第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 セレクション » 内部障害理学療法 セレクション

代謝

Sat. May 31, 2014 5:45 PM - 6:45 PM 第5会場 (3F 303)

座長:大平雅美(信州大学医学部保健学科), 横地正裕(医療法人三仁会あさひ病院リハビリテーション科)

内部障害 セレクション

[1240] 血液透析患者の身体活動量は骨代謝と関連する

米木慶1, 松永篤彦1, 北川淳1, 松沢良太1,2, 阿部義史1, 原田愛永1, 高木裕2, 吉田煦2 (1.北里大学大学院医療系研究科, 2.さがみ循環器クリニック)

Keywords:血液透析, 代謝, 身体活動量

【はじめに,目的】
維持血液透析(HD)患者は,多彩な全身性の骨代謝異常を呈することが知られている。この骨代謝異常は,慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常(CKD-MBD)と称され,血管の石灰化等を介して生命予後に影響を及ぼす強力な因子として知られている。現在,HD患者の骨代謝を改善するための治療として,リン吸着薬やシナカルセト塩酸塩を中心とする薬物療法が行われているが,これらの薬剤には,吐き気や便秘などの消化器系の副作用をきたすものも多く,未だ骨代謝を改善する治療薬は確立されていない。一方,健常者を対象とした研究では,歩行などの日常の身体活動が骨代謝と関連すると報告されている。しかし,HD患者の骨代謝は腎機能の荒廃によって,ビタミンDを活性型ビタミンDに変換できないこと,さらには二次性副甲状腺機能亢進症によって副甲状腺ホルモンが過剰に分泌されるなど,HD患者特有の病態が関与するため,身体活動が骨代謝と関連するか否かは未だ不明である。そこで,本研究は週3回の外来通院が自立しているHD患者を対象に,臨床的背景因子および血液指標を調整したうえで,骨代謝と身体活動量の関連について多変量解析を用いて明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は,2008年10月から2011年10月の期間に週3回の透析クリニックへの外来通院が自立しているHD患者308例とした。なお,安定した透析療法が行えていない者,歩行に介助を要する者,認知症の疑いがある者,ビスフォスフォネート製剤を使用している者,悪性腫瘍を有する者,下肢切断者,重度の視力障害がある者および閉経前女性は対象から除外した。調査項目は,臨床的背景因子として,年齢,性別,HD歴,body mass index(BMI)およびHD導入の原疾患を診療録から調査した。血液指標は,補正カルシウム(Ca),血清リン(P),血清アルブミン(Alb),血清副甲状腺ホルモン濃度(i-PTH)を診療録から調査した。骨代謝は,骨型アルカリフォスファターゼ(BAP)を診療録から調査した。なお,BAPは種々ある骨代謝マーカーの中でも,HD療法の影響を受けない指標であることが明らかにされている。身体活動量は,加速度計付歩数計(ライフコーダ,SUZUKEN)を用いて1日あたりの歩数を測定した。なお,測定期間は,睡眠時と入浴時を除いた24時間,連続7日間とし,解析には非透析日の1日平均歩数を用いた。解析方法は,ピアソンの積率相関係数を用いて,BAPと歩数の関連を男女別に検討した。次に,年齢,HD歴,Ca,Pおよびi-PTHで調整した重回帰分析を男女別に用いて,歩数とBAPとの関連を検討した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は北里大学医療衛生学部研究倫理審査委員会の承諾を受けており,対象者には本研究の意義ならびに測定に伴う注意事項を十分に説明し,同意を得た。
【結果】
全対象者308例のうち,除外基準に該当した104例を除外した後,研究の同意が得られなかった82例を除外した。観察の対象となったのは,122例(年齢67.7±8.5歳,女54例,BMI 21.3±3.0 kg/m2,HD歴8.6±8.6年,Ca 9.3±0.6 mg/dL,P 5.0±0.9 mg/dL,Alb 3.9±0.3 g/dL,i-PTH 124.8±96.1 pg/mL,歩数4153.4±2781.4歩/日,BAP 12.6±5.1 µg/L)であった。ピアソンの積率相関係数の結果,歩数とBAPは男女ともに有意な正の関連を認めた(それぞれ,p<0.05)。患者背景因子および血液指標で調整した重回帰分析の結果,HD患者の歩数とBAPは,男女ともに有意な正の関連を認めた(それぞれ,p<0.05)。
【考察】
健常者を対象とした報告では,高い身体活動量は,骨吸収の抑制や骨形成の促進に効果的に働くことが示されている。しかし,HD患者の多くは,腎機能の荒廃による活性型ビタミンDの産生障害や副甲状腺機能の障害を有するため,健常者とは異なる骨代謝動態(低回転あるいは高回転)を呈すると考えられる。そこで本研究は,単変量解析に加えて,HD歴や副甲状腺機能などの因子を調整して多変量解析を行った結果,高い身体活動量は骨形成を促進する独立した因子であることが示された。このことから,HD患者の骨代謝異常に対する治療手段の1つとして,日常の身体活動量の管理を目的とする運動療法(運動指導)を展開する必要があると考えられた。なお,HD患者の骨代謝は,低回転と高回転のどちらにおいても生命予後を増悪させるが,身体活動量の維持・向上によって,骨代謝を適正にコントロールすることが可能か否かについては,更なる検討が必要である。
【理学療法学研究としての意義】
CKD-MBDは,HD患者の生命予後に影響する全身性病変として広く知られている一方,未だ具体的な治療指針が確立されていない。本研究は,CKD-MBDに対する非薬物療法として,運動療法の適応を確立するための一助と成り得る。