第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 神経理学療法 口述

脊髄損傷理学療法1

Sat. May 31, 2014 3:45 PM - 4:35 PM 第13会場 (5F 503)

座長:水上昌文(茨城県立医療大学理学療法学科)

神経 口述

[1173] 頸髄損傷完全麻痺者で自動車への移乗動作が自立した1症例

本多佑也1, 賀好真紀1, 植田尊善2 (1.総合せき損センター中央リハビリテーション部, 2.総合せき損センター整形外科)

Keywords:頸髄損傷, 自動車, 移乗動作

【はじめに,目的】
脊髄損傷者にとって自動車運転の獲得は復学・復職や余暇活動の充実などQOL向上に繋がる。中でも頸髄損傷者では上肢・体幹機能の障害により自動車への移乗が困難となることが考えられる。しかし頸髄損傷者の自動車への移乗動作自立までの過程を追った報告は少ない。今回,端座位プッシュアップ能力(臀床間距離,プッシュアップ保持時間),物的介助量と自動車への移乗動作の関係性に着目して動作練習を行い,自立までの経過観察が可能であった1症例を報告する。
【方法】
症例紹介:20代男性。受傷前職業は製造業。スノーボード中に3m下へ転落し受傷。診断名は第6頸椎涙滴型骨折。経過日数は受傷日を1日目とし,PT初回評価時(3日目)の身体計測は身長176cm,体重56kg,BMIは18.0で痩せ型。改良Flankel分類A,Zancolli分類C6BI/C6BIII。ROM-Tは左肘関節伸展-10°,感覚機能はC7領域以下脱失,MMTは手根伸筋3/3・上腕三頭筋0/1・以下0。評価項目:端座位プッシュアップ時の臀床間距離(座面から坐骨までの距離),プッシュアップ保持時間,移乗動作の所要時間,物的介助量(①トランスファーボード・②頭部保護枕・③ヘッドギア)を計測した。評価期間:初回時から2週間ごとに12週目まで計7回の計測を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
本報告は当院倫理委員会の承認を得て,症例には書面にて趣旨を十分に説明し,同意を得た上で計測を行った。
【結果】
プッシュアップ時の臀床間距離は0cm→3.5cm→6.0cm→8.0cm→14.5cm→17.5cm→20.5cm,プッシュアップ保持時間は0秒→1.0秒→1.2秒→10.0秒→15.6秒→20.0秒→20.5秒へ向上。移乗動作の所要時間は12分→12分→8分→5分→6分→2分→1分,物的介助量は①・②・③→①・②→①・②→①→①→①→物的介助不要へ減少。移乗動作に関して,初回は自動車に左下肢を上げ,左上肢をトランスファーボード,右上肢をレッグパイプに付き,頭部をドアに当てた3点支持で行い,トランスファーボード上を滑るように臀部を移動した。2・4週では両上肢・頭部の3点支持にて行い,車いすから運転席まで3回のプッシュアップで臀部を移動した。6週目にはZancolli分類C6BIII/C6BIIIとなり,MMTは手根伸筋5/5・上腕三頭筋2/4と運動機能も向上。移乗動作は両上肢の2点支持となり,臀部の移動回数も2回となった。8・10週目からは車いす座面+5cmの運転席へ移乗を実施。移乗方法に変化はなく,臀部の移動回数は8週目3回,10週目2回となった。12週目では車いす座面+20cmの運転席へ移乗を実施。両下肢をフットレストに載せた状態で左上肢を運転席,右上肢をレッグパイプに付いた2点支持でプッシュアップを行い,臀部を運転席へ移動。臀部の移動回数は2回であった。
【考察】
今回,20歳代男性の頸髄損傷者において端座位プッシュアップ能力と介助量,自動車への移乗動作の方法について評価を行った。動作練習を重ねるごとに臀床間距離の拡大,プッシュアップ保持時間が延長した要素として,症例は20男性,痩せ型でありプッシュアップ動作に有利な体格であったこと,合併症がなく円滑に動作練習が進行したことがあげられる。またプッシュアップ能力向上を目指し,三角筋・大胸筋・前鋸筋・上腕三頭筋の重点的な筋力強化,体幹に重錘を巻いてのプッシュアップ練習などのアプローチを行った。その結果,6週目から臀床間距離及びプッシュアップ保持時間が大きく向上した。これは上記の筋力が向上した事により,肘のロッキングが十分に可能となり,プッシュアップバランスが向上したためと考えられる。このように安定したプッシュアップを獲得することで臀部をより高く,遠くへ移動することができるようになり,臀部の移動回数が減少したことで所要時間の短縮・高い座面の運転席への移乗が可能となったと考える。このことからプッシュアップ能力の向上が自動車移乗動作自立の大きな要因の1つであることが推察された。また移乗練習開始時では臀床間距離0cm,プッシュアップ保持時間0秒であっても,頭部の支持やトランスファーボードの使用など環境設定を行うことで自動車への移乗は可能であった。本症例は痩せ型の若年男性で,プッシュアップに有利な体格であったが,プッシュアップ能力の低いC6BIレベルや女性の頸髄損傷者であっても身体機能にあった自動車の選定,物的介助の利用,頭部支持など適切な指導を行うことにより,自動車への移乗自立の可能性があることも推察された。
【理学療法学研究としての意義】
本報告を通じて自動車への移乗動作開始時の環境設定,指導法など治療者側への一助となることを期待する。今後は多症例で損傷レベル,性別,体格などの詳細な分析を行い,自動車運転獲得の要因を明確にすることで頸髄損傷者のQOL向上に繋がると考える。