[1222] 徒手筋力検査grade3の筋力値と最大筋力値の関係における加齢による相違
Keywords:徒手筋力検査, grade3, 徒手筋力測定器
【はじめに】
徒手筋力測定器(Hand-held Dynamometer:以下HHD)を用いた筋力測定では,客観的かつ定量的に筋力を測定するため,体格や年齢など,対象者個々の特性に対して考慮することを排除している。そのためHHDでの筋力評価では,対象者の特性を考慮した最大筋力の予測値を指標として相対的に評価する必要がある。そこで我々は,理論式から算出可能なMMT grade3の筋力値(以下Mf)を用いて最大筋力値(以下Mm)を予測するために,20代の被験者を対象に股関節屈曲・伸展と膝関節屈曲・伸展運動におけるMfとMmの関係を明らかにし,さらに膝関節伸展運動について,MfとMmの関係における加齢による相違を解析し,第47・48回日本理学療法学術大会にて報告した。しかし,前者の報告から,異なる関節運動ではMfとMmの関係も異なることが示唆されているため,後者の報告結果の膝関節伸展運動以外の関節運動への適用について言及できなかった。よって本研究では,股関節屈曲・伸展運動でのMfとMmの関係における加齢による相違を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は健常者130名のボールの蹴り脚130肢とした。被験者は年齢により,20~30代のA群(40名,平均年齢28.3歳,平均身長166.0cm,平均体重60.8kg),40~50代のB群(46名,平均年齢49.8歳,平均身長163.9cm,平均体重62.3kg),60~70代のC群(44名,平均年齢69.6歳,平均身長160.8cm,平均体重58.5kg)に分類した。実験課題は,股関節屈曲・伸展運動における最大努力での等尺性筋収縮とし,それぞれの抵抗力(以下F)をHHD(アニマ社製μTas MT-1)で測定した。股関節屈曲課題時の測定肢位は,股・膝関節90°屈曲位,骨盤中間位での端座位とし,両上肢は体幹前方で組ませた。股関節伸展課題時の測定肢位は膝関節90°屈曲位での腹臥位とし,両上肢は体側にて脱力させた。HHDの圧力センサーは両課題時とも大腿の遠位1/3の部分に配置し,自作の木製器具と非伸縮性のベルトでベッドに固定した。Fの測定はそれぞれ2回行い,その平均値を代表値とした。また,大腿長とモーメント・アーム長(l:大転子-測定部間距離)と体重も測定した。MfとMmは以下の式にて算出した。MfはDanielsらの定義に基づき,Mf=m・g・L(k1・K+k2)とした。MmはMm=Mf+F・lとした。ただし,m:体重,g:重力加速度=9.8,L:大腿長,k1:大腿の重量係数(男性0.1,女性0.1115),K:大腿の重心位置距離比=0.42,k2:下腿の重量係数(男性0.0725,女性0.0685)。統計ソフトIBM SPSS Statistics Ver.20を用いて,それぞれの実験課題において,各群ごとにMfとMmについて無相関の検定と回帰分析を行った。また,MmについてMfを共変量とする共分散分析を行った。有意水準は5%とした。
【説明と同意】
本研究は,研究代表者の所属機関の研究安全倫理委員会の承認を受け,被験者に研究趣旨と方法を十分に説明し,書面にて承諾を得た上で実施した。
【結果】
両課題とも,各群においてMfとMmの間にはそれぞれ正の相関があった。相関係数は股関節屈曲課題:0.657-0.757,伸展課題:0.567-0.693であった。回帰分析の結果,股関節屈曲課題の各群における回帰式は,A群:Mm=2.364Mf+2.593,B群:Mm=2.111Mf+4.185,C群:Mm=1.855Mf+5.988,決定係数は,A群:0.574,B群:0.432,C群0.489であり,すべて予測に役立つことが確認された。また,股関節伸展課題の各群における回帰式は,A群:Mm=2.072Mf+5.673,B群:Mm=1.762Mf+5.470,C群:Mm=1.326Mf+13.816,決定係数は,A群:0.480,B群:0.321,C群0.352であり,すべて予測に役立つことが確認された。共分散分析の結果,股関節屈曲課題ではA群とC群間に差があり,股関節伸展課題ではA群とB・C群間に差があった。
【考察】
体重と大腿長を測定することにより,股関節屈曲・伸展運動のMfは前述の式から算出される。結果より,年代により異なる回帰式であることが示唆されたが,算出したMfを対象者が該当する年代の回帰式に代入することによりMmは容易に予測される。しかし,A群に対してB群・C群の相関係数が減少したことや,決定係数が減少して回帰式のあてはまりが良くなくなることから,年代が高くなるとMfとMmの関係には個人差が大きくなり,本研究結果を用いたMmの予測の精度は低下すると考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究結果を用いて予測した股関節屈曲・伸展時の最大筋力値は,体重や大腿長といった身体特性を反映している。そのため,患者個々の特性を考慮した,定量的かつ客観的な筋力評価や筋力トレーニング時の目標値の設定において有用であると考える。
徒手筋力測定器(Hand-held Dynamometer:以下HHD)を用いた筋力測定では,客観的かつ定量的に筋力を測定するため,体格や年齢など,対象者個々の特性に対して考慮することを排除している。そのためHHDでの筋力評価では,対象者の特性を考慮した最大筋力の予測値を指標として相対的に評価する必要がある。そこで我々は,理論式から算出可能なMMT grade3の筋力値(以下Mf)を用いて最大筋力値(以下Mm)を予測するために,20代の被験者を対象に股関節屈曲・伸展と膝関節屈曲・伸展運動におけるMfとMmの関係を明らかにし,さらに膝関節伸展運動について,MfとMmの関係における加齢による相違を解析し,第47・48回日本理学療法学術大会にて報告した。しかし,前者の報告から,異なる関節運動ではMfとMmの関係も異なることが示唆されているため,後者の報告結果の膝関節伸展運動以外の関節運動への適用について言及できなかった。よって本研究では,股関節屈曲・伸展運動でのMfとMmの関係における加齢による相違を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は健常者130名のボールの蹴り脚130肢とした。被験者は年齢により,20~30代のA群(40名,平均年齢28.3歳,平均身長166.0cm,平均体重60.8kg),40~50代のB群(46名,平均年齢49.8歳,平均身長163.9cm,平均体重62.3kg),60~70代のC群(44名,平均年齢69.6歳,平均身長160.8cm,平均体重58.5kg)に分類した。実験課題は,股関節屈曲・伸展運動における最大努力での等尺性筋収縮とし,それぞれの抵抗力(以下F)をHHD(アニマ社製μTas MT-1)で測定した。股関節屈曲課題時の測定肢位は,股・膝関節90°屈曲位,骨盤中間位での端座位とし,両上肢は体幹前方で組ませた。股関節伸展課題時の測定肢位は膝関節90°屈曲位での腹臥位とし,両上肢は体側にて脱力させた。HHDの圧力センサーは両課題時とも大腿の遠位1/3の部分に配置し,自作の木製器具と非伸縮性のベルトでベッドに固定した。Fの測定はそれぞれ2回行い,その平均値を代表値とした。また,大腿長とモーメント・アーム長(l:大転子-測定部間距離)と体重も測定した。MfとMmは以下の式にて算出した。MfはDanielsらの定義に基づき,Mf=m・g・L(k1・K+k2)とした。MmはMm=Mf+F・lとした。ただし,m:体重,g:重力加速度=9.8,L:大腿長,k1:大腿の重量係数(男性0.1,女性0.1115),K:大腿の重心位置距離比=0.42,k2:下腿の重量係数(男性0.0725,女性0.0685)。統計ソフトIBM SPSS Statistics Ver.20を用いて,それぞれの実験課題において,各群ごとにMfとMmについて無相関の検定と回帰分析を行った。また,MmについてMfを共変量とする共分散分析を行った。有意水準は5%とした。
【説明と同意】
本研究は,研究代表者の所属機関の研究安全倫理委員会の承認を受け,被験者に研究趣旨と方法を十分に説明し,書面にて承諾を得た上で実施した。
【結果】
両課題とも,各群においてMfとMmの間にはそれぞれ正の相関があった。相関係数は股関節屈曲課題:0.657-0.757,伸展課題:0.567-0.693であった。回帰分析の結果,股関節屈曲課題の各群における回帰式は,A群:Mm=2.364Mf+2.593,B群:Mm=2.111Mf+4.185,C群:Mm=1.855Mf+5.988,決定係数は,A群:0.574,B群:0.432,C群0.489であり,すべて予測に役立つことが確認された。また,股関節伸展課題の各群における回帰式は,A群:Mm=2.072Mf+5.673,B群:Mm=1.762Mf+5.470,C群:Mm=1.326Mf+13.816,決定係数は,A群:0.480,B群:0.321,C群0.352であり,すべて予測に役立つことが確認された。共分散分析の結果,股関節屈曲課題ではA群とC群間に差があり,股関節伸展課題ではA群とB・C群間に差があった。
【考察】
体重と大腿長を測定することにより,股関節屈曲・伸展運動のMfは前述の式から算出される。結果より,年代により異なる回帰式であることが示唆されたが,算出したMfを対象者が該当する年代の回帰式に代入することによりMmは容易に予測される。しかし,A群に対してB群・C群の相関係数が減少したことや,決定係数が減少して回帰式のあてはまりが良くなくなることから,年代が高くなるとMfとMmの関係には個人差が大きくなり,本研究結果を用いたMmの予測の精度は低下すると考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究結果を用いて予測した股関節屈曲・伸展時の最大筋力値は,体重や大腿長といった身体特性を反映している。そのため,患者個々の特性を考慮した,定量的かつ客観的な筋力評価や筋力トレーニング時の目標値の設定において有用であると考える。