について書面を用いて説明を行い,同意を得た者を対象者とした。
【結果】
両肺圧迫体積は,FRCでは仰臥位304±66cm3,右側臥位363±97.cm3,左側臥位218±53 cm3,右前傾側臥位102±34 cm3,左前傾側臥位90±71 cm3,TLCでは仰臥位398±65cm3,右側臥位642±150.cm3,左側臥位394±108 cm3,右前傾側臥位135±96cm3,左前傾側臥位57±51cm3,RVでは仰臥位256±58cm3,右側臥位344±99 cm3,左側臥位210±50cm3,右前傾側臥位43±34cm3,左前傾側臥位31±27cm3であった。いずれの肺気量位においても,圧迫体積は右側臥位が他の肢位に比べ有意に高く,左右前傾側臥位は他の肢位に比べ有意に低い値を示した。心圧迫率は,FRCでは仰臥位11.2±2.3%,右側臥位11.7±2.3%,左側臥位6.9±1.3%,右前傾側臥位3.4±1.0%,左前傾側臥位2.9±2.1%,TLCでは仰臥位17.4±4.0%,右側臥位25.8±7.8%,左側臥位15.8±4.5%,右前傾側臥位6.4±5.7%,左前傾側臥位2.3±2.0%,RVでは仰臥位5.0±0.8%,右側臥位6.6±1.4%,左側臥位4.1±1.0%,右前傾側臥位0.9±0.7%,左前傾側臥位0.5±0.4%であった。どの肺気量位においても,心圧迫率は,左右の前傾側臥位が他の肢位に比べ有意に低値を示した。TLC,RVでは右側臥位が他の肢位に比べ有意に高値を示した。FRCでの心圧迫率は,右側臥位と仰臥位の間に有意な差はなく,両肢位とも左側臥位に比べ有意に高値を示した。心圧迫部位は,仰臥位では主に左下背部,側臥位では下側肺野の下部であった。前傾側臥位では,下側肺野の下腹側部の一部に限られていた。
【考察】
心臓により圧迫を受ける肺体積は,前傾側臥位が仰臥位,側臥位に比べ低いことが分かった。心臓は胸腔内の腹側に位置しており,前傾側臥位では重力の影響により心臓が胸郭前壁方向に移動するため,その部位が心臓による圧迫を受ける。それにより肺野自体が受ける心圧迫が減少したと考えられる。今回の結果でも,前傾側臥位の心圧迫部位は,下側肺野の下腹側部に限られていた。今回の結果より,上肺野に位置する肺野の拡張を促すための体位変換として積極的に用いられる側臥位は,下側に位置する肺野の心圧迫面積や圧迫率としては高く,心圧迫という観点からは,側臥位より左右の前傾側臥位が有用な姿勢であることがわかった。
【理学療法学研究としての意義】
体位変換を選択する一要因として,体位の違いによる心圧迫部位,体積の変化が把握できたことは,呼吸理学療法時に体位変換を行う体位の選択において有用な情報と考えられる。
呼吸理学療法では,気道内分泌物の移動や換気血流比の改善などを目的に体位変換を行う。体位の変化は心臓などの縦隔組織の形状や肺野との位置関係にも大きな影響を与える。縦隔組織による肺野の圧迫は,その部位の肺野の拡張を抑制することが報告されている。しかし,心臓を中心とした縦隔組織により,どの部位の肺野がどの程度圧迫されているかについて,詳細に検討した報告はない。もし,体位による心圧迫部位と体積の違いが十分把握できれば,体位変換時の参考資料となると考えられる。本研究の目的は,体位変換に用いられる頻度の高い仰臥位,側臥位,前傾側臥位における心臓により圧迫を受ける肺野の部位およびその体積の違いを明らかにすることである。
【方法】
対象は,健常人8名(男性6名,女性2名,年齢29.0±9.2歳)であった。測定体位は,仰臥位,左右の側臥位・前傾側臥位とした。撮像時の肺気量位は,機能的残気量(FRC)位,全肺気量(TLC)位,残気量(RV)位とした。撮像装置は,1.5TのMRI(東芝EXCELART Vantage1.5T)を用いた。各被検者に各体位にて各肺気量位での息止めを30秒程度行わせ撮像した。撮像は,三次元構築画像撮像として,腹側から背側方向へ肺全体の撮像を冠状断で行った。得られたMRI画像から画像解析ソフトimageJを用いて以下の分析を行った。まず,各画像の①左右別の肺面積,②心臓により重力方向に圧迫を受けている左右別の圧迫面積,を求めた。その後,円錐近位法を用いて各肺気量位別に左右の肺面積を合計することにより肺体積を算出し,各体位でのRV,FRC,TLCを算出した。さらに,各肺気量位別に左右の圧迫面積を合計することにより心臓による肺の圧迫体積を算出した。また,各肺気量位での肺体積で除すことにより心圧迫率を求めた。
【倫理的配慮,説明と同意】
研究の趣旨及び研究協力により対象者に発生が予測される利益・不利益について書面を用いて説明を行い,同意を得た者を対象者とした。
【結果】
両肺圧迫体積は,FRCでは仰臥位304±66cm3,右側臥位363±97.cm3,左側臥位218±53 cm3,右前傾側臥位102±34 cm3,左前傾側臥位90±71 cm3,TLCでは仰臥位398±65cm3,右側臥位642±150.cm3,左側臥位394±108 cm3,右前傾側臥位135±96cm3,左前傾側臥位57±51cm3,RVでは仰臥位256±58cm3,右側臥位344±99 cm3,左側臥位210±50cm3,右前傾側臥位43±34cm3,左前傾側臥位31±27cm3であった。いずれの肺気量位においても,圧迫体積は右側臥位が他の肢位に比べ有意に高く,左右前傾側臥位は他の肢位に比べ有意に低い値を示した。心圧迫率は,FRCでは仰臥位11.2±2.3%,右側臥位11.7±2.3%,左側臥位6.9±1.3%,右前傾側臥位3.4±1.0%,左前傾側臥位2.9±2.1%,TLCでは仰臥位17.4±4.0%,右側臥位25.8±7.8%,左側臥位15.8±4.5%,右前傾側臥位6.4±5.7%,左前傾側臥位2.3±2.0%,RVでは仰臥位5.0±0.8%,右側臥位6.6±1.4%,左側臥位4.1±1.0%,右前傾側臥位0.9±0.7%,左前傾側臥位0.5±0.4%であった。どの肺気量位においても,心圧迫率は,左右の前傾側臥位が他の肢位に比べ有意に低値を示した。TLC,RVでは右側臥位が他の肢位に比べ有意に高値を示した。FRCでの心圧迫率は,右側臥位と仰臥位の間に有意な差はなく,両肢位とも左側臥位に比べ有意に高値を示した。心圧迫部位は,仰臥位では主に左下背部,側臥位では下側肺野の下部であった。前傾側臥位では,下側肺野の下腹側部の一部に限られていた。
【考察】
心臓により圧迫を受ける肺体積は,前傾側臥位が仰臥位,側臥位に比べ低いことが分かった。心臓は胸腔内の腹側に位置しており,前傾側臥位では重力の影響により心臓が胸郭前壁方向に移動するため,その部位が心臓による圧迫を受ける。それにより肺野自体が受ける心圧迫が減少したと考えられる。今回の結果でも,前傾側臥位の心圧迫部位は,下側肺野の下腹側部に限られていた。今回の結果より,上肺野に位置する肺野の拡張を促すための体位変換として積極的に用いられる側臥位は,下側に位置する肺野の心圧迫面積や圧迫率としては高く,心圧迫という観点からは,側臥位より左右の前傾側臥位が有用な姿勢であることがわかった。
【理学療法学研究としての意義】
体位変換を選択する一要因として,体位の違いによる心圧迫部位,体積の変化が把握できたことは,呼吸理学療法時に体位変換を行う体位の選択において有用な情報と考えられる。