[1177] 成人筋ジストロフィー患者の栄養状態と呼吸機能について
Keywords:進行性筋ジストロフィー, 栄養状態, 呼吸機能
【はじめに】
進行性筋ジストロフィー(Progressive muscular dystrophy:PMD)は,骨格筋の筋力低下に伴い筋肉量が減少し,やせを呈することがある。また呼吸筋に関しても同様に筋力・筋肉量の低下が出現する。呼吸筋筋力の低下により肺活量が減少した患者は,咳嗽力も低下し気道内分泌物の除去が困難となり,肺炎や気管切開へと移行することが多く,予後や生活の質(Quality of Life:QOL)の低下を招くとされている。このような全身筋肉量の減少によってやせを呈すPMD患者では,理学療法の効果を期待できないどころか,かえって栄養状態が悪化し,更なるやせを引き起こす可能性がある。そのため理学療法を行う際には栄養状態を把握することはとても重要である。簡易栄養状態評価表(MNA-SF)は,リハ栄養スクリーニングとして簡便で優れており,検査値が含まれていないため,在宅などの環境でも容易に評価できる利点がある。そこで,本研究の目的は,当院のPMD患者における栄養状態をMNA-SFにて評価し,予後やQOLに影響を与える呼吸機能との関係性について検討することである。
【対象】
対象は,国立病院機構鈴鹿病院に通院・入院している気管切開がなく人工呼吸器管理には至らずに車椅子座位にて過ごしている者とし,ベッカー型4名,肢帯型4名,筋強直型4名の計12名(平均年齢63±12歳,男性8名,女性4名)とした。筋ジストロフィー機能障害度は,ステージVIが5名,ステージVIIが7名であった。
【方法】
MNA-SFは自己評価または家族からの情報により評価を行った。合計14ポイント中,12ポイント以上で栄養状態良好,8~11ポイントは低栄養の恐れあり,8ポイント未満は低栄養と判断される。呼吸機能は,電子式スパイロメーター(MINATO社製,Autospiro)とピークフローメーター(ASSESSRPeak Flow Meter)を用いて評価を行った。スパイロメーターでは,肺活量(VC),%肺活量(%VC),努力性肺活量(FVC),1秒量(FEV1),ピークフローメーターでは自己咳嗽力(Cough Peak Flow:CPF)を測定した。また統計処理はMNA-SFと各呼吸機能の相関をSpearmanの順位相関係数を用いて検討した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,国立病院機構鈴鹿病院倫理審査委員会の承認を得た上で,対象者に研究の趣旨を十分に説明し同意を得て実施した。
【結果】
MNA-SFにて,8ポイント未満が2名,8~11ポイントが8名,12ポイント以上が2名となり,12名中10名に低栄養,低栄養の恐れが認められた。呼吸機能はVC 1.49±0.56(L),%VC 47.75±21.05(%),FVC 1.27±0.55(L),FEV1.0 1.1±0.47(L/sec),CPF 166.25±53.98(L/sec)となり,すべての患者において拘束性換気障害を認めた。またMNA-SFと各呼吸機能において,VC(p=0.002,r=0.79),%VC(p=0.013,r=0.69),FVC(p=0.019,r=0.66),FEV1.0(p=0.026,r=0.64),CPF(p=0.031,r=0.62)となり,各項目ともに高い正の相関を認めた。
【考察】
施設別に低栄養の高齢者の割合をMNA-SFで調査したレビュー論文では,病院38.7%,リハビリ施設50.5%と低栄養の割合が高かったとされており,本研究においても,12名中10名と高い割合で低栄養の恐れがあると認められた。慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者では,栄養不足による骨格筋,呼吸筋の筋力低下が換気制限に関与するとされ,やせはCOPD患者の独立した予後因子とされている。本研究でも,PMD患者の呼吸機能はMNA-SFによる栄養評価と高い正の相関を認め,PMD患者の栄養管理は重要な課題であることが考えられる。実際の栄養障害の有無はアルブミンなどの検査値と上腕周囲長や下腿周囲長の身体計測で判断される。しかし,PMD患者は仮性肥大の影響により,身体計測ではうまく栄養障害を捉えることは難しい。MNA-SFはBMIの測定と問診により簡便に評価でき,侵襲を伴わず行えることに利点がある。今後は症例数を増やし型別での検討,継時的に測定を行い栄養状態の経過について検討していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
MNA-SFによる栄養評価は,PMD患者において,予後やQOLに関連する呼吸機能評価と同様に重要であり,理学療法士が簡便に実施できる一つの指標として有用であると考える。
進行性筋ジストロフィー(Progressive muscular dystrophy:PMD)は,骨格筋の筋力低下に伴い筋肉量が減少し,やせを呈することがある。また呼吸筋に関しても同様に筋力・筋肉量の低下が出現する。呼吸筋筋力の低下により肺活量が減少した患者は,咳嗽力も低下し気道内分泌物の除去が困難となり,肺炎や気管切開へと移行することが多く,予後や生活の質(Quality of Life:QOL)の低下を招くとされている。このような全身筋肉量の減少によってやせを呈すPMD患者では,理学療法の効果を期待できないどころか,かえって栄養状態が悪化し,更なるやせを引き起こす可能性がある。そのため理学療法を行う際には栄養状態を把握することはとても重要である。簡易栄養状態評価表(MNA-SF)は,リハ栄養スクリーニングとして簡便で優れており,検査値が含まれていないため,在宅などの環境でも容易に評価できる利点がある。そこで,本研究の目的は,当院のPMD患者における栄養状態をMNA-SFにて評価し,予後やQOLに影響を与える呼吸機能との関係性について検討することである。
【対象】
対象は,国立病院機構鈴鹿病院に通院・入院している気管切開がなく人工呼吸器管理には至らずに車椅子座位にて過ごしている者とし,ベッカー型4名,肢帯型4名,筋強直型4名の計12名(平均年齢63±12歳,男性8名,女性4名)とした。筋ジストロフィー機能障害度は,ステージVIが5名,ステージVIIが7名であった。
【方法】
MNA-SFは自己評価または家族からの情報により評価を行った。合計14ポイント中,12ポイント以上で栄養状態良好,8~11ポイントは低栄養の恐れあり,8ポイント未満は低栄養と判断される。呼吸機能は,電子式スパイロメーター(MINATO社製,Autospiro)とピークフローメーター(ASSESSRPeak Flow Meter)を用いて評価を行った。スパイロメーターでは,肺活量(VC),%肺活量(%VC),努力性肺活量(FVC),1秒量(FEV1),ピークフローメーターでは自己咳嗽力(Cough Peak Flow:CPF)を測定した。また統計処理はMNA-SFと各呼吸機能の相関をSpearmanの順位相関係数を用いて検討した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,国立病院機構鈴鹿病院倫理審査委員会の承認を得た上で,対象者に研究の趣旨を十分に説明し同意を得て実施した。
【結果】
MNA-SFにて,8ポイント未満が2名,8~11ポイントが8名,12ポイント以上が2名となり,12名中10名に低栄養,低栄養の恐れが認められた。呼吸機能はVC 1.49±0.56(L),%VC 47.75±21.05(%),FVC 1.27±0.55(L),FEV1.0 1.1±0.47(L/sec),CPF 166.25±53.98(L/sec)となり,すべての患者において拘束性換気障害を認めた。またMNA-SFと各呼吸機能において,VC(p=0.002,r=0.79),%VC(p=0.013,r=0.69),FVC(p=0.019,r=0.66),FEV1.0(p=0.026,r=0.64),CPF(p=0.031,r=0.62)となり,各項目ともに高い正の相関を認めた。
【考察】
施設別に低栄養の高齢者の割合をMNA-SFで調査したレビュー論文では,病院38.7%,リハビリ施設50.5%と低栄養の割合が高かったとされており,本研究においても,12名中10名と高い割合で低栄養の恐れがあると認められた。慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者では,栄養不足による骨格筋,呼吸筋の筋力低下が換気制限に関与するとされ,やせはCOPD患者の独立した予後因子とされている。本研究でも,PMD患者の呼吸機能はMNA-SFによる栄養評価と高い正の相関を認め,PMD患者の栄養管理は重要な課題であることが考えられる。実際の栄養障害の有無はアルブミンなどの検査値と上腕周囲長や下腿周囲長の身体計測で判断される。しかし,PMD患者は仮性肥大の影響により,身体計測ではうまく栄養障害を捉えることは難しい。MNA-SFはBMIの測定と問診により簡便に評価でき,侵襲を伴わず行えることに利点がある。今後は症例数を増やし型別での検討,継時的に測定を行い栄養状態の経過について検討していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
MNA-SFによる栄養評価は,PMD患者において,予後やQOLに関連する呼吸機能評価と同様に重要であり,理学療法士が簡便に実施できる一つの指標として有用であると考える。