[1248] 人工膝関節全置換術施行前の膝伸展制限が術後の膝伸展不全に及ぼす影響
Keywords:TKA, extension lag, 膝屈曲拘縮
【はじめに,目的】
人工膝関節全置換術(以下,TKA)術後早期の問題点の一つとして,膝伸展不全(以下,Lag)が挙げられる。Lagに伴い,術後早期の歩行中に膝折れ感を訴える症例を経験する。また,歩行周期を通じて膝伸展運動が減少した膝屈曲位歩行は呈することが多く,歩行効率の低下に限らず,膝前面痛を助長させる原因の一つと考えられる。TKAが適応となる変形性膝関節症(以下,膝OA)患者は,膝関節伸展可動域(以下,膝伸展ROM)に制限を認めることが多い。機能再建に伴う,術前後を通じた膝伸展ROMの変化は,膝伸展機構の障害である膝伸展不全に影響を及ぼしていると推察される。
本研究の目的は,人工膝関節全置換術施行前の膝伸展制限が術後の膝伸展不全に及ぼす影響について検討することとした。
【方法】
2012年1月から2013年5月までに,当院にてTKAを施行された67例61膝のうち,一次性内側型変形性膝関節症と診断された19例21膝(女性18例・男性1例,年齢71.9±6.6歳)を対象とした。術前の伸展ROMをもとに,伸展制限が無い群(以下,伸展制限無し群),10度以下の伸展制限がある群(以下,軽度伸展制限群),10度を超える伸展制限がある群(以下,重度伸展制限群)の3群に分類し,術後1週,2週,3週,4週,3カ月のLagについて検討した。その他,年齢,BMI,罹患期間,入院期間,膝伸展0度獲得に要した期間(以下,膝伸展ROM獲得期間),非術側(術前)および術側(術前・術後)の大腿脛骨角(以下,FTA),非術側(術前)の膝屈曲・伸展ROM,術前および術後3カ月における術側の膝屈曲ROMと日本整形外科学会変形性膝関節症治療成績判定基準(以下,JOA score),Timed Up and Go test(以下,TUG)について検討した。Lagは端座位での膝伸展時における他動ROMと自動ROMの差を計測した。TUGは椅子から立ち上がり,3mを最大速度で歩いたのち,目印を回り元の椅子に着座するまでの時間を計測した。統計処理にはTukey-Kramer法を用いて多重比較を行った。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者にはヘルシンキ宣言に則り,本研究の主旨・目的を口頭にて説明し同意を得た。
【結果】
Lagの推移について,伸展制限無し群は(術後1週:5.7±4.9度,2週:2.1±3.6度,3週:1.4±2.3度,4週:1.4±2.3度,3カ月:0.0度)であった。軽度伸展制限群は(術後1週:9.4±9.2度,2週:5.6±5.8度,3週:4.4±5.3度,4週:3.8±4.8度,3カ月:2.5±3.5度)であった。重度伸展制限群は(術後1週:18.3±6.2度,2週:12.5±3.8度,3週:10.0±5.8度,4週:6.7±6.2度,3カ月:4.2±3.4度)であった。このうち,伸展制限無し群と重度伸展制限群との間に術後1週および3週(p<0.05),術後2週(p<0.01)で有意差が認められた。また,非術側の膝伸展ROMで伸展制限無し群(0.0度)と軽度伸展制限群(-6.3±4.1度)(p<0.05),重度伸展制限群(-9.2±5.3度)(p<0.01)との間に有意差が認められた。その他の検討項目で有意差は認められなかった。
【考察】
Lagは膝最終伸展域における膝伸展機構の機能不全と考えられる。Lagの原因として,大腿四頭筋の筋力低下や腫脹,疼痛などの影響が挙げられている(市橋,2007)。一方,Lagの原因は多種多様であり,第一要因の特定は困難であるとの報告もある(峰久,1995)。
結果より,重度伸展制限群では術後1週,2週,3週におけるLagの回復が有意に遅延したことから,10度を超える術前の膝伸展制限は,術後3週までのLagに影響していると考えられる。重度伸展制限群では,伸展制限無し群と軽度伸展制限群に比べ,術前に膝後方の軟部組織の癒着や伸張性の低下が生じていたと考えられる。それに伴い,膝屈筋群の活動が増加し,大腿四頭筋の筋力低下が進行していた可能性が考えられる。したがって,TKA術後においては,術前の膝伸展制限の重症度に着目し,再獲得された膝最終伸展域における,大腿四頭筋の筋再教育を始めとした膝伸展機構の機能改善を図る必要性があると考えられる。また,非術側の膝伸展制限がTKA術後のLagに影響している可能性が示唆された。非術側の膝伸展制限は,立位や歩行に際して,術側の膝最終伸展域における,膝伸展機構の活動を妨げている可能性が考えられる。
本研究の限界として,術後の腫脹による影響が加味されていない点が挙げられる。今後の課題として,膝伸展および屈曲筋力とLagとの関連について検討する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究によって,TKA術後の膝伸展不全に介入する際には,術後因子だけでなく,術前の膝伸展制限にも着目していく必要性が示された。
人工膝関節全置換術(以下,TKA)術後早期の問題点の一つとして,膝伸展不全(以下,Lag)が挙げられる。Lagに伴い,術後早期の歩行中に膝折れ感を訴える症例を経験する。また,歩行周期を通じて膝伸展運動が減少した膝屈曲位歩行は呈することが多く,歩行効率の低下に限らず,膝前面痛を助長させる原因の一つと考えられる。TKAが適応となる変形性膝関節症(以下,膝OA)患者は,膝関節伸展可動域(以下,膝伸展ROM)に制限を認めることが多い。機能再建に伴う,術前後を通じた膝伸展ROMの変化は,膝伸展機構の障害である膝伸展不全に影響を及ぼしていると推察される。
本研究の目的は,人工膝関節全置換術施行前の膝伸展制限が術後の膝伸展不全に及ぼす影響について検討することとした。
【方法】
2012年1月から2013年5月までに,当院にてTKAを施行された67例61膝のうち,一次性内側型変形性膝関節症と診断された19例21膝(女性18例・男性1例,年齢71.9±6.6歳)を対象とした。術前の伸展ROMをもとに,伸展制限が無い群(以下,伸展制限無し群),10度以下の伸展制限がある群(以下,軽度伸展制限群),10度を超える伸展制限がある群(以下,重度伸展制限群)の3群に分類し,術後1週,2週,3週,4週,3カ月のLagについて検討した。その他,年齢,BMI,罹患期間,入院期間,膝伸展0度獲得に要した期間(以下,膝伸展ROM獲得期間),非術側(術前)および術側(術前・術後)の大腿脛骨角(以下,FTA),非術側(術前)の膝屈曲・伸展ROM,術前および術後3カ月における術側の膝屈曲ROMと日本整形外科学会変形性膝関節症治療成績判定基準(以下,JOA score),Timed Up and Go test(以下,TUG)について検討した。Lagは端座位での膝伸展時における他動ROMと自動ROMの差を計測した。TUGは椅子から立ち上がり,3mを最大速度で歩いたのち,目印を回り元の椅子に着座するまでの時間を計測した。統計処理にはTukey-Kramer法を用いて多重比較を行った。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者にはヘルシンキ宣言に則り,本研究の主旨・目的を口頭にて説明し同意を得た。
【結果】
Lagの推移について,伸展制限無し群は(術後1週:5.7±4.9度,2週:2.1±3.6度,3週:1.4±2.3度,4週:1.4±2.3度,3カ月:0.0度)であった。軽度伸展制限群は(術後1週:9.4±9.2度,2週:5.6±5.8度,3週:4.4±5.3度,4週:3.8±4.8度,3カ月:2.5±3.5度)であった。重度伸展制限群は(術後1週:18.3±6.2度,2週:12.5±3.8度,3週:10.0±5.8度,4週:6.7±6.2度,3カ月:4.2±3.4度)であった。このうち,伸展制限無し群と重度伸展制限群との間に術後1週および3週(p<0.05),術後2週(p<0.01)で有意差が認められた。また,非術側の膝伸展ROMで伸展制限無し群(0.0度)と軽度伸展制限群(-6.3±4.1度)(p<0.05),重度伸展制限群(-9.2±5.3度)(p<0.01)との間に有意差が認められた。その他の検討項目で有意差は認められなかった。
【考察】
Lagは膝最終伸展域における膝伸展機構の機能不全と考えられる。Lagの原因として,大腿四頭筋の筋力低下や腫脹,疼痛などの影響が挙げられている(市橋,2007)。一方,Lagの原因は多種多様であり,第一要因の特定は困難であるとの報告もある(峰久,1995)。
結果より,重度伸展制限群では術後1週,2週,3週におけるLagの回復が有意に遅延したことから,10度を超える術前の膝伸展制限は,術後3週までのLagに影響していると考えられる。重度伸展制限群では,伸展制限無し群と軽度伸展制限群に比べ,術前に膝後方の軟部組織の癒着や伸張性の低下が生じていたと考えられる。それに伴い,膝屈筋群の活動が増加し,大腿四頭筋の筋力低下が進行していた可能性が考えられる。したがって,TKA術後においては,術前の膝伸展制限の重症度に着目し,再獲得された膝最終伸展域における,大腿四頭筋の筋再教育を始めとした膝伸展機構の機能改善を図る必要性があると考えられる。また,非術側の膝伸展制限がTKA術後のLagに影響している可能性が示唆された。非術側の膝伸展制限は,立位や歩行に際して,術側の膝最終伸展域における,膝伸展機構の活動を妨げている可能性が考えられる。
本研究の限界として,術後の腫脹による影響が加味されていない点が挙げられる。今後の課題として,膝伸展および屈曲筋力とLagとの関連について検討する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究によって,TKA術後の膝伸展不全に介入する際には,術後因子だけでなく,術前の膝伸展制限にも着目していく必要性が示された。