[1227] 自閉症スペクトラム児におけるバランス能力とその関連要因についての検討
キーワード:自閉症スペクトラム, バランス能力, Movement ABC‐2
【はじめに,目的】
自閉症スペクトラム児においては,主な特徴としての社会性,コミュニケーション,想像力の困難さに加えて,手先の不器用さ,協調運動のぎこちなさ,姿勢・バランス不良等の運動面の困難さも認められることが多い。本研究の目的は,標準化された協調運動機能の評価尺度であるMovement Assessment Battery for Children-Second Edition(Movement ABC-2)を用いて学齢期自閉症スペクトラム児のバランス能力を測定し,出生体重,乳幼児期の運動発達の遅れ,外反扁平足の有無との関連性を検討することである。
【方法】
対象は6~12歳の自閉症スペクトラム児33名(男児31名,女児2名)で,平均年齢は9.0±1.9歳(平均±標準偏差)であった。基本属性(身長,体重,出生体重,定頸・初歩の月齢)を保護者から質問紙にて収集した。Movement ABC-2のうちバランステスト(静止立位,線上歩行,ジャンプ)を実施し,得点を年齢帯ごとにStandard Score(SS)に換算した。さらに3課題のSSの合計値であるバランスのComponent ScoreからバランスのSSを求め,16パーセンタイルに相当する7以下の場合に協調運動障害ありと判定した。基本属性より出生体重2500g未満を低出生体重児群とし,乳幼児期の運動発達の指標として定頚5ヶ月以上あるいは初歩18ヶ月以上を運動発達の遅れあり群とした。外反扁平足の有無については両足のフットプリントを採取し,倉らの診断方法に基づき判断した。出生体重と各バランスSS間のSpearmanの相関係数を算出し,さらにバランス能力の関連要因として低出生体重,運動発達の遅れ,外反扁平足についてそれぞれ群分けし,Movement ABC-2のSS各項目の平均の差をMann-WhitneyのU検定を用いて比較した。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は当大学倫理委員会の承認を得,対象児の保護者に研究内容を紙面と口頭にて説明し,書面にて同意を得た上で実施した。
【結果】
全対象者の基本属性とMovement ABC-2の各SSは,出生体重3008.9±442.9g,定頚3.7±0.8ヵ月,初歩13.4±2.4ヵ月,静止立位SS 6.9±3.1,線上歩行SS 7.2±4.0,ジャンプSS 9.8±3.1,バランスSS 7.4±3.0であった。各項目の関連をみると,出生体重と静止立位SS(r=0.377)・線上歩行SS(r=0.570)・バランスSS(r=0.472),静止立位SSと線上歩行SS(r=0.713),線上歩行SSとジャンプSS(r=0.379)の間にそれぞれ有意な相関が認められた。協調運動障害は17名(51.5%)であり,低出生体重児は5名(15.2%),運動発達の遅れは9名(27.0%),外反扁平足は10名(30.3%)で認められた。低出生体重児と非低出生体重児の静止立位SSは3.9±1.0と7.5±3.0,同様に線上歩行SSは2.0±1.0と8.1±3.6,バランスSSは3.6±2.0と8.0±2.7と低出生体重児は非低出生体重児に比較して,有意に低値であった。運動発達の遅れ,外反扁平足の有無について有意差は認められなかった。
【考察】
Movement ABC-2の結果ではジャンプ課題において高得点を示す児が多く認められた。これはジャンプが静止立位や線上歩行に比べ細かな動きの制御を必要としない課題で,注意力や集中の持続を苦手とする自閉症スペクトラム児にとって,取り組みやすい課題であったのではないかと考える。また,低出生体重児ほどバランス能力が低いことが明らかになった。増田ら(2004)による極低出生体重児を対象とした運動機能の調査では,対象児の自閉症スペクトラムの有無との関係性は明らかではないが,出生体重が小さいほどバランス能力が低いことが示されている。今回の結果はそれを支持し,1500g以下の極低出生体重児だけでなく,1500~2500gの低出生体重児でもバランス能力の低さを示し,幼児期だけでなく学齢期まで持続しうることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
自閉症スペクトラム児の運動発達には身体的,認知的,感覚的,心理的要因など様々な要因が関連しており,多因子的に状態を把握していく必要があるが,運動機能と身体構造に関する研究はまだ少ない。今回の検討のように,自閉症スペクトラム児におけるバランス能力の困難さやその特徴が明らかになることで,療育や教育現場で支援する際の一視点として運動機能が加わり,児の状態を多面的に捉えられ,運動の困難さへの理解や対応がしやすくなることが期待される。また,バランス能力と出生体重の関連性が強いことが示唆され,リスクのある児に対しては,より早期からの理学療法の介入によってバランス能力の向上を図ることができるのではないかと考えられる。
自閉症スペクトラム児においては,主な特徴としての社会性,コミュニケーション,想像力の困難さに加えて,手先の不器用さ,協調運動のぎこちなさ,姿勢・バランス不良等の運動面の困難さも認められることが多い。本研究の目的は,標準化された協調運動機能の評価尺度であるMovement Assessment Battery for Children-Second Edition(Movement ABC-2)を用いて学齢期自閉症スペクトラム児のバランス能力を測定し,出生体重,乳幼児期の運動発達の遅れ,外反扁平足の有無との関連性を検討することである。
【方法】
対象は6~12歳の自閉症スペクトラム児33名(男児31名,女児2名)で,平均年齢は9.0±1.9歳(平均±標準偏差)であった。基本属性(身長,体重,出生体重,定頸・初歩の月齢)を保護者から質問紙にて収集した。Movement ABC-2のうちバランステスト(静止立位,線上歩行,ジャンプ)を実施し,得点を年齢帯ごとにStandard Score(SS)に換算した。さらに3課題のSSの合計値であるバランスのComponent ScoreからバランスのSSを求め,16パーセンタイルに相当する7以下の場合に協調運動障害ありと判定した。基本属性より出生体重2500g未満を低出生体重児群とし,乳幼児期の運動発達の指標として定頚5ヶ月以上あるいは初歩18ヶ月以上を運動発達の遅れあり群とした。外反扁平足の有無については両足のフットプリントを採取し,倉らの診断方法に基づき判断した。出生体重と各バランスSS間のSpearmanの相関係数を算出し,さらにバランス能力の関連要因として低出生体重,運動発達の遅れ,外反扁平足についてそれぞれ群分けし,Movement ABC-2のSS各項目の平均の差をMann-WhitneyのU検定を用いて比較した。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は当大学倫理委員会の承認を得,対象児の保護者に研究内容を紙面と口頭にて説明し,書面にて同意を得た上で実施した。
【結果】
全対象者の基本属性とMovement ABC-2の各SSは,出生体重3008.9±442.9g,定頚3.7±0.8ヵ月,初歩13.4±2.4ヵ月,静止立位SS 6.9±3.1,線上歩行SS 7.2±4.0,ジャンプSS 9.8±3.1,バランスSS 7.4±3.0であった。各項目の関連をみると,出生体重と静止立位SS(r=0.377)・線上歩行SS(r=0.570)・バランスSS(r=0.472),静止立位SSと線上歩行SS(r=0.713),線上歩行SSとジャンプSS(r=0.379)の間にそれぞれ有意な相関が認められた。協調運動障害は17名(51.5%)であり,低出生体重児は5名(15.2%),運動発達の遅れは9名(27.0%),外反扁平足は10名(30.3%)で認められた。低出生体重児と非低出生体重児の静止立位SSは3.9±1.0と7.5±3.0,同様に線上歩行SSは2.0±1.0と8.1±3.6,バランスSSは3.6±2.0と8.0±2.7と低出生体重児は非低出生体重児に比較して,有意に低値であった。運動発達の遅れ,外反扁平足の有無について有意差は認められなかった。
【考察】
Movement ABC-2の結果ではジャンプ課題において高得点を示す児が多く認められた。これはジャンプが静止立位や線上歩行に比べ細かな動きの制御を必要としない課題で,注意力や集中の持続を苦手とする自閉症スペクトラム児にとって,取り組みやすい課題であったのではないかと考える。また,低出生体重児ほどバランス能力が低いことが明らかになった。増田ら(2004)による極低出生体重児を対象とした運動機能の調査では,対象児の自閉症スペクトラムの有無との関係性は明らかではないが,出生体重が小さいほどバランス能力が低いことが示されている。今回の結果はそれを支持し,1500g以下の極低出生体重児だけでなく,1500~2500gの低出生体重児でもバランス能力の低さを示し,幼児期だけでなく学齢期まで持続しうることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
自閉症スペクトラム児の運動発達には身体的,認知的,感覚的,心理的要因など様々な要因が関連しており,多因子的に状態を把握していく必要があるが,運動機能と身体構造に関する研究はまだ少ない。今回の検討のように,自閉症スペクトラム児におけるバランス能力の困難さやその特徴が明らかになることで,療育や教育現場で支援する際の一視点として運動機能が加わり,児の状態を多面的に捉えられ,運動の困難さへの理解や対応がしやすくなることが期待される。また,バランス能力と出生体重の関連性が強いことが示唆され,リスクのある児に対しては,より早期からの理学療法の介入によってバランス能力の向上を図ることができるのではないかと考えられる。