[1181] Trendelenburg姿勢の体幹筋活動特性
Keywords:片脚立位, 股関節外転筋, 体幹筋
【緒言】
Trendelenburg姿勢(以下,T姿勢)は片脚立位時に骨盤を水平位に保つことができず,骨盤が遊脚側に傾斜する姿勢である。一般にこの姿勢は,股関節外転筋力の低下によって起こるとされている。Myersは,股関節外転筋は側腹筋群とともに外側線を構成し,ともに立位姿勢の側方バランスに関与すると述べている。また多々良らは,股関節外転筋筋活動を骨盤の固定の有無で調べ,骨盤の固定が効率的な筋活動を可能にしたと考察している。これらのことから,片脚立位時の側方バランス維持のために股関節外転筋筋力を発揮する際には,体幹筋による骨盤の安定が必要と考えられるが,両者の関係について検討した報告はない。本研究の目的は,T姿勢において体幹筋と股関節外転筋の筋活動を明確にし,その関係を検討することである。
【方法】
対象は,健常成人男子大学生8名(平均年齢20.0±0.8歳,身長171.9±4.1cm,体重69.6±12.3kg)とした。測定肢位は,片脚立位とT姿勢とし,片脚立位は骨盤を水平位に保持させ,T姿勢は骨盤を遊脚側に最大下降させた。すべての姿勢において,上肢は体側に自然に下垂させ,前方を注視させた状態を5秒間以上保持させた。測定筋は,支持脚側の内腹斜筋,外腹斜筋,多裂筋,中殿筋,大腿筋膜張筋とした。それぞれ筋線維の走行に沿って電極を貼付し,電極が正確に目的とする筋に貼付できているか,超音波画像診断装置(日立メディコ社製Mylab25)を用いて確認した。筋活動の測定は,表面筋電計(キッセイコムテック社製Vital Recorder2)を用い,電極間距離1.2cmのアクティブ電極(S&ME社製)にて双極導出し,サンプリング周波数は1kHzとした。筋活動の解析は,波形の安定していた2秒間を抽出し,全波整流後,自乗平方根値を求め,平均値を算出し行った。さらに,新・徒手筋力検査法の正常段階時の筋活動を100%として正規化し,それぞれの筋の代表値とした。個々の筋について,Wilcoxonの符号順位和検定を用いて,片脚立位とT姿勢の筋活動を比較検討した。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者の個人情報は,本研究にのみ使用し個人が特定できるような使用方法はしないことや研究の趣旨などの説明を書面および口頭にて十分に行った上で,本研究への参加について対象者から同意の署名を得た。
【結果】
内腹斜筋の筋活動量中央値は片脚立位で71.4%,T姿勢で50%と片脚立位がT姿勢より有意に高値を示した(p>0.05)。外腹斜筋の筋活動量中央値は片脚立位で18.3%,T姿勢で19.2%と両者に有意な差は認められなかった。多裂筋の筋活動量中央値は片脚立位で20.5%,T姿勢で20.0%と両者に有意な差は認められなかった。中殿筋の筋活動量中央値は片脚立位で31.1%,T姿勢で21.2%と片脚立位がT姿勢より有意に高値を示した(p>0.05)。大腿筋膜張筋の筋活動量中央値は片脚立位で31.1%,T姿勢で16.3%と片脚立位がT姿勢より有意に高値を示した(p>0.05)。
【考察】
今回,体幹の安定筋とされる内腹斜筋のみに有意な差が認められ,非常に興味深い結果となった。T姿勢で内腹斜筋の筋活動は,片脚立位とくらべ有意に低下した。内腹斜筋は胸腰筋膜の外側縫線に起始を持ち,この筋の収縮で生じる張力は腰椎棘突起を接近させ,腰椎および骨盤を安定させる。しかし,T姿勢では支持脚側が凹に側屈しており,外側縫線が緩んだ状態になるため,内腹斜筋筋力が発揮しにくくなったと考える。また,外腹斜筋,多裂筋の筋活動は有意に変化しなかった。外腹斜筋は,外側縫線に起始していないため腰椎安定に関係しておらず,腰椎側弯の影響を受けなかったと考える。多裂筋は,腰椎の安定に関係するが,その作用は垂直方向のベクトルに表れるとされている。また佐々木らは,腰椎前弯減少に伴い多裂筋の活動が増加したと報告している。したがって,多裂筋は腰椎の矢状方向の安定に深く関係し,側方の安定にはあまり関与していないのではないかと考える。また,中殿筋と大腿筋膜張筋がT姿勢で片脚立位とくらべ有意に低値を示したことから,筋活動量低下の代償として支持脚外側の靱帯等で骨盤を保持していることが確認できた。以上のことから,片脚立位時の側方バランス維持のために,体幹筋のなかでも内腹斜筋と股関節外転筋が協調して働くことがわかった。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果は,片脚立位時に骨盤を水平に保つために,股関節外転筋だけでなく内腹斜筋の活動も必要であることを示している。したがって,Trendelenburg徴候がみられる患者に対しては,股関節外転筋とともに内腹斜筋に対してもアプローチすることが肝要であり,そのようなアプローチによって,効率よく歩容改善できると考える。
Trendelenburg姿勢(以下,T姿勢)は片脚立位時に骨盤を水平位に保つことができず,骨盤が遊脚側に傾斜する姿勢である。一般にこの姿勢は,股関節外転筋力の低下によって起こるとされている。Myersは,股関節外転筋は側腹筋群とともに外側線を構成し,ともに立位姿勢の側方バランスに関与すると述べている。また多々良らは,股関節外転筋筋活動を骨盤の固定の有無で調べ,骨盤の固定が効率的な筋活動を可能にしたと考察している。これらのことから,片脚立位時の側方バランス維持のために股関節外転筋筋力を発揮する際には,体幹筋による骨盤の安定が必要と考えられるが,両者の関係について検討した報告はない。本研究の目的は,T姿勢において体幹筋と股関節外転筋の筋活動を明確にし,その関係を検討することである。
【方法】
対象は,健常成人男子大学生8名(平均年齢20.0±0.8歳,身長171.9±4.1cm,体重69.6±12.3kg)とした。測定肢位は,片脚立位とT姿勢とし,片脚立位は骨盤を水平位に保持させ,T姿勢は骨盤を遊脚側に最大下降させた。すべての姿勢において,上肢は体側に自然に下垂させ,前方を注視させた状態を5秒間以上保持させた。測定筋は,支持脚側の内腹斜筋,外腹斜筋,多裂筋,中殿筋,大腿筋膜張筋とした。それぞれ筋線維の走行に沿って電極を貼付し,電極が正確に目的とする筋に貼付できているか,超音波画像診断装置(日立メディコ社製Mylab25)を用いて確認した。筋活動の測定は,表面筋電計(キッセイコムテック社製Vital Recorder2)を用い,電極間距離1.2cmのアクティブ電極(S&ME社製)にて双極導出し,サンプリング周波数は1kHzとした。筋活動の解析は,波形の安定していた2秒間を抽出し,全波整流後,自乗平方根値を求め,平均値を算出し行った。さらに,新・徒手筋力検査法の正常段階時の筋活動を100%として正規化し,それぞれの筋の代表値とした。個々の筋について,Wilcoxonの符号順位和検定を用いて,片脚立位とT姿勢の筋活動を比較検討した。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者の個人情報は,本研究にのみ使用し個人が特定できるような使用方法はしないことや研究の趣旨などの説明を書面および口頭にて十分に行った上で,本研究への参加について対象者から同意の署名を得た。
【結果】
内腹斜筋の筋活動量中央値は片脚立位で71.4%,T姿勢で50%と片脚立位がT姿勢より有意に高値を示した(p>0.05)。外腹斜筋の筋活動量中央値は片脚立位で18.3%,T姿勢で19.2%と両者に有意な差は認められなかった。多裂筋の筋活動量中央値は片脚立位で20.5%,T姿勢で20.0%と両者に有意な差は認められなかった。中殿筋の筋活動量中央値は片脚立位で31.1%,T姿勢で21.2%と片脚立位がT姿勢より有意に高値を示した(p>0.05)。大腿筋膜張筋の筋活動量中央値は片脚立位で31.1%,T姿勢で16.3%と片脚立位がT姿勢より有意に高値を示した(p>0.05)。
【考察】
今回,体幹の安定筋とされる内腹斜筋のみに有意な差が認められ,非常に興味深い結果となった。T姿勢で内腹斜筋の筋活動は,片脚立位とくらべ有意に低下した。内腹斜筋は胸腰筋膜の外側縫線に起始を持ち,この筋の収縮で生じる張力は腰椎棘突起を接近させ,腰椎および骨盤を安定させる。しかし,T姿勢では支持脚側が凹に側屈しており,外側縫線が緩んだ状態になるため,内腹斜筋筋力が発揮しにくくなったと考える。また,外腹斜筋,多裂筋の筋活動は有意に変化しなかった。外腹斜筋は,外側縫線に起始していないため腰椎安定に関係しておらず,腰椎側弯の影響を受けなかったと考える。多裂筋は,腰椎の安定に関係するが,その作用は垂直方向のベクトルに表れるとされている。また佐々木らは,腰椎前弯減少に伴い多裂筋の活動が増加したと報告している。したがって,多裂筋は腰椎の矢状方向の安定に深く関係し,側方の安定にはあまり関与していないのではないかと考える。また,中殿筋と大腿筋膜張筋がT姿勢で片脚立位とくらべ有意に低値を示したことから,筋活動量低下の代償として支持脚外側の靱帯等で骨盤を保持していることが確認できた。以上のことから,片脚立位時の側方バランス維持のために,体幹筋のなかでも内腹斜筋と股関節外転筋が協調して働くことがわかった。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果は,片脚立位時に骨盤を水平に保つために,股関節外転筋だけでなく内腹斜筋の活動も必要であることを示している。したがって,Trendelenburg徴候がみられる患者に対しては,股関節外転筋とともに内腹斜筋に対してもアプローチすることが肝要であり,そのようなアプローチによって,効率よく歩容改善できると考える。