[1235] 被験者を固定した条件での徒手筋力計による最大等尺性膝伸展筋力測定の妥当性
Keywords:徒手筋力計, 最大等尺性膝伸展筋力, 妥当性
【はじめに,目的】
理学療法において筋力は重要な評価指標の1つであり,臨床では筋力評価として徒手筋力検査(以下MMT)が行われている。MMTは順序尺度で段階4,5が非常に広い範囲に対応するため,客観的な評価が困難と考えられる。筋力測定のゴールドスタンダードはトルクマシンとされている。しかし,これらの機器は高価であり臨床で使用することは難しい。一方でトルクマシンに比べて安価で簡便な徒手筋力計(以下HHD)を使用して筋力を客観的に測定することが取り組まれており,トルクマシン(Nm)とHHD(kg)の筋力値に有意な相関があり同等の測定が可能であるとされている。しかし,トルクマシンでは被験者を大腿,骨盤,体幹をベルト固定しているのに対して,HHDは上肢把持のみであり,この方法では対象者の体重の影響を受けると考えられる。牛山らは筋力測定器(GT330)を用いた最大等尺性膝伸展筋力測定のトルク体重比は固定の影響を受けることを明らかとしており,大腿,骨盤,体幹,上肢把持した方法が最も高いトルク体重比が測定可能と報告している。HHDも同様の固定をした方法が最も高いトルク体重比の測定が可能と考えられる。しかし,筋力測定のゴールドスタンダードとされるトルクマシンと同等の値が測定可能かは明らかとされていない。そこで本研究の目的は被験者を固定した条件でのHHD法による最大等尺性膝伸展筋力測定の妥当性を明らかとすることとした。
【方法】
対象は20~35歳の健常成人22名,除外基準として現在測定下肢または腰に痛みがあるもの,1年以内に測定下肢の膝関節,大腿部の外傷既往があるものとした。検者1名と記録,タイムキーパー1名の同一2名で測定を行った。測定機器はBiodex4(Biodex社製)とHHDにMobie(酒井医療社製)を使用し,右脚の最大等尺性膝伸展筋力を測定した。Biodex,HHDで測定する際は,両条件とも骨盤,大腿を固定し,被験者は椅子横バーを把持し,Biodexでは体幹の固定として2本のベルトで体幹全体,HHDでは体幹固定として1本のベルトで腹部を固定した。またHHDで測定する際はHHDを後方の支柱にベルト固定した(以下HHD法)。測定姿勢は両条件とも股関節・膝関節屈曲90度座位,センサは下腿遠位前面の下腿軸に垂直にあてた。またHHDでは膝関節中心からセンサ中心までの距離を測定して,得られた筋力からトルク換算を行った。事前に十分な練習を行い,同一の被験者の測定を1日で行い,1条件につき5秒の最大収縮を1分の休憩を挟んで2回実施した。条件間には十分な休憩をとり,測定順はランダムとした。測定中に痛みがあった場合は中止するように事前に説明した。データ分析には各条件の2回測定の最大値を使用し,被験者の体重で除したトルク体重比を使用した。統計処理はSPSSを使用し,正規性の確認後,Pearsonの相関分析,対応のあるt検定,Bland-Altman分析を行った。なお有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は本学の倫理審査委員会の承認を得た。被験者には研究の目的及び測定内容を説明し参加の同意を得た。
【結果】
被験者1名が測定中に膝関節の痛みを訴えたため,データ分析から除外した。対象者は21名(男性13名,女性8名)年齢21.3±3.5歳,身長168.7±7.9cm,体重60.1±7.1kgであった。2条件の最大等尺性膝伸展筋力のトルク体重比はBiodexが2.90±0.76Nm/kg,HHD法が2.64±0.64Nm/kgであった。Pearsonの積率相関係数は0.59(p=0.01)と有意な正の相関を認めた。対応のあるt検定では有意差は認められなかった(p=0.13)。Bland-Altman分析では比例誤差(r=0.27,p=0.24),加算誤差(95%信頼区間:-0.06-0.48)ともに認められなかった。
【考察】
最大等尺性膝伸展筋力測定においてBiodexと被験者を固定したHHD法との条件間には有意な正の相関があることが明らかとなった。また対応のあるt検定では有意差は認められず,Bland-Altman分析でも比例誤差,加算誤差は認められなかった。このことから被験者を大腿,骨盤,体幹,上肢把持で固定したHHD法による最大等尺性膝伸展筋力測定は,妥当性のある測定が可能であることが明らかとなった。一方で,被験者を固定したHHD法の筋力値がBiodexより低い値になる傾向が見られた。これは機器のの違い,体幹の固定方法の違いによるものと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
健常若年者の最大等尺性膝伸展筋力測定を,被験者を固定してHHDで測定する方法は妥当性のある測定であることが示唆された。理学療法の現場で筋力は重要な指標の1つで客観的な評価を行うことは重要であり,今回の結果が適切な筋力評価の実践に向けた一助になるものと考えられる。
理学療法において筋力は重要な評価指標の1つであり,臨床では筋力評価として徒手筋力検査(以下MMT)が行われている。MMTは順序尺度で段階4,5が非常に広い範囲に対応するため,客観的な評価が困難と考えられる。筋力測定のゴールドスタンダードはトルクマシンとされている。しかし,これらの機器は高価であり臨床で使用することは難しい。一方でトルクマシンに比べて安価で簡便な徒手筋力計(以下HHD)を使用して筋力を客観的に測定することが取り組まれており,トルクマシン(Nm)とHHD(kg)の筋力値に有意な相関があり同等の測定が可能であるとされている。しかし,トルクマシンでは被験者を大腿,骨盤,体幹をベルト固定しているのに対して,HHDは上肢把持のみであり,この方法では対象者の体重の影響を受けると考えられる。牛山らは筋力測定器(GT330)を用いた最大等尺性膝伸展筋力測定のトルク体重比は固定の影響を受けることを明らかとしており,大腿,骨盤,体幹,上肢把持した方法が最も高いトルク体重比が測定可能と報告している。HHDも同様の固定をした方法が最も高いトルク体重比の測定が可能と考えられる。しかし,筋力測定のゴールドスタンダードとされるトルクマシンと同等の値が測定可能かは明らかとされていない。そこで本研究の目的は被験者を固定した条件でのHHD法による最大等尺性膝伸展筋力測定の妥当性を明らかとすることとした。
【方法】
対象は20~35歳の健常成人22名,除外基準として現在測定下肢または腰に痛みがあるもの,1年以内に測定下肢の膝関節,大腿部の外傷既往があるものとした。検者1名と記録,タイムキーパー1名の同一2名で測定を行った。測定機器はBiodex4(Biodex社製)とHHDにMobie(酒井医療社製)を使用し,右脚の最大等尺性膝伸展筋力を測定した。Biodex,HHDで測定する際は,両条件とも骨盤,大腿を固定し,被験者は椅子横バーを把持し,Biodexでは体幹の固定として2本のベルトで体幹全体,HHDでは体幹固定として1本のベルトで腹部を固定した。またHHDで測定する際はHHDを後方の支柱にベルト固定した(以下HHD法)。測定姿勢は両条件とも股関節・膝関節屈曲90度座位,センサは下腿遠位前面の下腿軸に垂直にあてた。またHHDでは膝関節中心からセンサ中心までの距離を測定して,得られた筋力からトルク換算を行った。事前に十分な練習を行い,同一の被験者の測定を1日で行い,1条件につき5秒の最大収縮を1分の休憩を挟んで2回実施した。条件間には十分な休憩をとり,測定順はランダムとした。測定中に痛みがあった場合は中止するように事前に説明した。データ分析には各条件の2回測定の最大値を使用し,被験者の体重で除したトルク体重比を使用した。統計処理はSPSSを使用し,正規性の確認後,Pearsonの相関分析,対応のあるt検定,Bland-Altman分析を行った。なお有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は本学の倫理審査委員会の承認を得た。被験者には研究の目的及び測定内容を説明し参加の同意を得た。
【結果】
被験者1名が測定中に膝関節の痛みを訴えたため,データ分析から除外した。対象者は21名(男性13名,女性8名)年齢21.3±3.5歳,身長168.7±7.9cm,体重60.1±7.1kgであった。2条件の最大等尺性膝伸展筋力のトルク体重比はBiodexが2.90±0.76Nm/kg,HHD法が2.64±0.64Nm/kgであった。Pearsonの積率相関係数は0.59(p=0.01)と有意な正の相関を認めた。対応のあるt検定では有意差は認められなかった(p=0.13)。Bland-Altman分析では比例誤差(r=0.27,p=0.24),加算誤差(95%信頼区間:-0.06-0.48)ともに認められなかった。
【考察】
最大等尺性膝伸展筋力測定においてBiodexと被験者を固定したHHD法との条件間には有意な正の相関があることが明らかとなった。また対応のあるt検定では有意差は認められず,Bland-Altman分析でも比例誤差,加算誤差は認められなかった。このことから被験者を大腿,骨盤,体幹,上肢把持で固定したHHD法による最大等尺性膝伸展筋力測定は,妥当性のある測定が可能であることが明らかとなった。一方で,被験者を固定したHHD法の筋力値がBiodexより低い値になる傾向が見られた。これは機器のの違い,体幹の固定方法の違いによるものと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
健常若年者の最大等尺性膝伸展筋力測定を,被験者を固定してHHDで測定する方法は妥当性のある測定であることが示唆された。理学療法の現場で筋力は重要な指標の1つで客観的な評価を行うことは重要であり,今回の結果が適切な筋力評価の実践に向けた一助になるものと考えられる。