[1187] ラット腓腹筋の伸張性収縮後の温熱刺激は,筋温度上昇とミトコンドリア活動の変化を及ぼす
キーワード:運動器系動物実験, 温熱療法, 寒冷療法
【はじめに,目的】
筋の痛みに対する理学療法は,最も頻繁に行われるリハビリテーション治療法のひとつである。この治療機序解明を目的として,ラット腓腹筋の伸張性収縮と温熱・寒冷刺激を行い,腓腹筋表面と筋温度,ミトコンドリア活性,および機械圧痛閾値の変化を計測した。
【方法】
6週齢のSD雄性ラットを十分にハンドリングにより馴化させ,事前の機械圧痛閾値を測定後,麻酔下にて左腓腹筋外側頭に対して伸張性収縮を行った。伸張性収縮は,腓腹筋外側頭の支配神経である脛骨神経近傍に刺激電極として陰極の針電極を刺入し,単収縮閾値の3倍の電流強度の通電によって筋収縮を誘発すると同時に外力を加え筋を伸張させた。4秒間の伸張性収縮1サイクルを500回繰返した。終了直後からゲルパックによる温熱刺激群(42℃-20分間)寒冷刺激群(10℃-20分間)および介入のない対照群に分けて比較検討した。腓腹筋が位置する表面温度と腓腹筋の筋温度変化を同時に測定した。ミトコンドリア活動の指標として,COX4の経時的変化をウェスタンブロット法により計測した。機械圧痛閾値の変化は12日目まで計測した。
【倫理的配慮】
当大学の動物実験取扱規則の規定に基づき厳格・適正な審査を受け承認を得た後,研究を行った。
【結果】
伸張性収縮後,数日間にわたって機械圧痛閾値の低下が観測され,腓腹筋外側頭に遅発性筋痛が認められた。伸張性収縮中の温度変化観察から,腓腹筋の表面温度と実際の筋温度が筋収縮中に上昇することが明らかとなった。さらに伸張性収縮直後の寒冷刺激により筋温度は約11.4℃下降し,温熱刺激では約2.4℃上昇した。寒冷刺激群では,対照群と同様の圧痛閾値の低下が観測されたが,温熱刺激群では圧痛閾値の低下がみられず,対照群に比べて有意に閾値が上昇した。COX4の発現は,伸張性収縮により収縮後20分から早期に上昇したが,温熱刺激群では伸張性収縮前と同レベルであり,発現増大が有意に抑制されることが判明した。
【考察】
伸張性収縮後の理学療法として,温熱刺激の有効性が確認された。伸張性収縮により筋自体に代謝熱が発生し,その後ミトコンドリアの活性(COX4発現量)が上昇することが判明した。温熱刺激群ではこのミトコンドリア活性が抑制されていることから,温熱刺激によって筋温を上昇させることにより,激しい運動後の筋代謝活動がミトコンドリアを動員しなくてもよい状況に改善される可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
筋の痛みに対する理学療法のひとつである温熱療法に対して,鎮痛効果が確認され,治療機序の一端として筋における代謝活動の変化が関与することが示唆された。
筋の痛みに対する理学療法は,最も頻繁に行われるリハビリテーション治療法のひとつである。この治療機序解明を目的として,ラット腓腹筋の伸張性収縮と温熱・寒冷刺激を行い,腓腹筋表面と筋温度,ミトコンドリア活性,および機械圧痛閾値の変化を計測した。
【方法】
6週齢のSD雄性ラットを十分にハンドリングにより馴化させ,事前の機械圧痛閾値を測定後,麻酔下にて左腓腹筋外側頭に対して伸張性収縮を行った。伸張性収縮は,腓腹筋外側頭の支配神経である脛骨神経近傍に刺激電極として陰極の針電極を刺入し,単収縮閾値の3倍の電流強度の通電によって筋収縮を誘発すると同時に外力を加え筋を伸張させた。4秒間の伸張性収縮1サイクルを500回繰返した。終了直後からゲルパックによる温熱刺激群(42℃-20分間)寒冷刺激群(10℃-20分間)および介入のない対照群に分けて比較検討した。腓腹筋が位置する表面温度と腓腹筋の筋温度変化を同時に測定した。ミトコンドリア活動の指標として,COX4の経時的変化をウェスタンブロット法により計測した。機械圧痛閾値の変化は12日目まで計測した。
【倫理的配慮】
当大学の動物実験取扱規則の規定に基づき厳格・適正な審査を受け承認を得た後,研究を行った。
【結果】
伸張性収縮後,数日間にわたって機械圧痛閾値の低下が観測され,腓腹筋外側頭に遅発性筋痛が認められた。伸張性収縮中の温度変化観察から,腓腹筋の表面温度と実際の筋温度が筋収縮中に上昇することが明らかとなった。さらに伸張性収縮直後の寒冷刺激により筋温度は約11.4℃下降し,温熱刺激では約2.4℃上昇した。寒冷刺激群では,対照群と同様の圧痛閾値の低下が観測されたが,温熱刺激群では圧痛閾値の低下がみられず,対照群に比べて有意に閾値が上昇した。COX4の発現は,伸張性収縮により収縮後20分から早期に上昇したが,温熱刺激群では伸張性収縮前と同レベルであり,発現増大が有意に抑制されることが判明した。
【考察】
伸張性収縮後の理学療法として,温熱刺激の有効性が確認された。伸張性収縮により筋自体に代謝熱が発生し,その後ミトコンドリアの活性(COX4発現量)が上昇することが判明した。温熱刺激群ではこのミトコンドリア活性が抑制されていることから,温熱刺激によって筋温を上昇させることにより,激しい運動後の筋代謝活動がミトコンドリアを動員しなくてもよい状況に改善される可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
筋の痛みに対する理学療法のひとつである温熱療法に対して,鎮痛効果が確認され,治療機序の一端として筋における代謝活動の変化が関与することが示唆された。