[1239] OLETFラット(2型糖尿病モデルラット)のγ運動ニューロンが選択的に減少する
Keywords:糖尿病性神経障害, 2型糖尿病, 運動ニューロン
【はじめに,目的】
代表的な糖尿病合併症の1つである糖尿病性ニューロパチー(以下DPN)は発症の初期から感覚障害や自律神経障害などが観察される一方,慢性期に至るまで筋力低下が殆ど観察されないことが知られている。これらの特徴から運動神経系はDPNに強い耐性を持つと考えられてきたが,最近,我々は1型糖尿病ラットのγ運動ニューロンが糖尿病発症初期に選択的に減少することを発見し,従来の考え方が誤りであることを明らかにした。しかしながら,1型糖尿病モデル動物は極端な高血糖に起因する慢性的なケトアシドーシス状態にあるため,運動ニューロン障害がケトアシドーシスに起因する可能性を排除できないという問題がある。また,全糖尿病患者に占める1型糖尿病の割合は数%と少なく,糖尿病患者の大多数は2型糖尿病であるため,2型糖尿病モデル動物においても1型糖尿病と同様の現象が観察されるのか調べることには社会的意義がある。
そこで今回,我々はOLETFラット(2型糖尿病モデルラット)を対象に内側腓腹筋を支配する運動ニューロンの形態学的解析を行って,1型糖尿病モデル動物と同様にγ運動ニューロンの減少が生じるのか検討した。
【方法】
実験には45週齢OLETFラット(2型糖尿病ラット:糖尿病群)6頭と同週齢のLETOラット(OLETF対照群)6頭を用いた。OLETFラットは定期的にOGTT試験を行い,20から25週齢までの間に全ての個体が糖尿病を発症したことを確認した。
実験はハロタン吸入麻酔下にて行った。まず,右の膝窩部を切開し,右内側腓腹筋を支配する神経枝をDextran-Texas Red溶液に2時間暴露して,術創を閉じた。15日間の生存期間の後,ネンブタール腹腔内麻酔による深麻酔下にて左心室から4%パラフォルムアルデヒド溶液にて灌流固定を行い,腰髄以下の脊髄を摘出した。次に,脊髄から80μmの連続切片を作成し,蛍光顕微鏡下にて運動ニューロンを観察後,標本のデジタルイメージを撮影,Image Jを用いて運動ニューロン数と細胞体の面積を計測した。
統計学的解析はMann-WhitneyのU検定を用い,有意水準は危険率5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は健康科学大学動物実験倫理委員会の承認を経て行なわれた。
【結果】
運動ニューロンの総数は対照群の平均133.5個に比較して糖尿病群では平均105.5個と減少した(P<0.05)。運動ニューロンの細胞体面積の分布を示すヒストグラムはいずれの群も600μm2付近を境に小型と大型の細胞集団が明瞭に区別可能で,その分布は2峰性を示していた。次に細胞体面積600μm2以下のものを小型の運動ニューロン,それ以上を大型の運動ニューロンと定義し,その数を比較すると,小型の運動ニューロンは対照群の平均44個に対して糖尿病群は27.5個と有意に減少したが(P<0.05),大型の神経細胞は対照群(平均81個),糖尿病群(平均84個)と両群間に差が認められず,運動ニューロンの減少は細胞面積600μm2以下の小型の運動ニューロンに集中していた。
【考察】
本研究が示す最も重要な事実は2型糖尿病モデルラットの内側腓腹筋を支配する運動ニューロンのうち,細胞体面積が600μm2以下の小型の神経細胞が消失・減少した点にある。小型の運動ニューロンの選択的減少はI型糖尿病ラットにも共通して観察されるものであり,糖尿病の病型やアシドーシスの有無に関わらずDPNを発症した糖尿病患者において広く小型の運動ニューロンが減少することを示唆するものである。複数の先行研究によって小型の運動ニューロンは固有受容器である筋紡錘の感度調節を行うγ運動ニューロンであることが知られているため,DPNによって消失する運動ニューロンの大部分はγ運動ニューロンであると考えられる。γ運動ニューロンの脱落症状は筋力の低下を起こさない代わりに筋紡錘の感度低下によるアキレス腱反射の消失やバランス障害を起こすと考えられるが,これらの症状はDPNの臨床所見と良く合致している。
【理学療法学研究としての意義】
本研究はDPNによるγ運動ニューロンの減少が糖尿病の病型によらず観察されることを初めて示すものである。今後,モデル動物に運動療法を行い,その効果を検討することで,糖尿病リハビリテーションにおける理学療法士の役割をさらに広げる可能性がある点に意義がある。
代表的な糖尿病合併症の1つである糖尿病性ニューロパチー(以下DPN)は発症の初期から感覚障害や自律神経障害などが観察される一方,慢性期に至るまで筋力低下が殆ど観察されないことが知られている。これらの特徴から運動神経系はDPNに強い耐性を持つと考えられてきたが,最近,我々は1型糖尿病ラットのγ運動ニューロンが糖尿病発症初期に選択的に減少することを発見し,従来の考え方が誤りであることを明らかにした。しかしながら,1型糖尿病モデル動物は極端な高血糖に起因する慢性的なケトアシドーシス状態にあるため,運動ニューロン障害がケトアシドーシスに起因する可能性を排除できないという問題がある。また,全糖尿病患者に占める1型糖尿病の割合は数%と少なく,糖尿病患者の大多数は2型糖尿病であるため,2型糖尿病モデル動物においても1型糖尿病と同様の現象が観察されるのか調べることには社会的意義がある。
そこで今回,我々はOLETFラット(2型糖尿病モデルラット)を対象に内側腓腹筋を支配する運動ニューロンの形態学的解析を行って,1型糖尿病モデル動物と同様にγ運動ニューロンの減少が生じるのか検討した。
【方法】
実験には45週齢OLETFラット(2型糖尿病ラット:糖尿病群)6頭と同週齢のLETOラット(OLETF対照群)6頭を用いた。OLETFラットは定期的にOGTT試験を行い,20から25週齢までの間に全ての個体が糖尿病を発症したことを確認した。
実験はハロタン吸入麻酔下にて行った。まず,右の膝窩部を切開し,右内側腓腹筋を支配する神経枝をDextran-Texas Red溶液に2時間暴露して,術創を閉じた。15日間の生存期間の後,ネンブタール腹腔内麻酔による深麻酔下にて左心室から4%パラフォルムアルデヒド溶液にて灌流固定を行い,腰髄以下の脊髄を摘出した。次に,脊髄から80μmの連続切片を作成し,蛍光顕微鏡下にて運動ニューロンを観察後,標本のデジタルイメージを撮影,Image Jを用いて運動ニューロン数と細胞体の面積を計測した。
統計学的解析はMann-WhitneyのU検定を用い,有意水準は危険率5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は健康科学大学動物実験倫理委員会の承認を経て行なわれた。
【結果】
運動ニューロンの総数は対照群の平均133.5個に比較して糖尿病群では平均105.5個と減少した(P<0.05)。運動ニューロンの細胞体面積の分布を示すヒストグラムはいずれの群も600μm2付近を境に小型と大型の細胞集団が明瞭に区別可能で,その分布は2峰性を示していた。次に細胞体面積600μm2以下のものを小型の運動ニューロン,それ以上を大型の運動ニューロンと定義し,その数を比較すると,小型の運動ニューロンは対照群の平均44個に対して糖尿病群は27.5個と有意に減少したが(P<0.05),大型の神経細胞は対照群(平均81個),糖尿病群(平均84個)と両群間に差が認められず,運動ニューロンの減少は細胞面積600μm2以下の小型の運動ニューロンに集中していた。
【考察】
本研究が示す最も重要な事実は2型糖尿病モデルラットの内側腓腹筋を支配する運動ニューロンのうち,細胞体面積が600μm2以下の小型の神経細胞が消失・減少した点にある。小型の運動ニューロンの選択的減少はI型糖尿病ラットにも共通して観察されるものであり,糖尿病の病型やアシドーシスの有無に関わらずDPNを発症した糖尿病患者において広く小型の運動ニューロンが減少することを示唆するものである。複数の先行研究によって小型の運動ニューロンは固有受容器である筋紡錘の感度調節を行うγ運動ニューロンであることが知られているため,DPNによって消失する運動ニューロンの大部分はγ運動ニューロンであると考えられる。γ運動ニューロンの脱落症状は筋力の低下を起こさない代わりに筋紡錘の感度低下によるアキレス腱反射の消失やバランス障害を起こすと考えられるが,これらの症状はDPNの臨床所見と良く合致している。
【理学療法学研究としての意義】
本研究はDPNによるγ運動ニューロンの減少が糖尿病の病型によらず観察されることを初めて示すものである。今後,モデル動物に運動療法を行い,その効果を検討することで,糖尿病リハビリテーションにおける理学療法士の役割をさらに広げる可能性がある点に意義がある。