第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 生活環境支援理学療法 ポスター

福祉用具・地域在宅7

Sat. May 31, 2014 3:45 PM - 4:35 PM ポスター会場 (生活環境支援)

座長:寺島秀幸(訪問看護リハビリステーション桜)

生活環境支援 ポスター

[1198] 利用者のリハビリテーションにおける自律性を視点に訪問リハビリテーションの目標の共有に取り組んだ症例

宮重有貴1, 石垣智也2, 松本大輔3 (1.松下病院訪問リハビリテーション, 2.東生駒病院リハビリテーション科, 3.畿央大学健康科学部理学療法学科)

Keywords:訪問リハビリテーション, 自律性, 目標設定

【目的】
訪問リハビリテーション(以下,リハビリ)では,目標設定の困難さが指摘されることが多い。目標設定には利用者の積極的関与を得るべきであり,利用者にはリハビリに対する自律性が必要と考えられる。今回,目標設定に関与することにあまり関心がなく,従順な態度を示すことが顕著であった訪問リハビリ利用者に対して,利用者のリハビリにおける自律性を視点に目標の共有に取り組んだ結果を報告する。
【方法】
症例は60歳代の女性であり,左被殻出血発症後(開頭血腫除去術後)であった。発症から9ヵ月後に回復期リハビリ病院を退院し,訪問リハビリ利用を開始された。訪問リハビリは週3回40分ずつ利用された。利用開始から6ヶ月後の時点について記す。FIM運動関連項目は合計56点であり,移動能力は短下肢装具と4点杖を使用して屋内歩行自立であるものの,日中の大半は座位で生活していた。FIM認知関連項目は合計21点であり,失語症を呈していたため,コミュニケーションは簡単なことに限られた。リハビリには良い努力で参加するが,受身的態度であり,Pittsburgh Rehabilitation Participation Scale(以下,PRPS)は4点であった。家族構成は夫,息子,孫2人との同居であった。2階建て住宅の2階で就寝し,日中は1階で過ごしておられた。介護度は要介護3であり,主たる介護は夫が行っていた。訪問リハビリの目標は「屋内歩行の実用性向上」としており,歩行の安楽性を向上させ,歩行頻度の増加により活動量の向上を図るとの説明を口頭と紙面で行っていた。しかし,こちらの提示した目標に従順な態度であり,目標設定に関与することにあまり関心がない様子であった。そこで,自律性を測定するためにCustomer Satisfaction Scale based on Need Satisfaction(以下,CSSNS)を使用した。CSSNSは,欲求の充足を測定する15項目から構成され,その中に「リハビリの内容は自分自身で決めていると感じますか」,「どんなリハビリをするかは自分自身に任せられていると感じますか」,「自分が行うリハビリは自分で自由に選んでいると感じますか」といった自律性の3項目がある。すべての項目に対して「全く感じない」(1点)から「強く感じる」(5点)までの5件法で回答を求める。本症例は自律性の3項目は合計3点であり,自律性の低い状態であった。目標の共有を図るには,利用者からの関与を引き出す必要があると感じ,独自に作成した質問紙を用いて利用者がリハビリ目標とみなしているものを抽出することにした。リハビリ目標になりえる26項目から,利用者が1項目ずつについてリハビリ目標とみなしているかどうかを選択し,その優先順位によって更に3項目を抽出する方法とした。担当者も質問紙へ回答し,回答後に照合することとした。
【研究倫理的配慮】
研究の趣旨について口頭と紙面で説明し,同意を得た。
【結果】
リハビリ目標とみなす項目の優先順位として,本症例は1.表出,2.歩行,担当者は1.歩行,2.表出,3.階段昇降を抽出した。抽出した項目が一致する程度には目標の共有がなされていると確認できた。その際,催促することなく質問紙の回答もあり,利用者の関与を引き出すことが出来た。そこで,目標をさらに具体化することが出来ると判断し,口頭で目標を相談した。症例は,1階では4点杖を使用しておられたが,2階での4点杖使用は夫による持ち運びが必要となっており,2階で伝い歩きが可能となれば,生活の安楽性が高まるとの話ができた。そして,目標を「短下肢装具着用のごく短距離伝い歩き」と具体化して共有することができた。利用開始から8ヶ月後の時点について記す。FIM運動・認知関連項目の合計点は変わりがなかったが,リハビリ内容は「短下肢装具着用のごく短距離伝い歩き」を実際に行なうことが多くなり,症例の取り組みも意欲的となった。リハビリへの参加意欲は向上し,最大努力で参加するが,受身的態度でありPRPSは5点であった。CSSNSによる自律性の3項目は合計8点となり,向上がみられた。短下肢装具着用のごく短距離伝い歩きが可能となったことで,1階と2階の往来頻度も増加し,活動量の向上も図れた。
【考察】
症例は目標設定に関与することにあまり関心がなく,従順な態度であり,リハビリに対する自律性が低い状態であると判断できた。利用者の関与を引き出すことを優先して,目標の共有を図ったことにより,結果として自律性の向上もみられたと考える。さらに,利用者の関与が引き出せたことが目標の具体化にもつながり,意欲の向上とADLの向上が達成できたと感じる。
【理学療法学研究としての意義】
目標設定が漠然としやすい訪問リハビリにおいて,利用者の自律性を測定し,利用者からの関与を引き出すことは目標の共有だけでなく目標の具体化に導ける意義もあると考える。