[1168] ニューロフィードバックによって10年来の両下肢の不快感が著明に減少した症例について
キーワード:痛み, ニューロフィードバック, 脳波
【はじめに,目的】
線維筋痛症,複合性局所疼痛症候群及び慢性腰痛症などの難治性疼痛に対する理学療法は難渋することが多い。これらの難治性疼痛症例の痛みの要因には末梢組織器官だけではなく,中枢神経系の変調が大きく関与していることが明らかになっており,段階的な運動イメージトレーニングや認知行動療法などの中枢神経系の変調の改善を目指した治療が報告されている。しかし,これらの治療も効果が限定的であることが報告されている。近年,機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いたリアルタイムfMRIを用いて中枢神経系の変調に対して直接的にアプローチを行うニューロフィードバックが注目されている。deCharmsらは前帯状回によるリアルタイムfMRIニューロフィードバックが自律神経訓練よりも慢性疼痛患者の痛みの改善に効果的であったことを報告している。この研究ではfMRIを用いており,fMRIは機器が高価であることや医師や放射線技師などの限られた職種しか臨床で用いることはできないなどの臨床汎用性に問題がある。比較的安価であり,理学療法士でも使用可能な脳波は,近年,Low-resolution electrical topographic analysis(LORETA)解析という解析によって大脳辺縁系の部位特定が可能になっている。今回,10年来腰背部の痛み及び両下肢の不快感にとらわれていた難治性疼痛症例に対してニューロフィードバックを行ったところ,両下肢の不快感の著明な軽減が認められたので報告する。
【方法】
対象は主訴が腰背部痛と両下肢の不快感である30代男性であった。腰痛は10年前に特に誘因なく発症し,両下肢の不快感は8年前腰神経ブロック施行後に両下肢に出現した。MRI及びレントゲンにて異常所見は認められなかった。これまでに複数の医療機関を受診したが十分な効果は認められなかった。初期評価時のNumeric Rating Scale(NRS)は腰背部の痛みが3,両下肢の不快感が10であった。Roland-Morris Questionnaire(RDQ)は6であり,Pain Catastrophizing Scale(PCS)は49であった。
まず,健常者の脳波のデータベースとの比較検討を行うために,閉眼安静時にて3分間計測を行った。脳波計はDiscovery 24E(Brain Master Technologies, Inc.)を用い,電極位置は国際10-20法を参考にした19部位とした。
解析ソフトはNeuroGuide(Applied Neuroscience社製)を用いて行った。δ帯,θ帯,α帯,β帯,High β帯の周波数解析を行い,ソフト内に組み込まれている健常人の性別,年齢をマッチングさせたデータと比較した。同様に,ソフト内に組み込まれているLORETA解析によって,各脳領において健常人との比較を行った。
脳波測定の結果,前帯状回のα帯において健常者より高値が認められた。この前帯状回をターゲットとして,BrainAvatar(BrainMaster社製)を用いて,ニューロフィードバックを週1回1時間を4週間行った。ニューロフィードバック時の言語教示はdeCharmsらの方法を参考にして,「痛み刺激に注意を向けてください,次は注意をそらしてください」,「痛み刺激を制御するようにして下さい」とした。
介入4週間後にBRS,RDQ,PCSについて再評価した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は甲南女子大学倫理委員会の承認を得て行った。対象者には事前に研究目的と方法について口頭で十分に説明し,同意が得られた。
【結果】
腰背部痛のNRSは介入前後ともに3であった。両下肢の不快感のNRSは介入前の10から介入後には3となった。RDQは介入前の6から,介入後には4となった。PCSは介入前の49から,介入後には31となった。
【考察】
今回,10年来の腰背部痛及び両下肢の不快感によって,ドクターショッピングを繰り返していた症例に対してニューロフィードバックを行ったところ,腰背部痛は変わらないものの両下肢の不快感は著明に軽減した。前帯状回は痛みに伴う不快感に関係していることから,本研究において前帯状回のニューロフィードバックを行った結果,前帯状回の脳活動が制御可能となり両下肢の不快感が減少した可能性が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
脳波にて脳の深部にある前帯状回のニューロフィードバックが可能であり,今後,通常の理学療法に抵抗する難治性疼痛症例に対しての一治療法としてニューロフィードバックが有効な可能性なことを示唆した点。
線維筋痛症,複合性局所疼痛症候群及び慢性腰痛症などの難治性疼痛に対する理学療法は難渋することが多い。これらの難治性疼痛症例の痛みの要因には末梢組織器官だけではなく,中枢神経系の変調が大きく関与していることが明らかになっており,段階的な運動イメージトレーニングや認知行動療法などの中枢神経系の変調の改善を目指した治療が報告されている。しかし,これらの治療も効果が限定的であることが報告されている。近年,機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いたリアルタイムfMRIを用いて中枢神経系の変調に対して直接的にアプローチを行うニューロフィードバックが注目されている。deCharmsらは前帯状回によるリアルタイムfMRIニューロフィードバックが自律神経訓練よりも慢性疼痛患者の痛みの改善に効果的であったことを報告している。この研究ではfMRIを用いており,fMRIは機器が高価であることや医師や放射線技師などの限られた職種しか臨床で用いることはできないなどの臨床汎用性に問題がある。比較的安価であり,理学療法士でも使用可能な脳波は,近年,Low-resolution electrical topographic analysis(LORETA)解析という解析によって大脳辺縁系の部位特定が可能になっている。今回,10年来腰背部の痛み及び両下肢の不快感にとらわれていた難治性疼痛症例に対してニューロフィードバックを行ったところ,両下肢の不快感の著明な軽減が認められたので報告する。
【方法】
対象は主訴が腰背部痛と両下肢の不快感である30代男性であった。腰痛は10年前に特に誘因なく発症し,両下肢の不快感は8年前腰神経ブロック施行後に両下肢に出現した。MRI及びレントゲンにて異常所見は認められなかった。これまでに複数の医療機関を受診したが十分な効果は認められなかった。初期評価時のNumeric Rating Scale(NRS)は腰背部の痛みが3,両下肢の不快感が10であった。Roland-Morris Questionnaire(RDQ)は6であり,Pain Catastrophizing Scale(PCS)は49であった。
まず,健常者の脳波のデータベースとの比較検討を行うために,閉眼安静時にて3分間計測を行った。脳波計はDiscovery 24E(Brain Master Technologies, Inc.)を用い,電極位置は国際10-20法を参考にした19部位とした。
解析ソフトはNeuroGuide(Applied Neuroscience社製)を用いて行った。δ帯,θ帯,α帯,β帯,High β帯の周波数解析を行い,ソフト内に組み込まれている健常人の性別,年齢をマッチングさせたデータと比較した。同様に,ソフト内に組み込まれているLORETA解析によって,各脳領において健常人との比較を行った。
脳波測定の結果,前帯状回のα帯において健常者より高値が認められた。この前帯状回をターゲットとして,BrainAvatar(BrainMaster社製)を用いて,ニューロフィードバックを週1回1時間を4週間行った。ニューロフィードバック時の言語教示はdeCharmsらの方法を参考にして,「痛み刺激に注意を向けてください,次は注意をそらしてください」,「痛み刺激を制御するようにして下さい」とした。
介入4週間後にBRS,RDQ,PCSについて再評価した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は甲南女子大学倫理委員会の承認を得て行った。対象者には事前に研究目的と方法について口頭で十分に説明し,同意が得られた。
【結果】
腰背部痛のNRSは介入前後ともに3であった。両下肢の不快感のNRSは介入前の10から介入後には3となった。RDQは介入前の6から,介入後には4となった。PCSは介入前の49から,介入後には31となった。
【考察】
今回,10年来の腰背部痛及び両下肢の不快感によって,ドクターショッピングを繰り返していた症例に対してニューロフィードバックを行ったところ,腰背部痛は変わらないものの両下肢の不快感は著明に軽減した。前帯状回は痛みに伴う不快感に関係していることから,本研究において前帯状回のニューロフィードバックを行った結果,前帯状回の脳活動が制御可能となり両下肢の不快感が減少した可能性が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
脳波にて脳の深部にある前帯状回のニューロフィードバックが可能であり,今後,通常の理学療法に抵抗する難治性疼痛症例に対しての一治療法としてニューロフィードバックが有効な可能性なことを示唆した点。