第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 内部障害理学療法 ポスター

代謝2

Sat. May 31, 2014 3:45 PM - 4:35 PM ポスター会場 (内部障害)

座長:重田暁(北里大学北里研究所病院診療技術部リハビリテーション技術科)

内部障害 ポスター

[1193] 透析療法後半に下肢の筋痙攣を示した症例の理学療法経験

垣内優芳1,2, 三上英慈3, 肥田典子3, 森明子4 (1.医療法人社団五誓会あさひ病院リハビリ室, 2.兵庫医療大学大学院医療科学研究科, 3.医療法人社団五誓会あさひ病院透析室, 4.兵庫医療大学リハビリテーション学部理学療法学科)

Keywords:透析療法, 筋痙攣, 骨格筋量

【はじめに,目的】
血液透析患者(以下 透析患者)では,透析療法後半に血圧低下を伴う筋痙攣(こむら返り)を起こすことがある。筋痙攣は患者にとって苦痛であり,充分な透析療法の妨げになる。その発生原因には多量に貯留した体液を短時間に除水することによる血管内脱水がある。その他,ドライウエイト(以下DW)の設定不良,電解質濃度の変動,カルシウム(以下Ca),カルニチンの低下なども関係する。筋痙攣の対策には除水を低下ないし中止,10%NaCl溶液投与,補液,カルシウム,カルニチンなどの薬物療法,DWの調整,過剰な飲水に対する患者指導などが挙げられる。
透析患者はその病態から代謝機能の低下に加えて運動耐容能の低下が顕著となり,骨格筋量が減少すると報告されている。骨格筋量の減少は体内の総水分量低下につながるため,脱水による筋痙攣を発生させやすい状態にあると推測する。しかし,透析患者の骨格筋量の増加が筋痙攣を改善するかどうかは明らかではない。今回我々は,長期間の運動療法後に透析療法後半に出現していた下肢の筋痙攣が消失した症例を経験する機会を得たので報告する。
【方法】
症例は糖尿病性腎症で平成23年4月に血液透析導入となった60代前半の男性で,平成24年に右第2趾切断,廃用症候群と診断された。既往歴は糖尿病(HbA1c6.8%),第7頸椎・第1胸椎椎体炎,脳梗塞である。透析療法はオンラインHDF,週3回,バスキュラーアクセスは左上肢である。降圧剤服用中であった。
運動療法開始の前月である平成24年7月時の下肢筋力はF+~G,Barthel Index(以下BI)は65点で歩行や階段昇降困難,入浴も要介助であった。両手指・足趾の変形を認めるも,四肢の運動麻痺や感覚障害はなかった。同月1か月間で計13回透析療法を実施しており,透析前収縮時血圧は152.1±17.8mmHg,透析後収縮期血圧は146.9±15.6mmHg,透析中の下肢痛や下肢の筋痙攣発生回数は13回中3回,透析中の10%NaCl溶液の投与回数は13回中5回であった。DW55kg,心胸比49%,補正Ca値8.2mg/dlであり,蛋白質摂取量を反映する標準化蛋白異化率(以下nPCR)は1.3g/kg/day,全身の骨格筋量を反映する%クレアチニン産生速度(以下%CGR)は91%であった。これらはカルテと血液透析記録結果から調査し,Shinzato式により算出した。
運動療法はカリウム値が6mEq/L未満で不整脈がないことを確認した後に開始した。週2回,1回20分,1年間継続した。治療内容は下肢関節可動域運動,ストレッチ,下肢筋力強化運動とし,透析開始2時間以内の透析中に行った。筋力強化の強度はBorgスケール11(楽である)~13(ややきつい)とした。運動療法開始1年後に下肢筋力,BI,血圧,透析中の下肢痛や筋痙攣発生回数,10%Nacl溶液投与回数,DW,心胸比,補正Ca値,nPCR,%CGRを再評価した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言を遵守した上で研究計画を立案し,対象者には紙面および口頭で本研究の趣旨と目的等の説明を十分に行い,本研究への参加について本人の自由意思による同意を文書にて取得した。
【結果】
運動療法による急激な血圧変動,不整脈,胸部症状の発生はなかった。運動療法開始1年後の両手指・足趾の変形,下肢筋力,BIに著変はなく,1か月間(計13回の透析療法)の透析前収縮時血圧は160.8±18.6mmHg,透析後収縮期血圧は148.4±15.1mmHgであった。透析中の下肢痛や下肢の筋痙攣は平成25年2月頃より消失し,発生回数は0回であった。10%NaCl溶液の投与回数は0回,DWは1年間の中で定期的な修正が行われ最終的に63kg,心胸比は50%であった。補正Ca値9.5mg/dl,nPCR0.81g/kg/day,%CGR98%であった。
【考察】
透析中の下肢痛や筋痙攣は消失し,10%NaCl溶液の投与も不必要となった。これは%CGRの上昇(骨格筋量の改善)によって体内の総水分量が増加し,脱水症状が緩和したと推測する。ただし,nPCRが0.81であり蛋白質の摂取量が不足しており,より効果的な骨格筋量の改善のために蛋白質やエネルギーの摂取を促し,充分な透析療法を行う必要がある。
またADL,QOLなどの視点からDWの検討と修正が行われたこと,Ca値の改善なども筋痙攣改善の要因になったと示唆する。今回はこれらの様々な要因が筋痙攣の改善に影響したと推測され,今後,骨格筋量と筋痙攣の関係性については検討の余地がある。
【理学療法学研究としての意義】
運動療法による骨格筋量の改善は,透析患者の筋痙攣の軽減に繋がる可能性があることが示唆された。