第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 基礎理学療法 口述

生体評価学5

2014年5月31日(土) 16:40 〜 17:30 第4会場 (3F 302)

座長:大森圭貢(聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院リハビリテーション部)

基礎 口述

[1238] 徒手筋力計を用いた座位での股関節伸展筋力測定法の有用性について

世古俊明1, 隈元庸夫2, 高橋由依3, 伊藤俊一1 (1.北海道千歳リハビリテーション学院, 2.埼玉県立大学保健医療福祉学部理学療法学科, 3.医療法人愛全会愛全病院)

キーワード:徒手筋力計, 股関節伸展筋力, 座位

【はじめに,目的】
近年,徒手筋力計(HHD)を用いた筋力評価は客観性,簡便性において有用とされ普及しつつある。しかし円背や拘縮にて困難となることが多く,従来の徒手筋力検査法(MMT)の測定肢位が腹臥位をとるものは別法が考案されている。股関節伸展筋力については立位の方法が設けられているが転倒の危険や環境の設定を要することもあり,その検討は未だ不十分である。本研究の目的は,座位,立位,腹臥位における股関節伸展筋力測定時にHHDを用いて,そのトルク値および筋活動量を各々の肢位別で比較検討し,HHDによる筋力測定の有用性を検証することである。
【方法】
対象は健常男性20名(平均22.5歳,169.7cm,65.0kg)とした。
施行運動は等尺性股関節伸展運動とした。測定肢位は座位,立位,腹臥位の3肢位とし,各々測定側の膝関節を屈曲90度位とした。なお座位は骨盤後傾位とし,両手を検査台の上に置き安定を図らせた。また膝窩部を検査台の端より離し,HHDを大腿遠位部1/3の後面に設置した。検者は後方より骨盤を固定し,大腿部を後下方へ押すよう口頭指示を行った。立位と腹臥位においてはMMTの方法に従じて徒手抵抗部位にHHDを設置して実施した。
股関節伸展筋力値(股伸展筋力値)はHHD(Mobie MT-100,酒井医療)を用いてトルク値(Nm)を算出後,体重で除した値(Nm/kg)を採用した。筋活動の測定には表面筋電計(Tele Myo G2,Noraxon社製)を用いた。導出筋は,右側の大殿筋上部線維(UGMa),大殿筋下部線維(LGMa),半腱様筋(Ham),腰部背筋(LE),多裂筋(MF),腹直筋(Abd)の6筋とした。筋活動量はいずれも筋活動ピーク値前後0.5秒の積分筋電値(μVs)とした。また各施行運動での積分筋電値をMMT判定5の筋電値で正規化し算出した値(%MVC)を採用した。なお筋電図は生波形を全波整流し,筋電図解析ソフト(Myoreserch,Noraxon社製)にて解析した。
各肢位における股伸展筋力値の検者内信頼性をICC(1.1)にて検討した。また各肢位間の股伸展筋力値と筋活動量の関連はPearsonの積率相関係数とSpearmanの順位相関係数にて検討し,股伸展筋力値と%MVCの各肢位での比較はt検定とHolmの方法を用いて検討した。なお有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者にはヘルシンキ宣言に則り,十分な配慮を行い,本研究の目的と方法,個人情報の保護について十分な説明を行い,同意を得た。
【結果】
股伸展筋力値の検者内信頼性は全ての肢位で高値を示した(ICC(1.1)=0.84~0.93)。股伸展筋力値は各肢位間で有意な相関を認め,座位と腹臥位間が最も高値を示した(r=0.75)。また各肢位間の比較では立位,座位,腹臥位の順に股伸展筋力値が高値を示した。筋活動量はUGMa,LGMaがいずれも各肢位間で高い相関を認めた(r=0.83~0.91)。また各肢位間の比較では,腹臥位での筋活動を基準とし%MVCを算出したUGMa,LGMaが座位と立位で差を認めなかった。Hamは立位が座位より高値を示し,LE・MFは腹臥位,Abdは座位が他の肢位より高値を示した。
【考察】
HHDでの筋力測定は代償運動の影響が強く,小林らは座位の測定においては固定を一定にするのが困難としている。しかし今回,座位では両上肢の支持と骨盤の固定に配慮したため再現性の高い股伸展筋力値の測定が可能になったと考える。股伸展筋力値とUGMa,LGMaの筋活動量は,座位と腹臥位で特に高い相関を認めたことから,座位での測定は従来の腹臥位での測定と同様に股伸展筋力値およびGMa筋活動を反映しうる可能性を示唆したものと考える。
各肢位間での筋活動量の比較では,UGMa,LGMaは座位と立位間に差を認めない一方で,Hamは立位が座位よりも高値を示した。このことは股伸展筋力値が座位に比べ立位で高値を示したことからも,立位ではHamの活動が影響していたこと,座位ではHamの活動が抑制されGMaによる股伸展トルクが発揮されていた可能性が考えられた。また腹臥位でのLE・MFは体幹と骨盤の固定に活動しやすく,座位の骨盤の後傾位保持にAbdは活動していたことが考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
座位でHHDを用いた股関節伸展筋力測定は再現性が高く,従来のMMT測定法である腹臥位での股伸展筋力値およびGMa筋活動を反映していることから,腹臥位での筋力評価が困難な場合においても用いることが可能となる有用な評価法と考える。また座位での測定法は立位とは異なり比較的安全な肢位であり,骨盤の固定性の問題がクリアされれば在宅や訪問リハ,さらには対象者自らが測定し,筋力をセルフモニタリングできる可能性がある。