第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 基礎理学療法 ポスター

運動生理学2

Sat. May 31, 2014 3:45 PM - 4:35 PM ポスター会場 (基礎)

座長:高橋真(広島大学大学院医歯薬保健学研究院統合健康科学部門)

基礎 ポスター

[1184] 温水頚下浸水の血中サイトカイン動態

櫻井雄太1, 児嶋大介3, 山城麻未1, 東山理加1, 太田晴基1, 森木貴司2, 小川真輝4, 藤田恭久2, 木下利喜生2, 梅本安則5, 田島文博2 (1.那智勝浦町立温泉病院リハビリテーション科, 2.公立大学法人和歌山県立医科大学附属病院リハビリテーション科, 3.公立大学法人和歌山県立医科大学附属病院紀北分院リハビリテーション科, 4.医療法人黎明会北出病院リハビリテーション科, 5.関西電力病院リハビリテーション科)

Keywords:IL-6, TNF-α, CXCL1

【はじめに,目的】
これまで,運動負荷が臓器に影響を与えるシグナル経路は,神経系だと考えられていた。しかし,Pedersenらは筋収縮により筋細胞からInterleukin-6(IL-6)などのサイトカインが発現し,骨格筋が内分泌器官であると報告した。また,温熱負荷でも筋細胞からIL-6が発現することが報告された。CXC motif ligand 1(CXCL1)もまた骨格筋から発現するサイトカインの1つであり,主に血管新生や肝保護,創傷治癒等に作用する。マウスに水泳をさせると,血中IL-6が上昇し,その後血中CXCL1も上昇する。さらに,CXCL1の発現にIL-6が必要不可欠であると報告がある。これらのことから,我々は,温熱負荷による血中IL-6上昇後に血中CXCL1が上昇すると仮説を立てた。そこで我々は20分間の温水頚下浸水前後での血中IL-6,CXCL1,それらの代謝機序に関係するTNF-α,hsCRPを測定した。
【方法】
被験者は若年健常男性8名(年齢25.8±1.2歳,身長173.3±1.4cm,体重70.1±4.2kg)とした。除外基準は糖尿病,心疾患,慢性炎症性疾患,皮膚疾患のない者とした。また,測定前日から激しい運動・カフェイン・アルコールの摂取を禁止した。被験者は室温28℃の環境で,深部体温として食道温をモニタリングしながら安静座位をとった。食道温が安定した後,10分間の安静期間を開始した。その後,42℃の温水に頚まで浸かりながら20分間安静座位をとり,その後再び室温28℃の環境で4時間の安静座位をとった。
浸水前,浸水終了直後,浸水後1時間,浸水後2時間,浸水後3時間,浸水後4時間に医師が採血を行った。採血後,直ちに遠心分離機で血清を分離させ,ELISA法により血中IL-6,CXCL1,TNF-αを測定した。また,hsCRP,赤血球,ヘマトクリット値,ヘモグロビン,単球の測定を行った。
結果の解析は,ANOVAを行い,post hoc testにFisher’s LSD testを用いて負荷前後の検定を実施した。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は倫理委員会の承認されており,実験に先立って被験者には研究の主旨と方法を書面と口頭で十分に説明し,同意を得てから実施した。
【結果】
頚下浸水負荷前後の深部体温は浸水前(36.9±0.4℃)と比較し,浸水終了直後(40.4±0.4℃),浸水後1時間(37.4±0.3℃),浸水後2時間(37.2±0.2℃),浸水後3時間(37.2±0.2℃)に有意な上昇が認められ,浸水後4時間には浸水前水準に戻った。
血中IL-6濃度は,浸水前(0.9±0.3pg/ml)と比較し,浸水後1時間(1.6±0.4pg/ml),浸水後2時間(1.5±0.4pg/ml),浸水後3時間(1.5±0.2pg/ml)に有意な上昇が認められ,浸水後4時間には浸水前水準に戻った。
血中CXCL1,TNF-α,hsCRPは浸水前後で有意な差は認められなかった。
CBCの分画である赤血球,ヘマトクリット値,ヘモグロビン,単球は浸水前後で有意な差は認めなかった。
【考察】
若年健常者において,42℃温水頚下浸水により血中IL-6が増加したが,血中CXCL1は変化がなかった。本研究の結果は,ヘマトクリット値に変化がなかったため,血中IL-6やその他の血液データは温熱負荷による血液濃縮の影響は受けていないと考えられる。IL-6やCXCL1は,炎症反応によりTNF-αや単球によって産生される。しかし,浸水前後でhsCRP,TNF-α,単球数が一定であったことから,炎症反応による血中IL-6の上昇は否定的である。IL-6は筋収縮だけでなく温熱負荷でも筋細胞から発現する事が報告されている。今回の研究では,被験者は安静座位を保ったため,血中IL-6上昇は過去の研究と一致し,筋細胞から由来であると推測する。
また,過去の報告では,マウスに1時間水泳をさせることで血中IL-6が5倍上昇し,その2時間後に血中CXCL1が上昇した。一方,本研究では血中IL-6の上昇が2倍であった。したがって,CXCL1が変化しなかったことはIL-6の発現量が不十分であった可能性も示唆される。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,温熱療法の効果機序を解明する一助となった。