[1250] 人工膝関節全置換術後患者における在院日数予測モデルの作成
キーワード:人工膝関節全置換術, 在院日数, 予測因子
【はじめに,目的】人工膝関節全置換術(TKA)は,著明な除痛効果があり,術後早期から歩行能力改善が得られるため,クリティカルパス導入後より入院期間が短縮される傾向にある。しかし,高齢化や併存疾患によるリスクなど,画一的にクリティカルパスを進行できない場合も少なくない。そのため,クリティカルパスを基本としながらも,それより逸脱するバリアンス症例を予測することは,患者に応じた術後理学療法の進行や退院調整に多くの情報をもたらすと考えられる。そこで,術後在院日数に影響を与える要因について検討するため,決定木分析を用いて予測モデルを作成することを目的とした。
【方法】2011年6月から2013年7月までの間に当院整形外科を受診し,変形性膝関節症を原疾患として初回TKAを施行した156名178膝(男性29名,女性127名)を対象とした。関節リウマチや骨壊死からTKAに至った者,再置換術患者は対象から除外した。年齢は75.7±6.1歳,身長151.6±7.8cm,体重59.5±10.9kg,BMI25.9±3.8であった。術後在院日数に影響する因子を調査するため,カルテより医学的情報を収集し,術前に身体機能評価を行った。医学的情報として,年齢,性別,BMI,術前アルブミン値,術後10日目の炎症値(CRP),併存疾患・反対側TKA・同居人の有無を調査した。身体機能は,10m歩行テスト,歩行手段,立ち上がりテスト,術側最大等尺性膝伸展筋力,膝関節屈曲可動域,静的立位バランス,術側荷重率,歩行時疼痛,変形性膝関節症患者機能評価尺度を測定した。術後在院日数を従属変数,上記の医学的情報および身体機能を説明変数をとして,決定木分析を行い,術後在院日数を予測する回帰木を作成した。分岐を繰り返し,ツリーを成長させ,ノードが10未満になる直前の分岐を最終分岐として任意に設定した。統計解析にはSAS Institute Japan社製jmp9.0を使用した。
【倫理的配慮,説明と同意】本学倫理委員会の承認(24-165)を得て実施し,対象者には事前に研究の内容について十分な説明を行い,研究に参加することの同意を得た。
【結果】術後平均在院日数は29.0±6.4日であり,当院で採用している4週間パスに相当する結果であった。回帰木より,最上位の分岐は術後10日目のCRP値であり,9.59mg/dl未満では平均在院日数が28.6±5.1日,9.59mg/dl以上では40.0±20.3日と二分された。在院日数が最短(23.3±1.9日)に分割された葉(群)では,CRP値9.59mg/dl未満で分岐された後,同居人有,10m歩行時間が12.4秒未満,膝伸展筋力が1.41Nm/kg以上の条件にて予測された。また,在院日数が28日未満となる群は,膝伸展筋力が1.41Nm/kg未満であっても反対側TKAの経験があれば26.3±3.5日と予測された。さらに,CRP値が9.59mg/dl未満であっても,平均在院日数が28日以上となる群は3つに分割されており,最も遅くなる群では,同居人有,10m歩行時間が12.4秒以上,年齢が78.0歳以上の条件となり,予測される在院日数は33.1±4.1日であった。回帰木モデルの寄与率を示すR2値は0.264であった。
【考察】決定木分析は樹形構造によって判断の流れが視覚的に理解しやすいように考えられた予測手段である。また,樹形分岐のカットオフ値が算出されることから,臨床的意義を示す有益な情報をもたらす。本研究の結果,作成された術後在院日数予測モデルでは,まず術後10日目のCRP値9.59mg/dlにより大別された。CRP高値群では在院日数が40日と予測され,炎症反応の遷延は術後合併症などに影響し,クリティカルパスに負の影響を与えていた。一方,CRP低値群の中で在院日数が約23日と最も正のバリアンスを示した最短群では,同居人がおり,術前身体機能(10m歩行時間<12.4秒,膝伸展筋力≧1.41Nm/kg)が良好であることが必要条件であった。さらに,CRP低値群で最も負のバリアンスを示した群では在院日数は平均33日であり,同居人がいても術前歩行機能が不良かつ高齢(10m歩行時間≧12.4秒,年齢≧78.0歳)であることが影響した。以上より,在院日数に影響する身体機能や社会的背景を術前に情報収集を行い,術後10日目の炎症反応を考慮することで,適切なクリティカルパスの運用につながることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】術後在院日数の予測には術後炎症反応の他,術前身体機能および社会的情報が有益であった。我々理学療法士にとって,術前に理学療法評価を行うことの必要性・重要性を再確認し,その情報を活用して理学療法の進行やクリティカルパスへの応用に寄与することが期待される。
【方法】2011年6月から2013年7月までの間に当院整形外科を受診し,変形性膝関節症を原疾患として初回TKAを施行した156名178膝(男性29名,女性127名)を対象とした。関節リウマチや骨壊死からTKAに至った者,再置換術患者は対象から除外した。年齢は75.7±6.1歳,身長151.6±7.8cm,体重59.5±10.9kg,BMI25.9±3.8であった。術後在院日数に影響する因子を調査するため,カルテより医学的情報を収集し,術前に身体機能評価を行った。医学的情報として,年齢,性別,BMI,術前アルブミン値,術後10日目の炎症値(CRP),併存疾患・反対側TKA・同居人の有無を調査した。身体機能は,10m歩行テスト,歩行手段,立ち上がりテスト,術側最大等尺性膝伸展筋力,膝関節屈曲可動域,静的立位バランス,術側荷重率,歩行時疼痛,変形性膝関節症患者機能評価尺度を測定した。術後在院日数を従属変数,上記の医学的情報および身体機能を説明変数をとして,決定木分析を行い,術後在院日数を予測する回帰木を作成した。分岐を繰り返し,ツリーを成長させ,ノードが10未満になる直前の分岐を最終分岐として任意に設定した。統計解析にはSAS Institute Japan社製jmp9.0を使用した。
【倫理的配慮,説明と同意】本学倫理委員会の承認(24-165)を得て実施し,対象者には事前に研究の内容について十分な説明を行い,研究に参加することの同意を得た。
【結果】術後平均在院日数は29.0±6.4日であり,当院で採用している4週間パスに相当する結果であった。回帰木より,最上位の分岐は術後10日目のCRP値であり,9.59mg/dl未満では平均在院日数が28.6±5.1日,9.59mg/dl以上では40.0±20.3日と二分された。在院日数が最短(23.3±1.9日)に分割された葉(群)では,CRP値9.59mg/dl未満で分岐された後,同居人有,10m歩行時間が12.4秒未満,膝伸展筋力が1.41Nm/kg以上の条件にて予測された。また,在院日数が28日未満となる群は,膝伸展筋力が1.41Nm/kg未満であっても反対側TKAの経験があれば26.3±3.5日と予測された。さらに,CRP値が9.59mg/dl未満であっても,平均在院日数が28日以上となる群は3つに分割されており,最も遅くなる群では,同居人有,10m歩行時間が12.4秒以上,年齢が78.0歳以上の条件となり,予測される在院日数は33.1±4.1日であった。回帰木モデルの寄与率を示すR2値は0.264であった。
【考察】決定木分析は樹形構造によって判断の流れが視覚的に理解しやすいように考えられた予測手段である。また,樹形分岐のカットオフ値が算出されることから,臨床的意義を示す有益な情報をもたらす。本研究の結果,作成された術後在院日数予測モデルでは,まず術後10日目のCRP値9.59mg/dlにより大別された。CRP高値群では在院日数が40日と予測され,炎症反応の遷延は術後合併症などに影響し,クリティカルパスに負の影響を与えていた。一方,CRP低値群の中で在院日数が約23日と最も正のバリアンスを示した最短群では,同居人がおり,術前身体機能(10m歩行時間<12.4秒,膝伸展筋力≧1.41Nm/kg)が良好であることが必要条件であった。さらに,CRP低値群で最も負のバリアンスを示した群では在院日数は平均33日であり,同居人がいても術前歩行機能が不良かつ高齢(10m歩行時間≧12.4秒,年齢≧78.0歳)であることが影響した。以上より,在院日数に影響する身体機能や社会的背景を術前に情報収集を行い,術後10日目の炎症反応を考慮することで,適切なクリティカルパスの運用につながることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】術後在院日数の予測には術後炎症反応の他,術前身体機能および社会的情報が有益であった。我々理学療法士にとって,術前に理学療法評価を行うことの必要性・重要性を再確認し,その情報を活用して理学療法の進行やクリティカルパスへの応用に寄与することが期待される。