第49回日本理学療法学術大会

講演情報

発表演題 セレクション » 内部障害理学療法 セレクション

代謝

2014年5月31日(土) 17:45 〜 18:45 第5会場 (3F 303)

座長:大平雅美(信州大学医学部保健学科), 横地正裕(医療法人三仁会あさひ病院リハビリテーション科)

内部障害 セレクション

[1242] 糖尿病患者の身体活動量と糖尿病コントロール指標に関するコホート研究

池永千寿子1, 黒山荘太1, 野原栄2, 野村卓生3 (1.製鉄記念八幡病院リハビリテーション部, 2.製鉄記念八幡病院糖尿病内科, 3.関西福祉科学大学保健医療学部)

キーワード:2型糖尿病, 身体活動量, 縦断研究

【はじめに,目的】
身体活動(運動と生活活動)量の向上・維持が糖尿病の基本治療となることは言うまでもないが,体系的な糖尿病治療教育を受けた患者でも長期に身体活動量を維持することは難しい。身体活動量が維持できない原因として,いくつかの内的要因(運動器疼痛の合併など),外的要因(気候・季節・仕事など)が明らかにされているが,十分な結論は得られていない。本研究の目的は,第一に,身体活動量と糖尿病コントロール指標の関連をコホート調査によって明らかにすること,第二に,身体活動量の増加・維持に関連する要因を検討することである。
【方法】
対象は2010年4月から2013年6月に糖尿病教育入院され,理学療法士が運動療法教育を担当した2型糖尿病患者303名とし,退院6カ月後までの追跡期間中に重篤な合併症の発症などで運動療法の適応外となった患者を除く200名を解析対象とした。運動療法教育は入院中と退院1・3・6カ月後に個別指導を実施した。身体活動療法評価には,国際標準化身体活動質問票(IPAQ short version)を用い,退院1および6ヵ月後に測定した。解析方法は,1カ月後と比較し,6カ月後の身体活動量が増加・維持した患者群(増加・維持群)と,減少した患者群(減少群)に分類し,入院時に年齢・性別・糖尿病コントロール指標や合併症[HbA1c・随時血糖値・Body Mass Index・糖尿病推定罹患期間・食事摂取量・薬物治療・細小合併症・大血管症],併存症[高血圧・脂質異常症],生活環境[配偶者・同居家族・職業・季節・睡眠時間],身体活動の習慣[身体活動量・運動好嫌・移動手段・運動時疼痛]のデータを収集し,両群を比較した。さらに経過における2群間の変化を確認するために,1カ月後と6カ月後にも,糖尿病コントロール指標を収集した。また,身体活動量の変化を目的変数とし,入院時の糖尿病コントロール指標,糖尿病合併症の有無,生活環境,身体活動等を説明変数として,身体活動量増加・維持への因子を検討した。統計解析には,繰り返しのある二元配置分散分析,多重比較にはボンフェローニ法,およびロジスティック回帰分析を用い,有意水準は危険率5%未満とした。
【倫理的配慮】
製鉄記念八幡病院において研究プロトコルの承認を受け,対象者に口頭で説明を行い研究協力への同意を得た。
【結果】
増加・維持群は,133名(60±10歳,BMI 25±4kg/m2,HbA1c 9.7±2.3%,糖尿病推定罹患期間6.7±6.9年,身体活動量1カ月後27.9±16.2 Mets・h/週,6カ月後31.1±16.6 Mets・h/週),減少群は,66名(60±11歳,BMI 25±3kg/m2,HbA1c 9.8±2.2%,糖尿病推定罹患期間6.4±7.4,身体活動量1カ月後21.6±10.8 Mets・h/週,6カ月後10.3±6.6 Mets・h/週)だった。2群間の比較では,性別(男性:増加・維持群70名,減少群26名),運動が好嫌(好き:増加・維持群92名,減少群26名),身体活動量(増加・維持群7.7±11.6Mets・h/週,減少群4.0±5.9Mets・h/週)に有意差を認めた。糖尿病コントロール指標の経過では,HbA1cについては,両群ともに6カ月後までに有意に減少するが,増加・維持群の方が減少群に比較して,1カ月後と6カ月後に有意な改善を認めた。随時血糖でも,両群ともに6カ月後までに有意に減少し,増加・維持群の方が1カ月後に有意な改善を認めた。また,身体活動量を目的変数とした多変量解析の結果,男性(OR=1.95),運動が好き(OR=2.05)が有意な説明変数だった。
【考察】
適切な運動量は個人毎に異なる。その中で,身体活動量の増加・維持できたことは,糖尿病コントロール指標の有意な改善が得られ,身体活動量の増加・維持の重要性を再認識できた。また,運動器疼痛や開始季節の影響は認めず,増加・維持群において,男性・運動が好きであることが深く関連していた。性別による背景の違いを認識した指導の必要性を示唆した。女性は「介護が,家が」と自分以外の用事を優先し,生活スケジュールから運動を削除する傾向が強かった。同居家族への協力依頼や本人へ運動の重要性を認識させる必要がある。さらに日常診療の中で耳にする「好きじゃないから」を後押しし,運動への興味を持たせる試みの再検討が必要である。
【理学療法研究としての意義】
運動量を維持・増加することは糖尿病コントロールにとって重要であることを証明した。そのためには,入院時に性別や運動への興味に注目し,より個人に合わせた指導が,身体活動量の増加・維持に結実する可能性がある。理学療法士は,性別・運動への興味に注目することで,糖尿病患者の身体活動量を増加・維持させ血糖コントロールの改善,QOLの向上・維持に寄与することができる。また,運動療法の継続は,糖尿病患者に限らず全ての疾患で共通の課題であり,運動指導における一考察になると考える。