[1211] 当院における膝蓋骨骨折患者の術後機能成績に疼痛が与える影響
Keywords:膝蓋骨骨折, 機能評価, 疼痛
【はじめに】膝蓋骨骨折に対する手術手技が進歩している一方で,術後機能成績は不良のままであり,膝関節前面痛(AKP)が残るとの報告が多い。また,欧米での術後成績に関する報告は散見されるが,本邦における報告は不足している。そこで本研究の目的は,当院における膝蓋骨骨折患者の術後機能成績を調査することとした。
【方法】対象は2011年11月から2013年6月までに当院で骨接合術を施行された膝蓋骨骨折患者30例とした。下肢骨折の合併のある者,3ヶ月以上の経過観察が困難であった者は除外した。12例(男女各6例)が適合し,カルテより後方視的にデータを収集した。平均年齢62±12歳(36-84歳),手術手技は,screw固定1例,Tension Band Wiring(TBW)9例,ひまわり法2例であった。TBWとひまわり法において各1例ずつ補強術が施行された。平均観察期間は7.9±2.8(3-16)ヶ月であった。
後療法は,術翌日より疼痛自制内で関節可動域運動(ROMex.),Open Kinetic Chainでの筋力トレーニング(筋力ex.)が開始された。術後2週間は膝伸展位固定での全荷重歩行とし,術後3週目より固定を除去し,段階的にClosed Kinetic Chain(CKC)での筋力ex.や階段昇降練習が開始された。補強術を施行された患者は,X線画像所見にて仮骨が確認されるまでは大腿四頭筋settingを行い,仮骨確認後,膝関節自動伸展運動から筋力ex.を進めた。
評価項目は,膝関節可動域(膝ROM),膝伸展筋力,疼痛の有無,Knee Injury and Osteoarthritis Outcome Score(KOOS),患者満足度(Visual Analog Scale)とした。膝伸展筋力は,μTas F-1ハンドヘルドダイナモメーターを使用し健側比を求めた。上記項目に対し,疼痛の有無による2群間比較を行った。統計はR2.8.1を使用し,Mann-whitney U testにて有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に沿って実施した。当院の倫理委員会の承認を得たのち,対象に口頭と文書で説明し同意を得た。
【結果】膝ROMの平均は,屈曲146±9.0°(120~160°),伸展0±0.7°(-5~0°),伸展lagは全例認めなかった。膝伸展筋力健側比の平均は60.2±18.6%(48.3~92.2%)であった。KOOSの平均は下位尺度別にPain(P):81.1±15.7,Symptoms:81.9±9.7,Activities of daily living:84.8±6.9,Sport/recreation(SP):49.2±24.2,Quality of life(Q):58.9±18.4,満足度は85.8±9.9/100mmであった。疼痛は7例に認め,疼痛なし群(5例)と比較すると有意に膝伸展筋力健側比が大きかった(p=0.032)。KOOSは,P(p=0.103),SP(p=0.143),Q(p=0.101)の3項目において,疼痛なし群で成績の良い傾向が認められた。疼痛群は全例AKPを訴えており,86%が階段降段時の疼痛であった。満足度に関して有意差は認めなかった(p=0.805)。
【考察】先行研究では,Lionel(2013)が膝蓋骨骨折術後患者30名における膝ROMの平均を屈曲135°,伸展-1°と報告した。またChristopher(2012)は,20%に伸展lagが残存したとしている。本研究において,術翌日からのROMex.と筋力ex.の開始は良好な膝ROM獲得や伸展lagの改善において有効であった可能性がある。
膝伸展筋力は,先行研究ではBiodex等速性ダイナモメーターによる計測が主であり,本研究は計測方法が異なる。また,術後評価期間が短く,ばらつきも大きいが,疼痛群で有意に筋力低下が認められた点から,疼痛が筋力発揮を阻害していることが予想される。
KOOSはSPとQで制限が大きく,先行研究と同様であった。この2項目は疼痛群で不良な傾向にあったことより,疼痛による筋力低下がスポーツやQOLに影響している可能性がある。しかし,このような機能低下があるにも関わらず,満足度に有意差は認めなかった。本研究の対象は平均年齢が高く,高い活動レベルを必要としないために,術後の機能低下が存在しても満足度に影響しなかった可能性がある。
本研究より,疼痛の残存が機能低下に影響している可能性が示唆された。Christopher(2012)は,80%の患者に降段時・起立時のAKPが残存したと報告しており,AKPは膝屈曲位でのCKC活動時,つまりは膝蓋大腿関節(PF関節)の圧が高まる肢位で発生している。PF関節にかかるストレス増加がAKPを引き起こし,AKPが大腿四頭筋の筋出力を低下させている可能性がある。大腿四頭筋の筋力低下は膝蓋骨マルトラッキングを引き起こし,PF関節のストレスを増加させる悪循環に陥るかもしれない。
【理学療法研究としての意義】膝蓋骨骨折において,疼痛の残存が機能低下に影響している可能性が示唆された。理学療法としては,疼痛軽減に向けPF関節にかかるストレスを軽減させること,大腿四頭筋の筋力低下を最小限に留めることが重要と思われた。
【方法】対象は2011年11月から2013年6月までに当院で骨接合術を施行された膝蓋骨骨折患者30例とした。下肢骨折の合併のある者,3ヶ月以上の経過観察が困難であった者は除外した。12例(男女各6例)が適合し,カルテより後方視的にデータを収集した。平均年齢62±12歳(36-84歳),手術手技は,screw固定1例,Tension Band Wiring(TBW)9例,ひまわり法2例であった。TBWとひまわり法において各1例ずつ補強術が施行された。平均観察期間は7.9±2.8(3-16)ヶ月であった。
後療法は,術翌日より疼痛自制内で関節可動域運動(ROMex.),Open Kinetic Chainでの筋力トレーニング(筋力ex.)が開始された。術後2週間は膝伸展位固定での全荷重歩行とし,術後3週目より固定を除去し,段階的にClosed Kinetic Chain(CKC)での筋力ex.や階段昇降練習が開始された。補強術を施行された患者は,X線画像所見にて仮骨が確認されるまでは大腿四頭筋settingを行い,仮骨確認後,膝関節自動伸展運動から筋力ex.を進めた。
評価項目は,膝関節可動域(膝ROM),膝伸展筋力,疼痛の有無,Knee Injury and Osteoarthritis Outcome Score(KOOS),患者満足度(Visual Analog Scale)とした。膝伸展筋力は,μTas F-1ハンドヘルドダイナモメーターを使用し健側比を求めた。上記項目に対し,疼痛の有無による2群間比較を行った。統計はR2.8.1を使用し,Mann-whitney U testにて有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に沿って実施した。当院の倫理委員会の承認を得たのち,対象に口頭と文書で説明し同意を得た。
【結果】膝ROMの平均は,屈曲146±9.0°(120~160°),伸展0±0.7°(-5~0°),伸展lagは全例認めなかった。膝伸展筋力健側比の平均は60.2±18.6%(48.3~92.2%)であった。KOOSの平均は下位尺度別にPain(P):81.1±15.7,Symptoms:81.9±9.7,Activities of daily living:84.8±6.9,Sport/recreation(SP):49.2±24.2,Quality of life(Q):58.9±18.4,満足度は85.8±9.9/100mmであった。疼痛は7例に認め,疼痛なし群(5例)と比較すると有意に膝伸展筋力健側比が大きかった(p=0.032)。KOOSは,P(p=0.103),SP(p=0.143),Q(p=0.101)の3項目において,疼痛なし群で成績の良い傾向が認められた。疼痛群は全例AKPを訴えており,86%が階段降段時の疼痛であった。満足度に関して有意差は認めなかった(p=0.805)。
【考察】先行研究では,Lionel(2013)が膝蓋骨骨折術後患者30名における膝ROMの平均を屈曲135°,伸展-1°と報告した。またChristopher(2012)は,20%に伸展lagが残存したとしている。本研究において,術翌日からのROMex.と筋力ex.の開始は良好な膝ROM獲得や伸展lagの改善において有効であった可能性がある。
膝伸展筋力は,先行研究ではBiodex等速性ダイナモメーターによる計測が主であり,本研究は計測方法が異なる。また,術後評価期間が短く,ばらつきも大きいが,疼痛群で有意に筋力低下が認められた点から,疼痛が筋力発揮を阻害していることが予想される。
KOOSはSPとQで制限が大きく,先行研究と同様であった。この2項目は疼痛群で不良な傾向にあったことより,疼痛による筋力低下がスポーツやQOLに影響している可能性がある。しかし,このような機能低下があるにも関わらず,満足度に有意差は認めなかった。本研究の対象は平均年齢が高く,高い活動レベルを必要としないために,術後の機能低下が存在しても満足度に影響しなかった可能性がある。
本研究より,疼痛の残存が機能低下に影響している可能性が示唆された。Christopher(2012)は,80%の患者に降段時・起立時のAKPが残存したと報告しており,AKPは膝屈曲位でのCKC活動時,つまりは膝蓋大腿関節(PF関節)の圧が高まる肢位で発生している。PF関節にかかるストレス増加がAKPを引き起こし,AKPが大腿四頭筋の筋出力を低下させている可能性がある。大腿四頭筋の筋力低下は膝蓋骨マルトラッキングを引き起こし,PF関節のストレスを増加させる悪循環に陥るかもしれない。
【理学療法研究としての意義】膝蓋骨骨折において,疼痛の残存が機能低下に影響している可能性が示唆された。理学療法としては,疼痛軽減に向けPF関節にかかるストレスを軽減させること,大腿四頭筋の筋力低下を最小限に留めることが重要と思われた。