第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 基礎理学療法 ポスター

身体運動学16

Sat. May 31, 2014 3:45 PM - 4:35 PM ポスター会場 (基礎)

座長:斉藤琴子(帝京平成大学地域医療学部理学療法学科)

基礎 ポスター

[1182] 母趾圧迫力はTerminal Stanceでの前足部の仕事を適正化する

工藤慎太郎1, 下村咲喜2, 稲生侑汰2, 松下智美2, 富田恭輔2, 畠中泰彦3 (1.鈴鹿医療科学大学大学院医療科学研究科博士後期課程, 2.国際医学技術専門学校理学療法学科, 3.鈴鹿医療科学大学保健衛生学部理学療法学科)

Keywords:歩行, 母趾圧迫力, Windlass機構

【はじめに,目的】
歩行における立脚終期(TSt)は,前方への推進力を生み出すため,歩行能力改善において重要な位相の一つとなる。PerryはTStにおける前方への推進力を生成する機序に,forefoot rockerと呼ばれる足部機能が関与していることを述べている。また,その力源として,強い下腿三頭筋の収縮とWindlass機構を挙げ,これらの機能によって適切な踵離地が生じることが重要としている。しかし,Hicksによると,Windlass機構はMTP関節が伸展することで,足底腱膜の緊張が亢進し,前足部の剛性が高まるメカニズムである。つまり,Windlass機構は,踵が挙上した後に働く機序である。そのためTStでの踵離地を効率化する足部機能について検討の余地がある。そこで,効率的なTStを行うための足部機能を明らかにすることを目的に本研究を行った。
【方法】
対象は健常成人男女40名66肢(男性;52肢,女性;14肢,年齢22.0±3.6歳,身長167.9±7.7cm,体重64.7±11.1 kg)とした。
歩行中の運動力学的因子の分析には足圧分布測定器Win-podを用いて計測した。記録周波数は300Hzとし,裸足での歩行を1回計測した。なお,歩行率を113bpmにメトロノームで一定にし,十分な練習後に計測を行った。得られたデータから足底に加わった力を算出し,TStでの力積(FTI)を算出した。得られた全被験者のFTIから四分位範囲を算出し,25%点以下の16足を弱化群,75%以上の16足を過剰群,25~75%範囲内の34足を正常群として分類した。また,デジタルビデオカメラ1台を用いて,立脚期の足部の運動を記録周波数300Hzで側方から撮影し,TStにおけるMTP関節最大背屈角度(MTP角度)をImage-J(NIH)を用いて計測した。母趾圧迫力の計測には,床反力計(アニマ)を用いた。床反力計上に母趾のみを置けるように自作した測定装置を固定し,3秒間の最大努力圧迫における垂直分力を計測した。その際,測定肢位は椅子坐位で,椅子に大腿と骨盤・体幹を固定した状態で実施した。垂直分力から力積を算出し,体重で除した百分率を母趾圧迫力とした。静止立位時の横アーチ長率(TAL)と下腿最大前傾位での横アーチ長率の差をD-TALとして算出し,TALを開帳足,D-TALを横アーチの柔軟性の指標として計測した。
MTP角度,母趾圧迫力,TAL,D-TALの4パラメーターに関して3群間で比較した。統計学的手法には三群間の比較にKruskal Wallis test,post hoc testとして,bonfferoni法を用いた。なお,統計解析にはSPSS ver.18を用いて,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は本学倫理委員会の承認を得て実施した。対象者には本研究の趣旨および対象者の権利を紙面と口頭で説明し,紙面上にて同意を得た。
【結果】
母趾圧迫力は弱化群16.7%(12.9-19.2),正常群21.5%(18.6-25.6),過剰群16.9%(11.9-19.3)で正常群と弱化群・過剰群間に有意差を認めた。その他のパラメーターは有意差を認めなかった。
【考察】
TStで発生する強い足関節底屈モーメントは,下腿三頭筋をはじめとした足外在筋と,足内在筋の総和である。換言すると,FTIは下腿三頭筋と足内在筋で床面を強く押した仕事と考えられる。
足内在筋の緊張は,Windlass機構を調節していると考えられ,足内在筋の緊張が高ければ,Windlass機構も強く作用し,低ければ,Windlass機構は弱くなる。そのため,足内在筋の緊張の低下による開帳足では,Windlass機構が弱まり,FTIが低下すると仮説を立てた。しかし,本研究の結果より,FTIの大小に関わらず,開帳足や前足部横アーチの柔軟性は有意差がなかった。また,FTIにWindlass機構が影響を与えるならば,MTP伸展角度に影響が出現すると考えたが,有意差を認めなかった。つまり,FTIにWindlass機構の与える影響は少ないと考えた。一方,FTIが大きい群と小さい群では,母趾圧迫力が弱化していた。これは,足内在筋の筋力が低下していた例では,床面を十分押すことができず,FTIが低下したためと考えられる。また過剰群は母趾圧迫力の弱化による足関節底屈モーメントの弱化を下腿三頭筋が代償したことで,FTIが過剰に大きくなったと推察している。つまり,適正なTStにおける床面の蹴り出しには,母趾圧迫力により踵離地の前に,足部の剛性を高める機能が必要になると考えた。
【理学療法学研究としての意義】
従来TStでは,下腿三頭筋の収縮とWindlass機構が重要と考えられていた。しかしTStでは受動的なWindlass機構よりも母趾圧迫力などの足部内在筋の筋力といった能動的要素が重要になっている可能性が考えられた。そのため,TStにおける適切な踵離地を促すためには,下腿三頭筋の筋力と共に,母趾圧迫力の強化が重要になることが示唆された。