[1174] C6B1頸髄損傷者に対して自動車への移乗を獲得するための工夫
キーワード:頸髄損傷者, トランスファー, 環境調整
【はじめに】
頸髄損傷者(頸損者)はいかに残存機能を活かして基本動作及び日常生活動作を獲得するかが課題であり,教科書や文献などで損傷レベルに応じた方法が提示されている。Zancolliの分類C6B1頸損者の場合では,側方移乗の達成率が7.7%,自動車への移乗が38.5%と報告されている。従って,画一的な方法では同じ損傷レベルであっても身体能力や体型といった個人差により動作の獲得に影響を及ぼすことが伺える。今回,C6B1レベルの頸損者において,教科書等に記載される画一的な動作方法では自動車への移乗が困難であったが,移乗時に加工した鉄製パイプを使用することにより,自動車への移乗が自立した症例を経験したのでその工夫を踏まえて報告する。
【方法】
症例は23歳の男性。平成18年にプールへの飛び込みによりC5・C6骨折を受傷し,C4-C7頸椎前方固定術,椎弓形成術,C5・C6椎弓切除術を施行した。急性期病院から回復期リハビリテーション病院を経て,平成20年に介護付き住宅に退院となった。平成21年12月に運転補助装置を設置した自動車を用いて自動車免許を取得した。自動車免許を取得した際の現症は,機能的残存レベルはZancolliの分類C6B1,Frankelの分類Aであった。徒手筋力検査では,三角筋は両側共に5レベル,上腕二頭筋は右側が4+,左側が5レベル,橈側手根伸筋は右側が4-レベル,左側が4レベル,大胸筋は右側が2-レベル,左側が3レベル,橈側手根屈筋及び上腕三頭筋は両側共に0レベルであった。プッシュアップ動作は端座位の状態で,頭部・体幹を介助者が支えることにより約5mm程度可能であった。車椅子駆動は自立しており,移乗は前方・側方共に中等度の介助を要した。自動車(運転席)への移乗はトランスファーボードを使用してC6頸損者に推奨されている頭部を利用した側方移乗を練習したが,殿部の離床が困難なことから,車椅子のスカートガードを超えられず,また,その際に車椅子からずり落ちる危険性も高かった。尚,本症例の運転席は電動且つ可倒式サイドサポート付きシートであった。従って,自動車の運転席に移乗する際に殿部を離床するための解決策を検討し,残存機能で殿部が離床可能となるよう独自の器具を作製することにした。器具は鉄製パイプを加工して作製した。工夫した点は肘関節屈曲の作用により殿部が離床できるように,①鉄製パイプの中央は前腕が固定出来るように加工し,②運転席のドア(右ドア)を開けた際にパイプの両端がハンドルとドアノブにはまり込むように末端を加工した。
【倫理的配慮,説明と同意】
症例及びその家族に対し,発表の旨を口頭及び書面で十分に説明し,同意を得た。
【結果】
加工した鉄製パイプを使用することにより,一人で殿部が離床できるようになり,さらに運転席の座面に浅く座ることが可能となった。運転席に浅く座ってからは左上肢による座面のプッシュアップと右手で鉄製パイプを把持した状態からの肘関節屈曲により殿部を少しずつ浮かせながら運転席の中央までいざることが可能となった。最後に以前から設置されていた電動シートを調整することで最終的な姿勢の修正を行うことができた。これらの動作を反復して行うことにより,徐々に動作が上達し,移乗動作の練習を開始してから4ヶ月で自立に至った。その後,独りで自動車を利用し出かけられるようになり,生活範囲が広がった。
【考察】
本症例がC6頸損者に推奨されている頭部を利用した側方移乗を行えなかった主要因は,プッシュアップを行う残存筋の筋力不足と考える。従って,殿部の離床を行う上で,プッシュアップ動作に代わり,比較的筋力の強い肘関節屈筋を活かした方法を見出したことが自動車への移乗の獲得に大きく関与したと考える。また,この方法の特徴を活かすことでC6B1レベルの頸損者における自動車への移乗の達成率が向上する可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】
頸損者は基本動作及び日常生活動作の達成度が低い。しかし,今回の報告のように残存機能を最大限に発揮できる新たな工夫を見出し,成功例を紹介することは,動作の獲得に難渋する症例の一助となる。
頸髄損傷者(頸損者)はいかに残存機能を活かして基本動作及び日常生活動作を獲得するかが課題であり,教科書や文献などで損傷レベルに応じた方法が提示されている。Zancolliの分類C6B1頸損者の場合では,側方移乗の達成率が7.7%,自動車への移乗が38.5%と報告されている。従って,画一的な方法では同じ損傷レベルであっても身体能力や体型といった個人差により動作の獲得に影響を及ぼすことが伺える。今回,C6B1レベルの頸損者において,教科書等に記載される画一的な動作方法では自動車への移乗が困難であったが,移乗時に加工した鉄製パイプを使用することにより,自動車への移乗が自立した症例を経験したのでその工夫を踏まえて報告する。
【方法】
症例は23歳の男性。平成18年にプールへの飛び込みによりC5・C6骨折を受傷し,C4-C7頸椎前方固定術,椎弓形成術,C5・C6椎弓切除術を施行した。急性期病院から回復期リハビリテーション病院を経て,平成20年に介護付き住宅に退院となった。平成21年12月に運転補助装置を設置した自動車を用いて自動車免許を取得した。自動車免許を取得した際の現症は,機能的残存レベルはZancolliの分類C6B1,Frankelの分類Aであった。徒手筋力検査では,三角筋は両側共に5レベル,上腕二頭筋は右側が4+,左側が5レベル,橈側手根伸筋は右側が4-レベル,左側が4レベル,大胸筋は右側が2-レベル,左側が3レベル,橈側手根屈筋及び上腕三頭筋は両側共に0レベルであった。プッシュアップ動作は端座位の状態で,頭部・体幹を介助者が支えることにより約5mm程度可能であった。車椅子駆動は自立しており,移乗は前方・側方共に中等度の介助を要した。自動車(運転席)への移乗はトランスファーボードを使用してC6頸損者に推奨されている頭部を利用した側方移乗を練習したが,殿部の離床が困難なことから,車椅子のスカートガードを超えられず,また,その際に車椅子からずり落ちる危険性も高かった。尚,本症例の運転席は電動且つ可倒式サイドサポート付きシートであった。従って,自動車の運転席に移乗する際に殿部を離床するための解決策を検討し,残存機能で殿部が離床可能となるよう独自の器具を作製することにした。器具は鉄製パイプを加工して作製した。工夫した点は肘関節屈曲の作用により殿部が離床できるように,①鉄製パイプの中央は前腕が固定出来るように加工し,②運転席のドア(右ドア)を開けた際にパイプの両端がハンドルとドアノブにはまり込むように末端を加工した。
【倫理的配慮,説明と同意】
症例及びその家族に対し,発表の旨を口頭及び書面で十分に説明し,同意を得た。
【結果】
加工した鉄製パイプを使用することにより,一人で殿部が離床できるようになり,さらに運転席の座面に浅く座ることが可能となった。運転席に浅く座ってからは左上肢による座面のプッシュアップと右手で鉄製パイプを把持した状態からの肘関節屈曲により殿部を少しずつ浮かせながら運転席の中央までいざることが可能となった。最後に以前から設置されていた電動シートを調整することで最終的な姿勢の修正を行うことができた。これらの動作を反復して行うことにより,徐々に動作が上達し,移乗動作の練習を開始してから4ヶ月で自立に至った。その後,独りで自動車を利用し出かけられるようになり,生活範囲が広がった。
【考察】
本症例がC6頸損者に推奨されている頭部を利用した側方移乗を行えなかった主要因は,プッシュアップを行う残存筋の筋力不足と考える。従って,殿部の離床を行う上で,プッシュアップ動作に代わり,比較的筋力の強い肘関節屈筋を活かした方法を見出したことが自動車への移乗の獲得に大きく関与したと考える。また,この方法の特徴を活かすことでC6B1レベルの頸損者における自動車への移乗の達成率が向上する可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】
頸損者は基本動作及び日常生活動作の達成度が低い。しかし,今回の報告のように残存機能を最大限に発揮できる新たな工夫を見出し,成功例を紹介することは,動作の獲得に難渋する症例の一助となる。