第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 セレクション » 内部障害理学療法 セレクション

代謝

2014年5月31日(土) 17:45 〜 18:45 第5会場 (3F 303)

座長:大平雅美(信州大学医学部保健学科), 横地正裕(医療法人三仁会あさひ病院リハビリテーション科)

内部障害 セレクション

[1241] 男性2型糖尿病患者における足趾筋力の検討

片岡弘明1, 田中聡2, 宮崎慎二郎1, 石川淳1, 北山奈緒美1, 林野収成1 (1.KKR高松病院リハビリテーションセンター, 2.県立広島大学保健福祉学部理学療法学科)

キーワード:2型糖尿病, 糖尿病多発神経障害, 足趾筋力

【はじめに,目的】近年,2型糖尿病患者の運動機能障害に関する研究により,糖代謝異常の改善を目的とした運動療法に加えて,運動機能障害に対する理学療法の重要性が認識されつつある。運動機能障害の一つに,2型糖尿病患者の膝関節および足関節周囲筋の筋力が健常者に比べて約20%低下していることが先行研究より明らかにされているが,これまで足趾筋力の変化については不明であった。そこでわれわれは,第48回日本理学療法学術大会において男性2型糖尿病患者の足趾筋力の変化について糖尿病多発神経障害(diabetic polyneuropathy:DP)の有無別に検討し,DP合併者の方が非DP合併者よりも有意に筋力が低下していたことを報告したが,健常者との比較は検討できておらず,十分な知見を得られたとは言い難い。そこで本研究では,新たに健常者(control)群を設定し,DPを合併した者とDPを合併していない者の3群に分類し,足趾筋力の変化について検討を行ったので報告する。
【方法】対象は,男性2型糖尿病患者49名(平均年齢55.9±11.8歳,平均罹病期間11.1±8.7年)とcontrol群35名(平均年齢58.5±11.5歳)である。感覚異常が片側のみ,あるいは下肢ではなく上肢のみに認められる患者,急性代謝障害,急性または慢性の骨関節・運動器疾患,脳血管疾患,足趾変形,足部の筋萎縮を認める者は研究対象から除外した。2型糖尿病患者をDP合併の有無別に分類するため,糖尿病神経障害を考える会が考案した簡易診断基準を用い,自覚症状の有無,両側のアキレス腱反射,両足部の内果の振動覚について評価した。そして3項目のうち2項目以上で異常が認められた者をDP群,認められなかった者を非DP群に分類した。足趾筋力の測定には足趾間圧力計測器(日伸産業株式会社製)を用い,左右それぞれ2回ずつ測定し,最大値を採用した。得られた足趾筋力(kg)は,体格による影響を除くため左右筋力の和から体重で除した値である体重比(%)を算出した。検討項目として背景因子(年齢,身長,体重,BMI),糖尿病関連因子(HbA1c,糖尿病罹病期間,運動習慣および薬物療法の有無)について調査し3群間で比較した。さらに糖尿病罹病期間と足趾筋力との関係についても検討した。統計学的解析は,3群間の背景因子および足趾筋力の比較にはKruskal-Wallis検定を用い,多重比較検定としてSteel-Dwass法を用いた。糖尿病関連因子の比較にはMann-WhitneyのU検定,運動療法と薬物療法の比較にはχ二乗検定,糖尿病罹病期間と足趾筋力との関係については,Spearmanの順位相関係数検定を用いた。データ解析には統計解析用ソフトウェアSPSS 20.0 for windowsを使用し,有意水準は5%未満に設定した。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,当院の研究倫理委員会の承認を得ており,全ての対象者に対して研究開始前に本研究の趣旨について口頭と書面にて十分な説明を行い,署名によって同意を得た後に実施した。
【結果】DP群は23名,非DP群は26名であった。背景因子においては3群間で有意差は認められなかった。糖尿病関連因子では,糖尿病罹病期間がDP群の方が非DP群よりも有意に長く(14.5±8.7 vs 8.1±7.6,p=0.0121),HbA1cでは有意差は認められなかった。運動療法および薬物療法の有無おいても有意差は認められなかった。足趾筋力はcontrol群が6.18±1.96%,非DP群が4.60±1.59%,DP群が3.19±1.30%であり,DP群はcontrol群(p<0.0001)および非DP群(p=0.0130)よりも有意に低値を示した。非DP群はcontrol群よりも有意に低値を示した(p=0.0027)。糖尿病罹病期間と足趾筋力では有意な負の相関関係を認めた(r=-0.32,p<0.05)。
【考察】本研究の結果から,control群,非DP群,DP群の順に足趾筋力が低下していることが明らかになったことは,対象部位は異なるが2型糖尿病患者の膝関節および足関節の筋力低下を示した先行研究と同様の結果となり,DPが筋力低下に関与している可能性が示唆された。DPを合併していない段階から健常者よりも筋力低下を認めること,DPはより長い神経線維の遠位部(足尖部)から障害され,他の慢性合併症よりも早期に出現すること,さらに糖尿病罹病期間との間に負の相関関係が認められたことを考慮すると,糖尿病発症後早期から足趾筋力の低下に配慮した理学療法が必要となる可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】本研究から,新たな2型糖尿病患者の運動機能障害についての知見を示すことができた。足趾筋力の低下は歩行中の転倒や,糖尿病足病変といった様々な障害を引き起こすことが考えられる。本研究結果は,これらの予防を目的とした理学療法介入の一指標となる可能性がある。