[1183] 健常成人の自然歩行における足圧中心について
Keywords:歩行分析, 足圧中心軌跡, 足底圧
【はじめに,目的】
歩行とは身体を前方に移動させる動作であり,立脚相と遊脚相を左右交互に繰り返す循環運動である。歩行のような直線的進行を行う循環運動の遂行には加速・減速が必要とされており,両脚支持期で加速,単脚支持期で減速が起きると言われている。我々は,第32回関東甲信越ブロック理学療法士学会において,足圧中心(以下COP)軌跡の前後成分の移動距離と速度の関連性を検討し,立脚前半相と後半相でCOP速度に違いがあることを報告した。健常成人の自然歩行では,COP速度が前半相で速く後半相で遅いパターン,前半相で遅く後半相で速いパターンの2パターンに分類された。立脚期を前半相・後半相に分け,COPの前後成分の変化を検討している報告は少なく,健常人における左右の特徴についても示されていない。そこで,COP軌跡を立脚前半相・後半相に分類し,前後移動速度の左右下肢の関連性および足底圧の変化について比較し,健常成人の自然歩行の特徴について検討することを目的とした。
【方法】
対象は,健常人31名62肢(男性17名,女性14名)年齢22.4±1.9歳 身長166.7±8.9cmであった。歩行条件は10mの自然歩行とし,10回計測を行った。ANIMA社製のシート式足圧接地足跡計測装置(ウォークWay MW-1000)と圧力分布測定装置(プレダスMD-1000)を用い,歩行速度,立脚時間,COP移動速度,足底圧を計測し,左右下肢ごとに平均の値を算出した。COP移動速度は,1,立脚全体(以下COPv),2,前半相(以下COPMsv),3,後半相(以下COPPsv)を算出した。立脚時間の50%のところで,前半相・後半相に分けた。足底圧は,1,前半相ピーク(PmaxMs),2,後半相ピーク(PmaxPs),3,前半相積分値(PiMs),4,後半相積分値(PiPs)を算出した。足底圧の値は正規化を図るために,後半相(PmaxPs)に対する前半相(PmaxMs)の足底圧ピークの割合(Pmax%)と,後半相(PiPs)に対する前半相(PiMs)の積分値の割合(Pi%)を算出した。COP速度を個体間で比較するため,COPMsvがCOPvの平均を左右とも上回る群,下回る群,左右一方が上回り・一方が下回る群に分類した。検討項目はCOPMsvとPmax%,COPMsvとPi%とした。統計解析はSpearmanの順位相関係数を用いて比較検討を行い,危険率は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本実験はヘルシンキ宣言を鑑み,予め説明した実験概要と公表の有無と形式,個人情報の取り扱いに同意を得た被験者を対象にした。
【結果】
COP移動速度は,COPv平均0.31±0.02m/s,COPMsv平均0.36±0.07m/s,COPPsv平均0.26±0.26m/sであった。個体間の比較では,左右とも立脚前半(COPMsv)が平均を上回る群が14名,下回る群が11名,左右いずれか一方が上回り・一方が下回る群が7名となった。Pmax%の平均は0.99±0.09であり,2峰性の波形となった。Pi%の平均は1.04±0.10であった。COPMsvとPmax%(p<0.01 r=0.50),COPMsvとPi%(p<0.01 r=0.49)の間にはそれぞれ正の相関関係を認めた。
【考察】
一般的に立脚時間の50%は足底圧中心を重心が超える点とされており,下肢の役割も大きく変化すると言われている。COPMsvとPi%に正の関係性を認めた。前半相のCOP速度が速いパターンは前半での足圧積分値が高いことから,COP速度から分類されたCOPMsvがCOPvの平均を左右とも上回る群14名と下回る群11名では,前半相・後半相にかかる足圧ストレスが異なることが示唆された。また,左右下肢のCOP速度の分類から31名中25名は左右同パターン(平均を左右とも上回る群,下回る群)とも考えられる。COPMsvとPmax%の関係性は立脚前半相において速度が速いものが足底圧の2峰性の波形の前半相が高くなり,遅いものが足底圧の2峰性の波形の後半相が高くなった。これらは,左右下肢の立脚前半相と後半相の関係性が,片側の立脚後半相で足底圧のピークが高い(低い)と対側の立脚前半相で足底圧のピークが低い(高い)すなわち,両脚支持期の左右合成足底圧を補正する反応としてみられているのではないかと考えた。会津,山本らの報告(1999)では,足底圧は精度の差異はあるものの,床反力の鉛直成分と同様の波形が得られるとしている。健常人の自然歩行において,立脚前・後半のCOPの速度変化に個体差がみられた結果は,両脚支持期で最大となる鉛直成分の加速度を片側の立脚後半相もしくは対側の立脚前半相で対応し,両脚支持期で加速,単脚支持期で減速を可能とする反応であると考えた。
【理学療法学研究としての意義】
今回の健常人の特徴を年齢や疾患別と比較することで,足底圧での評価が正確に患者評価・治療に反映させられると考えます。
歩行とは身体を前方に移動させる動作であり,立脚相と遊脚相を左右交互に繰り返す循環運動である。歩行のような直線的進行を行う循環運動の遂行には加速・減速が必要とされており,両脚支持期で加速,単脚支持期で減速が起きると言われている。我々は,第32回関東甲信越ブロック理学療法士学会において,足圧中心(以下COP)軌跡の前後成分の移動距離と速度の関連性を検討し,立脚前半相と後半相でCOP速度に違いがあることを報告した。健常成人の自然歩行では,COP速度が前半相で速く後半相で遅いパターン,前半相で遅く後半相で速いパターンの2パターンに分類された。立脚期を前半相・後半相に分け,COPの前後成分の変化を検討している報告は少なく,健常人における左右の特徴についても示されていない。そこで,COP軌跡を立脚前半相・後半相に分類し,前後移動速度の左右下肢の関連性および足底圧の変化について比較し,健常成人の自然歩行の特徴について検討することを目的とした。
【方法】
対象は,健常人31名62肢(男性17名,女性14名)年齢22.4±1.9歳 身長166.7±8.9cmであった。歩行条件は10mの自然歩行とし,10回計測を行った。ANIMA社製のシート式足圧接地足跡計測装置(ウォークWay MW-1000)と圧力分布測定装置(プレダスMD-1000)を用い,歩行速度,立脚時間,COP移動速度,足底圧を計測し,左右下肢ごとに平均の値を算出した。COP移動速度は,1,立脚全体(以下COPv),2,前半相(以下COPMsv),3,後半相(以下COPPsv)を算出した。立脚時間の50%のところで,前半相・後半相に分けた。足底圧は,1,前半相ピーク(PmaxMs),2,後半相ピーク(PmaxPs),3,前半相積分値(PiMs),4,後半相積分値(PiPs)を算出した。足底圧の値は正規化を図るために,後半相(PmaxPs)に対する前半相(PmaxMs)の足底圧ピークの割合(Pmax%)と,後半相(PiPs)に対する前半相(PiMs)の積分値の割合(Pi%)を算出した。COP速度を個体間で比較するため,COPMsvがCOPvの平均を左右とも上回る群,下回る群,左右一方が上回り・一方が下回る群に分類した。検討項目はCOPMsvとPmax%,COPMsvとPi%とした。統計解析はSpearmanの順位相関係数を用いて比較検討を行い,危険率は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本実験はヘルシンキ宣言を鑑み,予め説明した実験概要と公表の有無と形式,個人情報の取り扱いに同意を得た被験者を対象にした。
【結果】
COP移動速度は,COPv平均0.31±0.02m/s,COPMsv平均0.36±0.07m/s,COPPsv平均0.26±0.26m/sであった。個体間の比較では,左右とも立脚前半(COPMsv)が平均を上回る群が14名,下回る群が11名,左右いずれか一方が上回り・一方が下回る群が7名となった。Pmax%の平均は0.99±0.09であり,2峰性の波形となった。Pi%の平均は1.04±0.10であった。COPMsvとPmax%(p<0.01 r=0.50),COPMsvとPi%(p<0.01 r=0.49)の間にはそれぞれ正の相関関係を認めた。
【考察】
一般的に立脚時間の50%は足底圧中心を重心が超える点とされており,下肢の役割も大きく変化すると言われている。COPMsvとPi%に正の関係性を認めた。前半相のCOP速度が速いパターンは前半での足圧積分値が高いことから,COP速度から分類されたCOPMsvがCOPvの平均を左右とも上回る群14名と下回る群11名では,前半相・後半相にかかる足圧ストレスが異なることが示唆された。また,左右下肢のCOP速度の分類から31名中25名は左右同パターン(平均を左右とも上回る群,下回る群)とも考えられる。COPMsvとPmax%の関係性は立脚前半相において速度が速いものが足底圧の2峰性の波形の前半相が高くなり,遅いものが足底圧の2峰性の波形の後半相が高くなった。これらは,左右下肢の立脚前半相と後半相の関係性が,片側の立脚後半相で足底圧のピークが高い(低い)と対側の立脚前半相で足底圧のピークが低い(高い)すなわち,両脚支持期の左右合成足底圧を補正する反応としてみられているのではないかと考えた。会津,山本らの報告(1999)では,足底圧は精度の差異はあるものの,床反力の鉛直成分と同様の波形が得られるとしている。健常人の自然歩行において,立脚前・後半のCOPの速度変化に個体差がみられた結果は,両脚支持期で最大となる鉛直成分の加速度を片側の立脚後半相もしくは対側の立脚前半相で対応し,両脚支持期で加速,単脚支持期で減速を可能とする反応であると考えた。
【理学療法学研究としての意義】
今回の健常人の特徴を年齢や疾患別と比較することで,足底圧での評価が正確に患者評価・治療に反映させられると考えます。