第49回日本理学療法学術大会

講演情報

発表演題 ポスター » 神経理学療法 ポスター

発達障害理学療法4

2014年5月31日(土) 15:45 〜 16:35 ポスター会場 (神経)

座長:中林美代子(新潟県はまぐみ小児療育センター診療部訓練室)

神経 ポスター

[1226] 前かがみ立位を呈する痙直型脳性麻痺者の下肢筋活動の特徴について

岩槻拓1, 横井裕一郎1, 増地亮1, 佐藤優2, 吉田順一2 (1.北海道文教大学, 2.北海道社会福祉事業団福祉村保健課)

キーワード:痙直型脳性麻痺, 筋電図, 立位

【はじめに,目的】
脳性麻痺(以下,CP)者の筋緊張は,発達の段階で,痙縮に筋の短縮や拘縮といった運動器系の障害が加わり,痙縮と短縮が混在した状態となる。そのため分離した関節運動や姿勢保持が困難となり,自立した日常生活の遂行が困難なケースが多い。CP者は日常の動作制御に多くの困難をきたすという特性から動作時における筋活動についての研究はされている。しかし,CP者の静止立位時における筋活動については明らかになっていない。そこで,本研究の目的は,股・膝関節屈曲位,尖足位である前かがみ姿勢(crouching posture)といった特異的な立位アライメントを呈している痙直型CP者の立位時の大腿・下腿部の筋活動の特徴を健常人と比較することで明らかにすることとした。
【方法】
対象は,某施設に入所している成人CP者8名(男性6名,女性2名,平均年齢46.3±7.5歳),本学在学の健常者11名(男性7名,女性4名,平均年齢22.5±1.9歳)とした。CP者の取り込み基準は,言語指示の理解,前方でのつかまり立位保持が可能な前かがみ姿勢を呈した痙直型とした。まず,運動課題として,各対象者は10秒間の自然静止立位を実施した。ただし,CP者は前方でのつかまり立位にて実施した。運動課題中の大腿直筋,内側ハムストリングス,前脛骨筋,腓腹筋内側頭の筋活動は,表面筋電図測定装置(NORAXON社製MyoSystem1200)を使用した。最大随意収縮(以下,MVC)測定は徒手筋力検査法に基づいて行うのが通常であるが,CP者は単関節運動が困難であるため最大筋力を発揮できないと考えられる。そこで背臥位姿勢で足背・足底部に徒手抵抗を与え,膝・足関節を意識しての下肢の屈曲・伸展の複合運動を行うことでMVCを測定するという方法を考案し測定した。運動課題により得られた筋電図波形(最も安定した3秒間)は各筋のMVC値により正規化を行った(以下,%MVC)。また,運動課題実施中の映像を撮影し,その静止画をもとにImage Jを用いて立位時の股・膝・足関節の角度を求めた。統計処理として,スチューデントのt検定もしくはウェルチのt検定を用いて,算出した各筋の%MVC値をCP群と健常群の2群間で比較した。また,各筋の%MVC値と各関節角度との相関の有無はピアソンの相関係数を用いた。いずれも有意水準は危険率5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究の内容や個人情報への配慮を説明し,ご本人の同意を得た上で測定を行った。
【結果】
CP群と健常群間での各筋の%MVC値の比較では,大腿直筋(CP群:200±68.1,健常群:2.5±2.5),前脛骨筋(CP群:16.3±6.5,健常群:0.4±0.1),腓腹筋(CP群:9.1±2.8,健常群:2.7±1.9)で有意差が認められた。しかし,内側ハムストリングス(CP群:6.1±2.8,健常群:5.4±5.5)では有意差が認められなかった。また,CP群の立位時の股・膝・足関節角度と各筋の%MVC値には有意な相関関係は認められなかった。
【考察】
CP群は健常群に比べ3つの筋で高い筋活動量を示した。健常者は,立位アライメントが整っているために抗重力筋群それぞれが最小の筋活動量で済むと考える。一方,CP者は,正常から大きく逸脱した前かがみ姿勢といった特異的な立位アライメントを呈しているために過剰な筋活動が起きたと考える。高い筋活動量を示した筋のうち大腿直筋が圧倒的に高値を示した。CP者の立位姿勢は膝関節屈曲位であるが,内側ハムストリングスはほぼ働いておらず,大腿直筋だけが過剰に働いてしまっている。これは,膝関節を屈曲方向へ作用させ,大腿直筋の遠心性収縮によって立位保持を行っていると考える。さらに,CP者の%MVC値が100%を大きく超えていた。これは,MVC計測の際に随意的に最大の筋収縮を出力できないこと,不安定である立位になることで過剰な筋活動が行われていることが関わっていると考えられる。つまり,上位運動ニューロン障害により筋出力の量的・質的制御がなされないと考える。次に,CP者の立位時の足関節平均角度は背屈位であったが,前脛骨筋だけでなく腓腹筋の%MVC値も健常群に比べると高値を示した。同時収縮を起こしているため足関節による協調的な姿勢制御が行えず,膝関節を屈曲させることで立位保持をコントロールしていると考える。各関節角度と各%MVC値に相関関係が認められなかったことから,過剰な筋活動は前かがみ姿勢による屈曲姿勢のみが要因ではなく,上位運動ニューロン障害によるものとも考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究では,CP者の前かがみ立位において大腿直筋の過剰な筋活動によって立位姿勢を保持しているという特徴が示された。これは,上位運動ニューロン障害によるものに加え,立位アライメントが正常から大きく逸脱していることが関与していると考える。重心動揺や感覚などの要素も含め立位アライメントを整えるとともに,筋出力を調整できるようなアプローチが効果的であると考える。