[1167] 後方安定型人工膝関節全置換術後患者の脛骨前方弛緩性(Laxity)と自動他動膝屈曲関節可動域,臨床症状との関連について
Keywords:人工膝関節, 関節可動域, 自覚症状
【はじめに,目的】人工膝関節全置換術(TKA)後の膝屈曲において大腿骨のロールバックは重要なキネマティックスの一つである。BanksらによればTKA膝の大腿骨ロールバック量と膝屈曲関節可動域(Range of motion:ROM)には相関があったとされている。大腿骨のロールバックは相対的に脛骨前方移動が起こるため,脛骨前方弛緩性(Laxity)の低下は,膝屈曲ROMを低下させると考えた。今回,後方安定型TKA(PS-TKA)術後患者の脛骨前方Laxityと膝屈曲ROMの関連を検討し,ROM制限の一考察にしたいと考えた。またLaxityの増大は臨床症状悪化が危惧されるため,脛骨前方Laxityと自覚症状との関連も検討した。
【方法】対象は当院にてPS-TKA施行された術後患者23名28膝(男性6名,女性17名。平均±SD:術後経過月数9.3±8.4ヶ月・年齢75.3±6.9歳・身長152.4±9.0cm・体重61.4±13.1kg・大腿脛骨角173.7±3.0°)とした。全例BIOMET社TKA(Vanguard-PS)を使用した。脛骨前方Laxityの計測には十字靭帯機能検査機器であるKS-measure(日本シグマックス株式会社)を使用し,膝屈曲20°・50°・80°で15lbsのストレス下で脛骨前方移動量3回計測し平均値を算出した(Anterior tibial translation:ATT)。本研究に先立ち健常成人4名3施行でATT計測の検者内信頼性を検定したところ,級内相関係数は膝屈曲20°が0.93,50°が0.92,80°が0.82であった。膝屈曲ROM測定は自動(A-ROM)・他動(P-ROM)で行い,背臥位で足底を接地したまま膝屈曲しゴニオメーターを使用し測定した。足底と床面の間にはビニール袋を2枚挟み摩擦が一定になるようにした。A-ROMは患者に「足を地面につけたまま膝を出来るだけ曲げてみてください」という指示で自動的に屈曲し計測,P-ROMは脛骨粗面下20cmの部位にHand-held dynamometer(アニマ社製µTas F-1)を使用し,尾側から頭側に40Nのストレスをかけ他動的に膝関節を屈曲し計測した。自覚症状の指標として膝の疼痛VAS(最大10cm)とoxford knee scoreの質問10(0-4点,高い程良好:OXS)「突然膝が抜けるように感じたり,崩れてしまうことはありますか?」を使用し,各角度のATTとの相関を検討した。統計処理に関して各角度でのATTとA-ROM・P-ROM・各臨床症状の相関にスピアマン順位相関係数検定を使用した。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当院の倫理審査委員会承認(第25-17号)を受け実施した。全ての対象にヘルシンキ宣言に則り倫理的配慮をし,書面で本研究の説明を行い,同意を得た。
【結果】各測定の中央値(IQR)は以下の通り。ATTは屈曲20°が5.9(3.6to7.4)mm,50°が6.2(4.4to7.6)mm,80°が4.2(3.3to5.9)mm。A-ROMが110(100to120)°,P-ROMが117.5(105to125)°。疼痛VASが2.5(0.5to3.9)cm,OXSが4(3to4)点であった。統計結果に関して,A-ROMとの関連は屈曲20°(p=0.0128,r=0.48)・屈曲50°(p=0.0044,r=0.55)・屈曲80°(p=0.0003,r=0.7)でのATTと正の相関を認めた。またP-ROMとの関連は屈曲20°(p=0.0123,r=0.48)・屈曲50°(p=0.0062,r=0.53)・屈曲80°(p=0.0002,r=0.72)でのATTと正の相関を認めた。各角度でのATTとVAS・OXSに相関は認めなかった。
【考察】今回の結果からPS-TKAでは脛骨前方Laxityが膝自他動屈曲ROMに重要な因子の一つであることが示唆された。これは膝屈曲ROM拡大に重要な大腿骨ロールバック時の,相対的な脛骨前方移動が関与しているためと考えた。YoshiyaらによればPS-TKAはPOST-CAM機構があるため,強制的に大腿骨のロールバックを引き起こし,一様にロールバックが見られる傾向にあったとされている。今回PS-TKAに限定したことも,相関を認めた要因であると考えた。各角度での検討では,屈曲80°でATTとROMに0.7以上の強い相関を認めた。PS-TKAはPOST-CAMエンゲージ後,強制的に大腿骨ロールバックを生じさせる。対象に使用されている機種のエンゲージ角度は屈曲45°で設定されている。そのため20°,50°に比べ80°屈曲位ではエンゲージしている可能性が高く,80°以上屈曲する際には大腿骨ロールバックが確実に生じることが考えられる。それが屈曲80°で強い相関を認めた要因であると考えた。膝疼痛VASやOXSはATTとの相関を認めなかった。今回の対象のATTの程度であれば,ATTの疼痛や膝崩れへの影響は少ないことが示唆された。
【理学療法研究としての意義】今回の結果ではPS-TKAにおいて膝屈曲80°での脛骨前方Laxityの確保が膝自他動屈曲ROMの拡大に特に重要であることが示唆された。また脛骨前方Laxityと臨床的な自覚症状との関連は認められなかった。
【方法】対象は当院にてPS-TKA施行された術後患者23名28膝(男性6名,女性17名。平均±SD:術後経過月数9.3±8.4ヶ月・年齢75.3±6.9歳・身長152.4±9.0cm・体重61.4±13.1kg・大腿脛骨角173.7±3.0°)とした。全例BIOMET社TKA(Vanguard-PS)を使用した。脛骨前方Laxityの計測には十字靭帯機能検査機器であるKS-measure(日本シグマックス株式会社)を使用し,膝屈曲20°・50°・80°で15lbsのストレス下で脛骨前方移動量3回計測し平均値を算出した(Anterior tibial translation:ATT)。本研究に先立ち健常成人4名3施行でATT計測の検者内信頼性を検定したところ,級内相関係数は膝屈曲20°が0.93,50°が0.92,80°が0.82であった。膝屈曲ROM測定は自動(A-ROM)・他動(P-ROM)で行い,背臥位で足底を接地したまま膝屈曲しゴニオメーターを使用し測定した。足底と床面の間にはビニール袋を2枚挟み摩擦が一定になるようにした。A-ROMは患者に「足を地面につけたまま膝を出来るだけ曲げてみてください」という指示で自動的に屈曲し計測,P-ROMは脛骨粗面下20cmの部位にHand-held dynamometer(アニマ社製µTas F-1)を使用し,尾側から頭側に40Nのストレスをかけ他動的に膝関節を屈曲し計測した。自覚症状の指標として膝の疼痛VAS(最大10cm)とoxford knee scoreの質問10(0-4点,高い程良好:OXS)「突然膝が抜けるように感じたり,崩れてしまうことはありますか?」を使用し,各角度のATTとの相関を検討した。統計処理に関して各角度でのATTとA-ROM・P-ROM・各臨床症状の相関にスピアマン順位相関係数検定を使用した。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当院の倫理審査委員会承認(第25-17号)を受け実施した。全ての対象にヘルシンキ宣言に則り倫理的配慮をし,書面で本研究の説明を行い,同意を得た。
【結果】各測定の中央値(IQR)は以下の通り。ATTは屈曲20°が5.9(3.6to7.4)mm,50°が6.2(4.4to7.6)mm,80°が4.2(3.3to5.9)mm。A-ROMが110(100to120)°,P-ROMが117.5(105to125)°。疼痛VASが2.5(0.5to3.9)cm,OXSが4(3to4)点であった。統計結果に関して,A-ROMとの関連は屈曲20°(p=0.0128,r=0.48)・屈曲50°(p=0.0044,r=0.55)・屈曲80°(p=0.0003,r=0.7)でのATTと正の相関を認めた。またP-ROMとの関連は屈曲20°(p=0.0123,r=0.48)・屈曲50°(p=0.0062,r=0.53)・屈曲80°(p=0.0002,r=0.72)でのATTと正の相関を認めた。各角度でのATTとVAS・OXSに相関は認めなかった。
【考察】今回の結果からPS-TKAでは脛骨前方Laxityが膝自他動屈曲ROMに重要な因子の一つであることが示唆された。これは膝屈曲ROM拡大に重要な大腿骨ロールバック時の,相対的な脛骨前方移動が関与しているためと考えた。YoshiyaらによればPS-TKAはPOST-CAM機構があるため,強制的に大腿骨のロールバックを引き起こし,一様にロールバックが見られる傾向にあったとされている。今回PS-TKAに限定したことも,相関を認めた要因であると考えた。各角度での検討では,屈曲80°でATTとROMに0.7以上の強い相関を認めた。PS-TKAはPOST-CAMエンゲージ後,強制的に大腿骨ロールバックを生じさせる。対象に使用されている機種のエンゲージ角度は屈曲45°で設定されている。そのため20°,50°に比べ80°屈曲位ではエンゲージしている可能性が高く,80°以上屈曲する際には大腿骨ロールバックが確実に生じることが考えられる。それが屈曲80°で強い相関を認めた要因であると考えた。膝疼痛VASやOXSはATTとの相関を認めなかった。今回の対象のATTの程度であれば,ATTの疼痛や膝崩れへの影響は少ないことが示唆された。
【理学療法研究としての意義】今回の結果ではPS-TKAにおいて膝屈曲80°での脛骨前方Laxityの確保が膝自他動屈曲ROMの拡大に特に重要であることが示唆された。また脛骨前方Laxityと臨床的な自覚症状との関連は認められなかった。