[1251] 人工膝関節全置換術施行患者の術前期待度と術後満足度について
キーワード:変形性膝関節症, 人工膝関節全置換術, 満足度
【目的】
人工膝関節置換術(TKA)後の臨床成績において,患者満足度の重要性は近年認識されつつある。患者満足度を上げるためには,患者の望んでいることを知り,その目標を達成することである。しかし,近年報告されている満足度に対する調査は,特定の項目が医療者側で設定されており,患者自身が術後の自分に何を望んでいるかを直接自由に調査したものはない。そこで今回,患者の自由記述によるアンケートを実施し,TKAに対する期待および術後の満足度の変化を調査した。さらに,満足度と実生活の解離についても検討した。
【対象】
2012年6月~2013年4月までに,当院とK市民病院でTKAを施行された患者のうち,本調査に同意が得られ,調査が完遂した23例23関節を対象とした。その内訳は,男性3例,女性20例,平均年齢73.2±7.3歳,BMI26.7±4.6kg/m2.平均術後在院日数24.1±3.7日。
【方法】
満足度は,患者自身によるアンケート用紙への直接記入で行った。この際,望んでいることを3つ挙げ,1~3位まで順位をつけるようにした。記入された内容は,除痛,関節可動域の改善,基本的活動(歩行,階段など)の改善,社会活動(趣味娯楽,旅行など)の改善の4項目に分類した。満足度はVisual analogue scaleにて評価し,0を全く満足していない,100を十分満足しているとした。実生活の把握には,日本版変形性膝関節症患者機能評価尺度(JKOM)の下位尺度である,痛みやこわばり,日常生活,ふだんの生活の3項目を用い,さらにスズケン社製ライフコーダーで測定した歩数も加えた。評価は術前,退院後1か月,術後3か月に実施した。歩数はライフコーダーを2週間以上連続で装着し,装着開始日および回収日を除く連続1週間の平均歩数を算出し用いた。検討内容は,1.患者の望んでいること,2.満足度の変化,3.実生活との解離状況とした。満足度の変化および実生活との解離の検討には,アンケート用紙に記入された1~3位までの全項目の中から,除痛,基本的活動の改善,社会的活動の改善の3項目を選択し用いた。満足度の変化は退院後1か月と術後3か月で比較した。実生活との解離の検討は,アンケート項目の除痛にはJKOMの痛みやこわばり,基本的活動の改善には日常生活,社会的活動の改善にはふだんの生活と歩数の組み合わせで検討した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言を遵守し,対象者には口頭および文書を用いて本研究の趣旨・方法に関する説明を行い,署名による同意を得て行った。得られたデータは個人が特定されないように,個人情報の保護に配慮して検討した。本研究は当院およびK市民病院の共同研究であり,両施設の臨床研究倫理審査委員会の承認を得て行った。
【結果】
患者が1番望んでいることは,除痛52%,基本的活動の改善44%,社会的活動の改善4%であった。さらに1~3位までの全項目でみると,除痛26%,関節可動域の改善3%,基本的活動の改善36%,社会的活動の改善35%であり,諸家の報告のように,除痛が最も望まれているという結果には至らなかった。満足度の変化(退院後1か月→術後3か月の順)は,除痛:76→91.6,基本的活動の改善:49.2→80,社会的活動の改善:16.2→32.8と,社会的活動の改善のみ術後3か月においても十分な満足度が得られていなかった。実生活の評価(術前→退院後1か月→術後3か月の順)においては,JKOMの痛みやこわばり:17.8→8.2→4.8,日常生活:20→12.4→7.2と満足度の変化と同じ推移を示した。
一方,ふだんの生活:11.8→9.6→5.8,歩数:2783→2494→4116も術後3か月では十分な改善を示したが,社会的活動の改善の満足度変化とは若干の解離を示した。
【考察】
手術および術後リハビリテーションの効果により,実際に除痛や機能改善を達成していることが,今回の満足度につながったと考えられた。さらに当院では,TKAによる除痛効果や術後の機能改善のみではなく,一定期間,術後の疼痛や機能制限が残存することも,十分に情報提供や説明を行っている。これらの理解が,TKAに対するイメージとTKAの現状との解離を少なくし,満足度によい影響を与えていると考えられた。一方,ふだんの生活や歩数から活動性の向上がうかがえたが,患者にとって術後には「旅行に行きたい」や「グランドゴルフなどの軽スポーツがしたい」などの期待感も高く,自宅周辺への外出,買い物程度の活動範囲の拡大では満足度が得られないことが示唆された。また,機能的にはこれらの期待をかなえる能力を備えている患者も多く,これが実生活と満足度との解離を生じる原因とも思われた。今後,術後3か月以降の長期的推移を検討するとともに,術後早期に得られた機能を,在宅から社会生活へどのように生かし,どのように広げて行くのか,そして行動変容の具体策を考えることが課題である。
【理学療法学研究としての意義】
主観的評価を重要視することで,患者側に立った質の高い医療が提供できると考える。
人工膝関節置換術(TKA)後の臨床成績において,患者満足度の重要性は近年認識されつつある。患者満足度を上げるためには,患者の望んでいることを知り,その目標を達成することである。しかし,近年報告されている満足度に対する調査は,特定の項目が医療者側で設定されており,患者自身が術後の自分に何を望んでいるかを直接自由に調査したものはない。そこで今回,患者の自由記述によるアンケートを実施し,TKAに対する期待および術後の満足度の変化を調査した。さらに,満足度と実生活の解離についても検討した。
【対象】
2012年6月~2013年4月までに,当院とK市民病院でTKAを施行された患者のうち,本調査に同意が得られ,調査が完遂した23例23関節を対象とした。その内訳は,男性3例,女性20例,平均年齢73.2±7.3歳,BMI26.7±4.6kg/m2.平均術後在院日数24.1±3.7日。
【方法】
満足度は,患者自身によるアンケート用紙への直接記入で行った。この際,望んでいることを3つ挙げ,1~3位まで順位をつけるようにした。記入された内容は,除痛,関節可動域の改善,基本的活動(歩行,階段など)の改善,社会活動(趣味娯楽,旅行など)の改善の4項目に分類した。満足度はVisual analogue scaleにて評価し,0を全く満足していない,100を十分満足しているとした。実生活の把握には,日本版変形性膝関節症患者機能評価尺度(JKOM)の下位尺度である,痛みやこわばり,日常生活,ふだんの生活の3項目を用い,さらにスズケン社製ライフコーダーで測定した歩数も加えた。評価は術前,退院後1か月,術後3か月に実施した。歩数はライフコーダーを2週間以上連続で装着し,装着開始日および回収日を除く連続1週間の平均歩数を算出し用いた。検討内容は,1.患者の望んでいること,2.満足度の変化,3.実生活との解離状況とした。満足度の変化および実生活との解離の検討には,アンケート用紙に記入された1~3位までの全項目の中から,除痛,基本的活動の改善,社会的活動の改善の3項目を選択し用いた。満足度の変化は退院後1か月と術後3か月で比較した。実生活との解離の検討は,アンケート項目の除痛にはJKOMの痛みやこわばり,基本的活動の改善には日常生活,社会的活動の改善にはふだんの生活と歩数の組み合わせで検討した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言を遵守し,対象者には口頭および文書を用いて本研究の趣旨・方法に関する説明を行い,署名による同意を得て行った。得られたデータは個人が特定されないように,個人情報の保護に配慮して検討した。本研究は当院およびK市民病院の共同研究であり,両施設の臨床研究倫理審査委員会の承認を得て行った。
【結果】
患者が1番望んでいることは,除痛52%,基本的活動の改善44%,社会的活動の改善4%であった。さらに1~3位までの全項目でみると,除痛26%,関節可動域の改善3%,基本的活動の改善36%,社会的活動の改善35%であり,諸家の報告のように,除痛が最も望まれているという結果には至らなかった。満足度の変化(退院後1か月→術後3か月の順)は,除痛:76→91.6,基本的活動の改善:49.2→80,社会的活動の改善:16.2→32.8と,社会的活動の改善のみ術後3か月においても十分な満足度が得られていなかった。実生活の評価(術前→退院後1か月→術後3か月の順)においては,JKOMの痛みやこわばり:17.8→8.2→4.8,日常生活:20→12.4→7.2と満足度の変化と同じ推移を示した。
一方,ふだんの生活:11.8→9.6→5.8,歩数:2783→2494→4116も術後3か月では十分な改善を示したが,社会的活動の改善の満足度変化とは若干の解離を示した。
【考察】
手術および術後リハビリテーションの効果により,実際に除痛や機能改善を達成していることが,今回の満足度につながったと考えられた。さらに当院では,TKAによる除痛効果や術後の機能改善のみではなく,一定期間,術後の疼痛や機能制限が残存することも,十分に情報提供や説明を行っている。これらの理解が,TKAに対するイメージとTKAの現状との解離を少なくし,満足度によい影響を与えていると考えられた。一方,ふだんの生活や歩数から活動性の向上がうかがえたが,患者にとって術後には「旅行に行きたい」や「グランドゴルフなどの軽スポーツがしたい」などの期待感も高く,自宅周辺への外出,買い物程度の活動範囲の拡大では満足度が得られないことが示唆された。また,機能的にはこれらの期待をかなえる能力を備えている患者も多く,これが実生活と満足度との解離を生じる原因とも思われた。今後,術後3か月以降の長期的推移を検討するとともに,術後早期に得られた機能を,在宅から社会生活へどのように生かし,どのように広げて行くのか,そして行動変容の具体策を考えることが課題である。
【理学療法学研究としての意義】
主観的評価を重要視することで,患者側に立った質の高い医療が提供できると考える。