[1249] 人工膝関節置換術当日のリハビリテーション介入の有効性の検討
キーワード:人工膝関節置換術, 早期理学療法, 深部静脈血栓症
【はじめに,目的】
諸外国において,人工膝関節置換術(TKA)の入院期間の短縮に伴いリハビリテーションは早期化しており,近年では術当日のリハビリテーション介入による離床がより良好な運動機能獲得に有効であることが報告されている。しかしわが国においてTKA術当日のリハビリテーション介入の効果を検討した報告は見当たらず,本研究では無作為化比較試験を用い,TKA術当日のリハビリテーション介入の有効性を検討することを目的とした。
【方法】
対象は変形性膝関節症を原疾患とし,午前中に手術室に入室する初回TKA患者75名(男性20名,女性58名,年齢73.4±6.3歳,Body mass index(BMI)26.2±3.5kg/m2)とした。除外基準は原疾患が関節リウマチである者,反対側および他関節に既に人工関節置換術を施行している者,神経学的疾患など歩行能力に影響を及ぼす他の疾患を有している者とした。術当日の介入は術後3時間後とし,ベッドサイドにて立位をとる立位群(n=25),ベッド上にて座位をとる座位群(n=25),ベッド上臥位にて足関節底背屈運動のみを行う臥床群(n=25)の3群に無作為に群分けを行った。なお,立位群,座位群はそれぞれ立位,座位以外に臥床群と同様に足関節底背屈運動を行い,術当日はいずれの群もカーフポンプとフットポンプを着用した。術翌日に歩行練習を開始,歩行器歩行自立し,術後3日目に杖歩行自立,術後5日目での退院を目標とした。運動機能の評価として手術1ヶ月前および術後4日目に膝関節可動域,膝伸展筋力,10m歩行時間および歩行時痛の評価を行った。また,血栓の評価として手術1ヶ月前および術後4日目にD-dimer,術後3日目または4日目に超音波診断装置を用いた術後血栓の有無を検討した。さらに術後4日目のC-Reactive protein(CRP)を術後の炎症症状の指標として用いた。統計学的解析には術後血栓の有無の比較にはχ2検定を,その他の運動機能やCRPの比較には一元配置分散分析および多重比較としてBonferroniの多重比較検定を用いた。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
すべての対象者に本研究の趣旨と内容,データの利用に関する説明を行い,書面にて同意を得た。本研究はヘルシンキ宣言に基づいて計画され,当院倫理委員会にて承認を得た。
【結果】
術前の年齢やBMI,運動機能,D-dimerの値に関して群間差を検討したところ,いずれも有意な差は認めなかった。一元配置分散分析の結果,術後の運動機能には有意な群間差を認めなかった。超音波診断装置を用い術後血栓の有無を検討したところ,血栓発生率は立位群25.0%,座位群52.0%,臥床群56.5%と立位群で有意に低値を示した(p=0.04)。術後のD-dimerは臥床群が座位群(p=0.03),立位群(p=0.04)に比べ有意に高い値を示した。術後血栓を生じた31名のうち,ヒラメ筋静脈に血栓を認めた者が28名,腓骨静脈に血栓を認めた者が6名,後脛骨静脈に血栓を認めた者が7名であった。また,術後4日目のCRPには有意な群間差を認めなかった。
【考察】
本研究の結果,立位群は座位群や臥床群に比べ術後早期の運動機能に有意差は認めなかった。諸外国では術当日のリハビリテーション介入が良好な運動機能の獲得に有効であることが報告されているが,わが国においては人工股関節置換術当日のリハビリテーション介入による運動機能の差は生じないことが報告されており,本研究も同様の結果となった。一方,立位群の術後4日目のCRPは座位群や臥位群と差がないものの血栓発生率は低く,術当日に立位をとることが術後の炎症症状を助長することなく血栓発生に対する予防効果を有する可能性が示唆された。本研究では術後に血栓を生じた者のうち90%がヒラメ筋静脈に血栓を認めているが,ヒラメ筋静脈は足底からは血流を受けておらず,他の静脈に比べ静脈潅流を筋ポンプ作用に依存しているとされている。TKA後の血栓は術翌日には形成されていることが報告されており,術当日に立位をとることで下腿の筋収縮が生じ,血栓発生の前駆物質が潅流された可能性が考えられる。しかしながら本研究で用いた超音波診断装置やD-dimerは術後血栓の指標ではあるものの確定診断とは言えず,今後詳細な検討が必要である。
【理学療法学研究としての意義】
TKA後は血栓の発生リスクが高いとされており,血栓発生予防は重要な課題である。術後血栓の予防には早期離床や早期荷重が推奨されているものの術当日のリハビリテーションに関する報告はなく,本研究は術当日のリハビリテーションが血栓発生の予防に有効である可能性を示唆した意義ある研究である。
諸外国において,人工膝関節置換術(TKA)の入院期間の短縮に伴いリハビリテーションは早期化しており,近年では術当日のリハビリテーション介入による離床がより良好な運動機能獲得に有効であることが報告されている。しかしわが国においてTKA術当日のリハビリテーション介入の効果を検討した報告は見当たらず,本研究では無作為化比較試験を用い,TKA術当日のリハビリテーション介入の有効性を検討することを目的とした。
【方法】
対象は変形性膝関節症を原疾患とし,午前中に手術室に入室する初回TKA患者75名(男性20名,女性58名,年齢73.4±6.3歳,Body mass index(BMI)26.2±3.5kg/m2)とした。除外基準は原疾患が関節リウマチである者,反対側および他関節に既に人工関節置換術を施行している者,神経学的疾患など歩行能力に影響を及ぼす他の疾患を有している者とした。術当日の介入は術後3時間後とし,ベッドサイドにて立位をとる立位群(n=25),ベッド上にて座位をとる座位群(n=25),ベッド上臥位にて足関節底背屈運動のみを行う臥床群(n=25)の3群に無作為に群分けを行った。なお,立位群,座位群はそれぞれ立位,座位以外に臥床群と同様に足関節底背屈運動を行い,術当日はいずれの群もカーフポンプとフットポンプを着用した。術翌日に歩行練習を開始,歩行器歩行自立し,術後3日目に杖歩行自立,術後5日目での退院を目標とした。運動機能の評価として手術1ヶ月前および術後4日目に膝関節可動域,膝伸展筋力,10m歩行時間および歩行時痛の評価を行った。また,血栓の評価として手術1ヶ月前および術後4日目にD-dimer,術後3日目または4日目に超音波診断装置を用いた術後血栓の有無を検討した。さらに術後4日目のC-Reactive protein(CRP)を術後の炎症症状の指標として用いた。統計学的解析には術後血栓の有無の比較にはχ2検定を,その他の運動機能やCRPの比較には一元配置分散分析および多重比較としてBonferroniの多重比較検定を用いた。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
すべての対象者に本研究の趣旨と内容,データの利用に関する説明を行い,書面にて同意を得た。本研究はヘルシンキ宣言に基づいて計画され,当院倫理委員会にて承認を得た。
【結果】
術前の年齢やBMI,運動機能,D-dimerの値に関して群間差を検討したところ,いずれも有意な差は認めなかった。一元配置分散分析の結果,術後の運動機能には有意な群間差を認めなかった。超音波診断装置を用い術後血栓の有無を検討したところ,血栓発生率は立位群25.0%,座位群52.0%,臥床群56.5%と立位群で有意に低値を示した(p=0.04)。術後のD-dimerは臥床群が座位群(p=0.03),立位群(p=0.04)に比べ有意に高い値を示した。術後血栓を生じた31名のうち,ヒラメ筋静脈に血栓を認めた者が28名,腓骨静脈に血栓を認めた者が6名,後脛骨静脈に血栓を認めた者が7名であった。また,術後4日目のCRPには有意な群間差を認めなかった。
【考察】
本研究の結果,立位群は座位群や臥床群に比べ術後早期の運動機能に有意差は認めなかった。諸外国では術当日のリハビリテーション介入が良好な運動機能の獲得に有効であることが報告されているが,わが国においては人工股関節置換術当日のリハビリテーション介入による運動機能の差は生じないことが報告されており,本研究も同様の結果となった。一方,立位群の術後4日目のCRPは座位群や臥位群と差がないものの血栓発生率は低く,術当日に立位をとることが術後の炎症症状を助長することなく血栓発生に対する予防効果を有する可能性が示唆された。本研究では術後に血栓を生じた者のうち90%がヒラメ筋静脈に血栓を認めているが,ヒラメ筋静脈は足底からは血流を受けておらず,他の静脈に比べ静脈潅流を筋ポンプ作用に依存しているとされている。TKA後の血栓は術翌日には形成されていることが報告されており,術当日に立位をとることで下腿の筋収縮が生じ,血栓発生の前駆物質が潅流された可能性が考えられる。しかしながら本研究で用いた超音波診断装置やD-dimerは術後血栓の指標ではあるものの確定診断とは言えず,今後詳細な検討が必要である。
【理学療法学研究としての意義】
TKA後は血栓の発生リスクが高いとされており,血栓発生予防は重要な課題である。術後血栓の予防には早期離床や早期荷重が推奨されているものの術当日のリハビリテーションに関する報告はなく,本研究は術当日のリハビリテーションが血栓発生の予防に有効である可能性を示唆した意義ある研究である。