[1195] 除脂肪体重と強度の異なる運動後の酸素消費量との関係
Keywords:除脂肪体重, EPOC, 運動強度
【はじめに,目的】
運動後,酸素消費量(以下VO2)が安静時よりも増加した状態が持続するということはよく知られており,これは運動後余剰酸素消費量(excess post-exercise oxygen consumption;以下EPOC)と呼ばれている。EPOCを生み出す要因については,乳酸の除去やホルモンレベルの上昇,基質利用の変化など諸説ある。また,除脂肪体重は運動中の酸素消費量と相関が認められるとされるが,EPOCとの関連を検討した研究は数少ない。そこで今回,強度の異なる二つの運動を行い,EPOCを除脂肪体重の点から比較し検討することを研究の目的とした。
【方法】
対象は健常成人男性7名(年齢24.3±1.9歳,身長170.9±7.1cm,体重62.4±7.9kg)で,運動習慣がないものとした。実験は3回実施し,それぞれ最大酸素摂取量(以下VO2max)測定,VO2maxの40%の負荷での運動実験(Low Intensity;以下LI),VO2maxの70%の負荷での運動実験(High Intensity;以下HI)であった。最初にVO2maxの測定を行い,LIおよびHIの負荷量を算出し,2つの運動実験は順番を無作為に行った。3つの実験は,それぞれ1週間以上の間隔を設け,実験は昼食後5時間以上経ってから実施した。高強度の運動,飲酒,喫煙,カフェインの摂取は実験前24時間以上避け,実験当日の昼食以降は水のみ摂取を許可するという条件を設定し行った。3つの実験には呼気ガス分析装置(AE-310s,ミナト医科学社製)を用い,breath-by-breath法でデータを30秒ごとに採取し,VO2max測定は漸増負荷法によるall-out testにて行った。運動方式は自転車エルゴメーター(75XL,COMBI社製)を用いた。また,VO2max測定前に体成分分析装置(Inbody230,Biospace社製)を用いて体組成の測定を行った。2つの運動実験は,VO2が定常状態になるまで安静にした後で10分間運動を行い,運動後は背臥位での安静による30分間のデータ測定を行った。統計学的解析は,安静時と運動後のVO2の平均値の差の検定にはWilcoxonの符号付順位和検定を用いた。除脂肪体重とVO2の関連性の検討にはPearsonの積率相関係数を用い,除脂肪体重とEPOCの総量の関連性の検討にはSpearmanの順位相関係数を用いた。統計学的有意水準はすべて5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づき,被験者には本研究の目的,方法,危険性などを十分に説明し,全員から実験に参加することの同意を得た。
【結果】
EPOCはLIで運動後2分30秒時点まで,HIで運動後9分30秒時点まで認められ,EPOCの総量はそれぞれ8.5±0.8L,10.4±1.1Lであった。除脂肪体重と両運動条件におけるEPOCの総量の関連を検討したところ,LIとは有意な正の相関(r=0.89)が認められたが,HIとは有意な相関は認められなかった。また,除脂肪体重と安静時のVO2との間には有意な相関は認められなかったが,LIおよびHIの運動中のVO2と有意な正の相関が認められた(それぞれr=0.81,r=0.81)。
【考察】
本研究では,EPOCと除脂肪体重の関連性は強度によって異なるという結果が得られた。Taharaらは,EPOCの総量と除脂肪体重との間には有意な正の相関が認められると報告しているが,この研究では運動強度が明確に定義されていない。また,Lamontらは,VO2maxの50%の強度で1時間の運動を行わせたところ,EPOCの大きさは性差を問わず除脂肪体重と関連があったと報告している。ただし,運動強度によって除脂肪体重がEPOCに及ぼす影響が異なるという先行研究はなく,本研究の結果からその可能性が示唆された。今回は,HIでは相関は認められず,LIのみで相関が認められた。このことは,運動における代謝回路や,筋収縮に動員される筋線維のタイプなどの影響を受けたことが考えられるが,今後,さらなる研究が望まれる。また,除脂肪体重は両運動条件での運動中のVO2との間には高い相関が認められたが,安静時のVO2との間には有意な相関が認められていないことから,運動中の酸素摂取動態への貢献が大きいことが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果から,EPOCは除脂肪体重とともに運動強度の影響も受けることが示唆された。今後,EPOCの要因を検討する上では,運動中の酸素消費動態と異なることや,運動強度に関しても考慮する必要があることがわかった。
運動後,酸素消費量(以下VO2)が安静時よりも増加した状態が持続するということはよく知られており,これは運動後余剰酸素消費量(excess post-exercise oxygen consumption;以下EPOC)と呼ばれている。EPOCを生み出す要因については,乳酸の除去やホルモンレベルの上昇,基質利用の変化など諸説ある。また,除脂肪体重は運動中の酸素消費量と相関が認められるとされるが,EPOCとの関連を検討した研究は数少ない。そこで今回,強度の異なる二つの運動を行い,EPOCを除脂肪体重の点から比較し検討することを研究の目的とした。
【方法】
対象は健常成人男性7名(年齢24.3±1.9歳,身長170.9±7.1cm,体重62.4±7.9kg)で,運動習慣がないものとした。実験は3回実施し,それぞれ最大酸素摂取量(以下VO2max)測定,VO2maxの40%の負荷での運動実験(Low Intensity;以下LI),VO2maxの70%の負荷での運動実験(High Intensity;以下HI)であった。最初にVO2maxの測定を行い,LIおよびHIの負荷量を算出し,2つの運動実験は順番を無作為に行った。3つの実験は,それぞれ1週間以上の間隔を設け,実験は昼食後5時間以上経ってから実施した。高強度の運動,飲酒,喫煙,カフェインの摂取は実験前24時間以上避け,実験当日の昼食以降は水のみ摂取を許可するという条件を設定し行った。3つの実験には呼気ガス分析装置(AE-310s,ミナト医科学社製)を用い,breath-by-breath法でデータを30秒ごとに採取し,VO2max測定は漸増負荷法によるall-out testにて行った。運動方式は自転車エルゴメーター(75XL,COMBI社製)を用いた。また,VO2max測定前に体成分分析装置(Inbody230,Biospace社製)を用いて体組成の測定を行った。2つの運動実験は,VO2が定常状態になるまで安静にした後で10分間運動を行い,運動後は背臥位での安静による30分間のデータ測定を行った。統計学的解析は,安静時と運動後のVO2の平均値の差の検定にはWilcoxonの符号付順位和検定を用いた。除脂肪体重とVO2の関連性の検討にはPearsonの積率相関係数を用い,除脂肪体重とEPOCの総量の関連性の検討にはSpearmanの順位相関係数を用いた。統計学的有意水準はすべて5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づき,被験者には本研究の目的,方法,危険性などを十分に説明し,全員から実験に参加することの同意を得た。
【結果】
EPOCはLIで運動後2分30秒時点まで,HIで運動後9分30秒時点まで認められ,EPOCの総量はそれぞれ8.5±0.8L,10.4±1.1Lであった。除脂肪体重と両運動条件におけるEPOCの総量の関連を検討したところ,LIとは有意な正の相関(r=0.89)が認められたが,HIとは有意な相関は認められなかった。また,除脂肪体重と安静時のVO2との間には有意な相関は認められなかったが,LIおよびHIの運動中のVO2と有意な正の相関が認められた(それぞれr=0.81,r=0.81)。
【考察】
本研究では,EPOCと除脂肪体重の関連性は強度によって異なるという結果が得られた。Taharaらは,EPOCの総量と除脂肪体重との間には有意な正の相関が認められると報告しているが,この研究では運動強度が明確に定義されていない。また,Lamontらは,VO2maxの50%の強度で1時間の運動を行わせたところ,EPOCの大きさは性差を問わず除脂肪体重と関連があったと報告している。ただし,運動強度によって除脂肪体重がEPOCに及ぼす影響が異なるという先行研究はなく,本研究の結果からその可能性が示唆された。今回は,HIでは相関は認められず,LIのみで相関が認められた。このことは,運動における代謝回路や,筋収縮に動員される筋線維のタイプなどの影響を受けたことが考えられるが,今後,さらなる研究が望まれる。また,除脂肪体重は両運動条件での運動中のVO2との間には高い相関が認められたが,安静時のVO2との間には有意な相関が認められていないことから,運動中の酸素摂取動態への貢献が大きいことが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果から,EPOCは除脂肪体重とともに運動強度の影響も受けることが示唆された。今後,EPOCの要因を検討する上では,運動中の酸素消費動態と異なることや,運動強度に関しても考慮する必要があることがわかった。