第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 運動器理学療法 口述

骨・関節11

2014年5月31日(土) 15:45 〜 16:35 第11会場 (5F 501)

座長:河村廣幸(森ノ宮医療大学理学療法学科)

運動器 口述

[1165] 両側人工膝関節置換術後の皮膚可動性に対する軟部組織モビラーゼーションの効果

板倉友紀子1, 西村直樹1, 熊沢好悦1, 小平博之2, 青木啓成1 (1.相澤病院運動器リハ部門, 2.相澤病院整形外科)

キーワード:人工膝関節置換術, 皮膚可動性, 軟部組織モビライゼーション

【はじめに,目的】
人工膝関節置換術(以下TKA)後,創部周囲の皮膚および皮下組織の癒着が膝関節屈曲制限や疼痛の一因であると感じる場面が多い。本研究の目的は,術後早期から皮膚可動性を意識した軟部組織モビライゼーション(以下STM)を施行し皮膚可動性の拡大が膝関節可動域の改善と疼痛に与える有効性を検討することである。
【対象と方法】
平成25年3月から10月までに両側TKAを施行された7名(全例女性,年齢73.4±5.5歳,BMI25.3±3.4,Kellgren-Laerenc分類:III右3名/左2名,IV右4名/左5名,FTA:右183.1±4.0,左186.7±4.8,術前膝関節屈曲可動域:右130.0±8.7度,左129.3±10.6度,在院日数:26.3±0.8日,全例同一術者により手術が行われmid-vastus approachでPosterior stabilizedの機種を使用)を対象とした。方法はTKAを施行した両側膝関節において右膝関節のみにSTMを実施した。右側を治療側とし左側は非治療側と定義した。手術翌日のドレーン抜去後よりリハビリを開始し,術後13日目までは両側に標準的な理学療法を施行した。術後14日目から20日目までの7日間を治療介入期間とし標準的な理学療法を施行した後,右膝関節のみに皮膚に対するSTMを膝関節屈曲位で5分,伸展位で5分の合計10分間施行した。皮膚可動性の測定方法は,膝関節最大伸展位で膝関節裂隙上5cm(以下膝蓋骨上部),膝蓋骨直上部,膝蓋骨下端と脛骨粗面の中点(以下膝蓋靭帯部)の3カ所にマーキングし,そのポイントを徒手的に近位・遠位方向(以下長軸),内側・外側方向(以下短軸)に移動させ長軸と短軸の移動量をそれぞれ測定した。事前に健常者下肢にて上記部位を測定し,級内相関係数(以下ICC)を算出。検者内信頼性ICC(1,1),検者間信頼性(2,1)ともに測定の信頼性が高いことを確認した。その他,評価項目として治療期間中の膝関節屈曲可動域(仰臥位にて股関節屈曲90度で測定)と安静時痛,動作時痛,荷重時痛をNumeric Rating Scale(以下NRS)を用いて評価した。各評価の術後14日目と20日目の測定値の差を治療期間中の変化量とし,7名の平均変化量を算出した。統計解析はMann-Whitney検定を用いて有意水準は5%とした。
【説明と同意】
本研究は当院の臨床研究倫理委員会で審議を受け,医学的,倫理的に適切であり,かつ被験者の人権が守られていることが承認されており,ヘルシンキ宣言に沿った研究である。
【結果】
皮膚可動性の変化量は,膝蓋骨上部は長軸:右9.0±5.6mm,左5.1±3.2mm,短軸:右13.4±5.4mm,左7.4±3.6mm,膝蓋骨直上部は長軸:右4.3±3.2mm,左4.6±2.1mm,短軸:右4.4±2.7mm,左3.5±2.4mm,膝蓋靭帯部は,長軸:右4.9±3.2mm,左2.3±3.9mm,短軸:右5.9±2.5mm,左5.0±2.4mmであった。膝蓋骨直上以外は治療側において皮膚可動性は改善傾向を示し,膝蓋骨上部の短軸においてのみ統計学的に有意な改善を認めた(P<0.05)。膝関節可動域の平均変化量は,右11.4±5.6度,左12.9±4.9度で有意差を認めなかった。疼痛の変化量は,安静時:右-1.0±1.0,左-0.9±1.2,動作時:右-1.3±1.3,左-1.3±1.6,荷重時:右-0.4±0.8,左0.0±1.3であり安静時と荷重時において治療側が軽減傾向にあった。
【考察】
本研究より皮膚および皮下組織の可動性の改善は治療側において膝蓋骨上部と膝蓋靭帯部で高い傾向にあった。また,安静時と荷重時においては統計学的な有意差を認めないものの治療側が疼痛の軽減が得られる傾向を認めた。これらより,TKA術後の創部周囲の管理においては皮膚および皮下組織の可動性を考慮して行うSTMは有用であると考えられた。しかし,本研究からは皮膚および皮下の可動性の改善が膝関節屈曲可動域の拡大に効果があるとは言えなかった。この理由としては,TKAは関節への侵襲が大きいことから,術後早期においては関節可動域制限の原因が皮膚のみではなく筋,腱,靱帯,関節包等のより深層の組織が影響していると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
TKA術後早期から皮膚可動性を意識したSTMは,膝蓋骨上部,膝蓋靱帯部の皮膚可動性の拡大に有用である。治療上,皮膚の可動性は疼痛の改善と関係があることが見いだせたことは理学療法の治療技術の発展において意義のあることといえる。