[1254] 安定性の異なる座位での下腹部引き込み動作が腹部深層筋に与える影響
Keywords:腹横筋, ドローイン, 超音波
【はじめに,目的】下腹部引き込み動作(以下ドローイン)は通常背臥位で行われる。しかし,腰痛者が職場で背臥位やバランスボールを使用することはスペースや安全面から困難であり,椅子座位でエクササイズを施行する方が機能的・現実的であると考えられる。そこで我々は,椅子座位で施行出来る効果的な腰痛予防エクササイズを模索するため,超音波診断装置を用いてバランスディスクの有無とドローインエクササイズを組み合わせた腹部深層筋の筋活動が高まる運動課題を検討した。
【方法】対象は,本研究に対して同意を得られた健常男性20名(平均年齢:22.2±2.7歳)とした。測定機器は,超音波診断装置(ALOKA社製PROSOUND6)を用いた。基準となる安静背臥位で腹横筋と内腹斜筋の筋厚を測定した。運動課題は,椅子座位,バランスディスク座位とし,各々に①安静,②左片脚挙上(以下knee elevation),③下腹部引き込み動作(以下ドローイン),④ドローインしながら左片脚挙上(以下ドローイン+knee elevation)を行なう合計8種類とした。測定部位は,最下位肋骨の下端と腸骨稜の中点かつ前腋窩線上とし,測定はすべて右腹壁にて安静呼気時に測定した。また,前述の運動課題施行中の難易度をVASにて測定した。さらに,筋厚の安静背臥位との比(以下,安静時比)を算出した。筋厚の比較は腹横筋と内腹斜筋における椅子座位,ディスク座位の2つの姿勢と前述の4つの運動課題の2要因による2元配置分散分析と多重比較を行った。また,各課題における難易度のVASの比較についても同様に実施した。統計処理にはSPSS Statistics version 21を使用し,有意水準を5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,埼玉医科大学保健医療学部倫理員会による承認(M-37)を得て実施した。
【結果】各運動課題における筋厚の安静時比は,腹横筋について椅子座位でのドローインでは2.1倍,ドローイン+knee elevationでは2.4倍,ディスク座位でのドローイン+knee elevationが2.5倍となった。腹横筋の筋厚は,姿勢による有意差はなく,運動課題では,安静<knee elevation<ドローイン<ドローイン+knee elevationとなり,不等号部分にて,有意に筋厚が増加した。内腹斜筋の筋厚は,椅子座位よりもディスク座位で有意に増加した。また,運動課題間の比較では,安静<knee elevation,ドローイン<ドローイン+knee elevationとなり,不等号部分にて有意に筋厚が増加した。椅子座位における4つの運動課題の難易度は,安静<knee elevation,ドローイン<ドローイン+knee elevationとなり,ディスク座位における難易度は,安静<ドローイン<knee elevation<ドローイン+knee elevationとなり,不等号部分にて有意に難易度が増加した。各運動課題における椅子座位とディスク座位との難易度は,全てにおいてディスク座位の方が,難易度が高い結果となった。
【考察】各運動課題における筋厚の安静時比の結果は,バランスボールの先行研究(Rasouri O, et al. 2011)と同程度であり,バランスディスクはバランスボールと同程度の効果を示唆した。座面の不安定性では,ローカルよりもグローバルマッスルが,有意に活動が増大したことを示唆した。また,knee elevationよりもドローインが腹横筋の活動を増大させ,内腹斜筋は両課題の有意差はみられなかった。一方,ドローインの影響は内腹斜筋より腹横筋の方が大きく,先行研究(Urquhart DM, et al. 2005)と同様の結果となった。ドローイン+knee elevation時の腹横筋・内腹斜筋の筋厚が有意に高くなった理由は,大腰筋の収縮が腰椎・骨盤の固定性をさらに高める必要性を生じさせ,両筋の筋活動がより増加したと推察する。これらから,内腹斜筋の過活動を抑えながら腹横筋の筋厚を高めるには椅子座位でのドローインが有用であり,両筋の活動増加を目的とする場合は難易度が高くなるが,椅子座位でのドローイン+knee elevationが有用であることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】腹横筋について,バランスディスクの影響は少なく,knee elevationよりドローインの影響が大きいことが示唆された。また,ドローインでknee elevationさせると,腹横筋と内腹斜筋の筋厚が増加するととともに,難易度が増加することが示唆された。これらの結果は,臨床での腰痛者への運動療法を行う際,運動の選択における基礎的知見になると考える。
【方法】対象は,本研究に対して同意を得られた健常男性20名(平均年齢:22.2±2.7歳)とした。測定機器は,超音波診断装置(ALOKA社製PROSOUND6)を用いた。基準となる安静背臥位で腹横筋と内腹斜筋の筋厚を測定した。運動課題は,椅子座位,バランスディスク座位とし,各々に①安静,②左片脚挙上(以下knee elevation),③下腹部引き込み動作(以下ドローイン),④ドローインしながら左片脚挙上(以下ドローイン+knee elevation)を行なう合計8種類とした。測定部位は,最下位肋骨の下端と腸骨稜の中点かつ前腋窩線上とし,測定はすべて右腹壁にて安静呼気時に測定した。また,前述の運動課題施行中の難易度をVASにて測定した。さらに,筋厚の安静背臥位との比(以下,安静時比)を算出した。筋厚の比較は腹横筋と内腹斜筋における椅子座位,ディスク座位の2つの姿勢と前述の4つの運動課題の2要因による2元配置分散分析と多重比較を行った。また,各課題における難易度のVASの比較についても同様に実施した。統計処理にはSPSS Statistics version 21を使用し,有意水準を5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,埼玉医科大学保健医療学部倫理員会による承認(M-37)を得て実施した。
【結果】各運動課題における筋厚の安静時比は,腹横筋について椅子座位でのドローインでは2.1倍,ドローイン+knee elevationでは2.4倍,ディスク座位でのドローイン+knee elevationが2.5倍となった。腹横筋の筋厚は,姿勢による有意差はなく,運動課題では,安静<knee elevation<ドローイン<ドローイン+knee elevationとなり,不等号部分にて,有意に筋厚が増加した。内腹斜筋の筋厚は,椅子座位よりもディスク座位で有意に増加した。また,運動課題間の比較では,安静<knee elevation,ドローイン<ドローイン+knee elevationとなり,不等号部分にて有意に筋厚が増加した。椅子座位における4つの運動課題の難易度は,安静<knee elevation,ドローイン<ドローイン+knee elevationとなり,ディスク座位における難易度は,安静<ドローイン<knee elevation<ドローイン+knee elevationとなり,不等号部分にて有意に難易度が増加した。各運動課題における椅子座位とディスク座位との難易度は,全てにおいてディスク座位の方が,難易度が高い結果となった。
【考察】各運動課題における筋厚の安静時比の結果は,バランスボールの先行研究(Rasouri O, et al. 2011)と同程度であり,バランスディスクはバランスボールと同程度の効果を示唆した。座面の不安定性では,ローカルよりもグローバルマッスルが,有意に活動が増大したことを示唆した。また,knee elevationよりもドローインが腹横筋の活動を増大させ,内腹斜筋は両課題の有意差はみられなかった。一方,ドローインの影響は内腹斜筋より腹横筋の方が大きく,先行研究(Urquhart DM, et al. 2005)と同様の結果となった。ドローイン+knee elevation時の腹横筋・内腹斜筋の筋厚が有意に高くなった理由は,大腰筋の収縮が腰椎・骨盤の固定性をさらに高める必要性を生じさせ,両筋の筋活動がより増加したと推察する。これらから,内腹斜筋の過活動を抑えながら腹横筋の筋厚を高めるには椅子座位でのドローインが有用であり,両筋の活動増加を目的とする場合は難易度が高くなるが,椅子座位でのドローイン+knee elevationが有用であることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】腹横筋について,バランスディスクの影響は少なく,knee elevationよりドローインの影響が大きいことが示唆された。また,ドローインでknee elevationさせると,腹横筋と内腹斜筋の筋厚が増加するととともに,難易度が増加することが示唆された。これらの結果は,臨床での腰痛者への運動療法を行う際,運動の選択における基礎的知見になると考える。