第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 神経理学療法 口述

脊髄損傷理学療法1

Sat. May 31, 2014 3:45 PM - 4:35 PM 第13会場 (5F 503)

座長:水上昌文(茨城県立医療大学理学療法学科)

神経 口述

[1175] 改良Frankel分類C1の頸髄不全損傷者におけるADL自立を基にした分析

長谷川道子 (国立障害者リハビリテーションセンター自立支援局伊東重度障害者センター)

Keywords:改良Frankel分類, 頸髄不全損傷, ADL

【はじめに】近年,頸髄不全損傷による四肢不全麻痺を呈する者が増加しているという報告が多く出されており,障害者支援施設である当センターにおいても同様の状況である。ケースによって麻痺の程度は大きく異なるが,今回は利用期間中の改良Frankel分類がC1から変化がなかったケースに着目した。リハビリテーションを進めていく上で,ADLを順調に獲得できるケースとできないケースに明らかに二分されるという印象を持ったからである。そこでADLの基本となる車椅子-ベッド間の移乗動作の可否で分類して調査と検討を行ったため,ここに報告する。
【方法】平成15年4月から平成25年3月までに当センターを利用開始し終了した頸髄不全損傷者20名(男性,利用期間中の改良Frankel分類がC1から変化なし)を対象とした。その20名を車椅子-ベッド間の移乗動作が自立した者(以下,自立群,10名),自立できなかった者(以下,非自立群,10名)に分け,カルテ記録から後方視的調査を行った。調査項目は,利用開始時年齢,損傷高位,利用開始時のASIA motor・touch・pin score,合併症,在宅を含む経由医療機関数,受傷から利用開始までの期間,常用する車椅子の種類とした。合併症と常用する車椅子の種類以外の項目についてはT検定を用いて分析を行い,危険率5%未満を有意とした。
【倫理的配慮】データ収集及び分析を行う際は,ヘルシンキ宣言及び個人情報保護に留意し,個人が特定できない処理を行った。
【結果】以下の数値は自立群/非自立群とする。利用開始時年齢は36.4±15.9才/47.2±12.2才だった。損傷高位はC2が1/0,C3が0/1,C4が0/5,C5が1/3,C6が7/1,C7が1/0だった。ASIA motor scoreは40.0±8.6/29.0±16.9だった。ASIA touch scoreは63.1±15.9/51.8±19.5だった。ASIA pin scoreは58.0±9.3/48.0±18.0だった。合併症は重複しているケースがいるがOPLLが2/2,脊柱管狭窄症が0/1,糖尿病・高血圧等の内科的疾患が2/2,無しが5/6だった。在宅を含む経由医療機関数は3.4±1.3ヶ所/2.8±0.9ヶ所だった。受傷から利用開始までの期間は19.2±17.7か月/21.6±14.2か月だった。常用する車椅子の種類は手動車椅子が10/4,簡易電動車椅子が0/6だった。分析の結果,有意差が認められたのは損傷高位のみであった(P<0.05)。
【考察】当センターの利用者は,複数の医療機関や中には在宅生活を経験してから利用開始となるため,受傷してからの期間が長期となる。最短は8か月で自立群の4名だったが,最長も同じく自立群の62か月であった。その間,どのようなリハビリテーションを受け,どのような生活を送ってきたのかは,ケースによって大きなばらつきがある。したがって今回着目した利用期間中の改良Frankel分類がC1で変化がなかったという大きな共通点はあるものの,利用開始時というスタートラインにおいていかに身体機能面での問題点が少ないか,がその後のADL獲得の進捗を左右するという印象を常々抱いていた。その問題点とは今回の調査項目にはあえて挙げていないが,可動域・可動性の制限と異常筋緊張の程度である。この二つは密接に関連しているということを臨床上よく経験しており,特に今回非自立群に分類したケースをみると,多くがこの二つの問題点のために上肢の自動運動範囲が大きく制限され,結果として10名中6名が簡易電動車椅子を常用している。しかし制限された範囲での筋力は比較的保たれているため,ASIA motor scoreとしては有意差が出なかった。また手動車椅子を常用している4名については,平坦な屋内環境での駆動のみが可能なレベルであって屋外駆動の実用性は全くなく,生活の質を考慮すると非自立群全てのケースにおいて簡易電動車椅子が適当と言っても過言ではないと思われる。本研究において損傷高位のみに有意差が出た,という結果はある意味当然の結果であったが,頸髄完全損傷だけでなく不全損傷であっても一髄節異なるだけで大きな差が出るということが明らかにされた。特に改良Frankel分類のC1は,体幹・下肢機能だけで実用的な起立が不可能であるためADLの方法は完全損傷と大差ないことに加え,不全損傷特有の異常筋緊張や異常感覚が前面に出てくることが多く,アプローチに難渋する場合が多い。これらのことを踏まえ,損傷高位及び程度の分析と先に述べた可動域・可動性や異常筋緊張の臨床所見を加えた調査・分析の必要性があると考え,今後の課題としたい。
【理学療法学研究としての意義】一般の医療機関では長期的にアプローチできる機会が殆どないと思われる,改良Frankel分類がC1のケースについての現状を伝えること,また今後の課題の事項については予後予測に使用できる可能性があると思われる。