第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 基礎理学療法 口述

身体運動学5

Sat. May 31, 2014 4:40 PM - 5:30 PM 第3会場 (3F 301)

座長:金井章(豊橋創造大学保健医療学部理学療法学科)

基礎 口述

[1233] 健常者における歩行中の方向転換課題時の運動戦略の分析

階上弘樹1, 橋場龍進1, 平山麻子1, 風張詩乃1, 田中尚文2 (1.メディカルコート八戸西病院リハビリテーション部, 2.東北大学大学院肢体不自由学分野)

Keywords:歩行, 方向転換, 運動戦略

【はじめに,目的】
高齢者や脳血管疾患片麻痺者は歩行中にバランスを崩し転倒事故発生に至っていることが知られている。日常生活において,直進歩行を連続して行う機会は少ない。転倒は方向転換時に発生することが多い。転倒リスクは,方向転換動作が困難になると高くなることが報告されている。方向転換動作は,方向転換時に踏み切るステップから方向転換を開始する際のステップの出し方によって,スピンターンとステップターンに大きく分けられる。本研究では方向転換課題におけるステップに関する運動戦略を観察評価することを目的とした。今回は高齢者や歩行障害者の転倒予測の評価スケールの一つとして用いるための予備的研究として健常者を対象に行った。
【方法】
対象は健常成人20名(年齢26.5±5.4歳,男女各10名)とした。被験者に対しては,事前指示した方向への方向転換する課題と歩行中に音声合図を与えて指示した方向へ方向転換する課題をそれぞれ実施した。さらに自由速度と遅い歩行速度の2パターンにて同様の課題を実施した。音声合図は4つ(「右」,「左」,「前」,合図無し)用意した。「右」または「左」の場合は右または左へ90度方向転換するように,「前」および合図なしの場合はそのまま直進するように事前に指示した。音声合図は方向転換の1歩前でフットセンサーをトリガにして音声データを再生して指示を出した。指示した方向へ方向転換する課題を各方向に2回の計6回行い,4つの音声合図をランダムに出して方向転換する課題を各2回ずつ計8回行った。歩行速度は2つのパターンで行い,1名あたり計28回測定した。今回の分析では,右下肢を踏み切り時の支持脚とした際の右方向への方向転換とし,20名の各方向転換課題2回ずつ,計40回評価とした。方向転換の運動戦略は,右支持脚の踵部と方向転換を開始する前の左踵部のマーカーを結んだ直線の延長線を基準に分類した。ステップの分類では,基準となる線を左足部が越えた場合をスピンターン,越えない場合をステップターンとした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言を尊重して企画し,当院倫理委員会の承認を得て実施した。対象者には本研究の概要と目的を十分に説明し,個人情報の保護,研究中止の自由などが記載された説明文を用いて説明し,書面にて同意を得たうえで実施した。
【結果】
事前指示した方向への方向転換は歩行速度に関わらずスピンターンを選択する傾向にあった。歩行中に音声合図を与えて方向を指示する方向転換は事前指示した方向転換と比べると,ステップターンを選択した割合が増加する傾向にあった。音声合図による方向転換課題は歩行速度が遅ければスピンターンを選択する割合が増加していた。音声合図による方向転換ではスピンターンに加え,ピボットターン(支持脚前足部での方向転換)の戦略を伴う例が2例あり,他の方向転換課題においてもピボットターンを伴う戦略をとる傾向を認めた。方向を事前指示して自由速度で方向転換を行った際に,スピンターンを行った例のうち12名はtoe out(支持脚が進行方向を向く)していた。事前に方向を指示した課題ではtoe outを伴ってスピンターンした例は12名あり,音声合図による方向転換では,戦略を変えずにスピンターンした例が5名,ステップターンに戦略を変えた例が7名であった。事前指示の際にはtoe outを伴わずにスピンターンした残り8名のうち7名ではスピンターンを選択していた。
【考察】
本研究において方向転換課題における方向転換戦略は4つのパターンに分類された。対象とした健常人においては目的の方向が定まっていればスピンターンの戦略をとり,急な指示での方向転換ではステップターン,もしくはスピンターンにピボットターンを伴った戦略を選択する傾向があることが示された。スピンターンでは体幹回旋に加え両下肢を交差させるため,支持基底面が狭くなり,高いバランス機能が必要となる。しかし,ステップターンよりも側方への重心偏移が少なく,早い速度で効率的に方向転換を行うことができる運動戦略である。健常人においては効率性を求め,スピンターンの戦略を選択することが多いことが示唆された。スピンターンに加えてピボットターンを伴っていた例では,急な指示に対して,支持脚とは対側下肢の交叉による進行方向の転換だけでは不十分であるため,支持脚でのピボットターンで補っていたと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は歩行中の方向転換戦略に着目したことで4つの分類を抽出することができ転倒予測の評価スケールの予備的研究として意義あるものと考える。また,方向転換の運動戦略は,観察にて分類評価できたので,臨床場面においても容易に転倒予測できる評価スケールとして期待される。