第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 運動器理学療法 口述

骨・関節14

Sat. May 31, 2014 4:40 PM - 5:30 PM 第12会場 (5F 502)

座長:荒木茂(石川県リハビリテーションセンター)

運動器 口述

[1253] 体幹の安定性に関わる評価方法の検討

山本圭彦1,2, 浦辺幸夫2, 前田慶明2, 篠原博1,3, 笹代純平2, 藤井絵里2, 事柴壮武2, 森山信彰2 (1.リハビリテーションカレッジ島根, 2.広島大学大学院医歯薬保健学研究科, 3.サザンクリニック整形外科・内科)

Keywords:体幹, 安定性, 評価方法

【はじめに,目的】
下肢運動に伴う生理的な前弯の維持は,腰痛予防において重要とされ,近年,体幹の安定性を評価する方法が模索されている。その一つに,背臥位での下肢挙上や降下で腰椎の生理的前弯が維持できるか確認するテストが用いられている(Filho,2006)。しかし,これは体幹筋力を直接測定したものでなく,客観的な評価でない。一方,我々は,体幹が固定した設定と固定しない設定での筋力発揮を比較した指標を体幹安定性の評価として検証している。これは,体幹の安定性を担うとされている体幹深層筋などの筋群は,体幹が固定されていない状況下において,より高い筋活動が求められると報告されている(Behm,2012)。その為,体幹の安定性が低下いる者は,体幹が固定しない設定で運動では筋力発揮は小さくなることが予想されることが背景にある。そこで今回は,我々が検証している体幹が固定した設定と固定しない設定での比較と背臥位での下肢挙上運動時の脊柱アライメントを比較し,体幹安定性の評価方法として利用できないが検討した。仮説は,体幹を固定した設定と固定しない設定での筋力発揮の比較は,下肢運動時の脊柱アライメントと関係し,体幹安定性の評価方法として利用できるとした。
【方法】
対象は,成人男性13名(年齢21.6±5.4歳,身長169.7±6.1cm,体重68.4±14.3kg)とした。
体幹筋力は,測定中に体幹固定の有無の設定を容易にするために,背臥位の膝立て位で,膝関節を左右に倒す,体幹回旋筋力とした。体幹を固定した設定は,両肩関節を90°外転させ上肢の支持によって体幹を固定させた肢位にて実施した。体幹を固定しない設定は,両上肢を胸の前で組ませ,上肢の支持によって体幹が固定できない状況で実施した。測定は膝関節の側方より,徒手筋力計(IsoforceGT-300:OG技研)を介して抵抗を加え,その抵抗に対して膝立て位を保持させた際の筋力を測定した。固定した設定および固定しない設定は,それぞれ膝関節に左右3回ずつ測定し平均値を求め,体重比を算出した。さらに固定しない設定での値を固定した設定の値で除した非固定/固定比を算出した。この非固定/固定比は,値が大きくなるほど固定しない設定においても固定した設定に近い筋力発揮が可能であることを表している。
下肢運動の動作課題は石田ら(2003)の方法を参考にして,背臥位での両下肢挙上とした。下肢の挙上方法は膝関節伸展位で股関節は屈曲30°と規定した。安静臥位時と下肢挙上時の2肢位の脊柱アライメントをspinal mouse(Idiag AG,Switzerland)を用いて測定し,胸椎角と腰椎角を求め,運動に伴う角度変化を算出した。
統計学的解析として,下肢挙上に伴う胸椎角および腰椎角の角度変化と固定した設定と固定しない設定での体幹回旋筋力および非固定/固定比との関係をPearson積率相関係数を用いて分析した。危険率5%未満を有意とした。
【説明と同意】
本研究は事前に研究趣旨および方法を十分に説明し書面による同意を得た。なお,本研究はリハビリテーションカレッジ島根の倫理委員会の承認を得て実施した(13-08)。
【結果】
下肢挙上に伴う胸椎角の角度変化は-2.1±6.5°,腰椎角は-9.9±5.0°で,胸椎後弯は減少し,腰椎前弯は増大した。安定した設定での体幹回旋筋力は2.4±0.4N/kg,不安定な設定は1.2±0.2N/kgであった。不安定/安定比は0.5±0.1であった。下肢挙上に伴う胸椎角と腰椎角の角度変化とそれぞれの筋力との関係は,胸椎角はすべての筋力と有意な相関は認めなかった。腰椎角の角度変化は,不安定/安定比のみ有意な正の相関を認めた(r=0.572,p<0.05)。
【考察】
今回,非固定/固定比のみ下肢挙上に伴う腰椎の変化角度と有意な相関を示した。Hodges(2007)らは,体幹の安定性を得るには,体幹がいかなる状況に変化しても対応した体幹筋の筋活動が求められるとしている。これは,体幹を固定しない設定でも固定した設定に近い筋力発揮ができる者が,下肢運動時の腰椎の前弯を抑制でき,体幹の安定性が高いことを意味すると考える。その為,非固定/固定比は,下肢運動時の体幹の安定性を反映できる指標として利用できる可能性がある。しかし,本研究は下肢の運動を対象としてものであり,他の動作課題で同様な結果になるかは不明である。今後は上肢の運動など他の動作課題も含めて,検証する必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
非固定/固定比が下肢運動における脊柱アライメントに関連していることが理解できたことは,評価を行う上で意義ある結果が示せたと考える。