[1258] 完全対麻痺者における立位練習がプッシュアップの背面筋群の活動に及ぼす影響
Keywords:立位練習, 完全対麻痺, プッシュアップ
【はじめに,目的】
完全対麻痺者の立位練習の意義としては,排泄機能の促進や拘縮予防等が挙げられている。完全対麻痺者の立位練習後は,プッシュアップ時の僧帽筋下部・広背筋の活動が促通され,プッシュアップ開始から殿部浮上までの時間の短縮を経験する。諸家らは,プッシュアップの体幹前屈時に背面筋群の遠心性コントロール(Allison,1996)の重要性を示唆している。しかし,立位練習がプッシュアップの背面筋群の筋活動の増加や動作時間を短縮させるという報告は見当たらない。
そこで今回,完全対麻痺者3例に対して,立位練習前後のプッシュアップにおける背面筋群の筋活動とプッシュアップ開始から殿部浮上までの到達時間を測定し,若干の知見を得たので報告する。
【方法】
対象は,第12胸髄損傷の男性3例(ASIA impairment Scale;A),平均年齢は29.7±12.0歳,受傷日からの日数は平均619±99.6日,車いす生活は床から車いすへの移乗を含め自立していた。
測定は,20分間の立位練習の前後で,プッシュアップの背面筋群の筋活動とプッシュアップ開始から殿部浮上までの到達時間を計測した。立位練習は,平行棒内で長下肢装具を使用し,両上肢平行棒支持での立位保持から片側上肢の支持,片測上肢の拳上へと段階的に課題を上げて実施した。プッシュアップは,立位練習前(条件1)・後(条件2)で行い,両上肢支持の位置は任意とするが各条件間で位置が変化しないように配慮した。また,被験者には「出来る限りお尻を高く上げ,ゆっくり降ろしてください」と口頭指示を行った。
計測機器は,被験者の左側に表面筋電図(酒井医療社製,MyoSystem1200)を貼付し,両側手掌下に重心動揺計(ANIMA社製,G-7100),矢状面上にビデオカメラを設置した。これらを同期させて,プッシュアップを上肢移動期(I期),殿部浮上期(II期),殿部最高期(III期),殿部下降期(IV期)の各4期(安田,2010)に分けて分析した。表面筋電図は,僧帽筋下部線維(IT)・広背筋(LD)・脊柱起立筋(ES)の計3筋を記録筋とし,sampling周波数1kHzで測定した。得られた筋電図は,全波整流後に上記4期毎にroot mean square(RMS)値を算出した。この値を等尺性収縮で測定した各筋の最大筋力で除し%MVCとして算出した。また,条件1と条件2で%MVCの最大値が変化した相を抽出した。重心動揺計のFz値は,II期からIII期にて最大荷重量値が記録されたため,プッシュアップ開始時から最大荷重量値までの到達時間(T1)を算出した。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象および家族に研究の趣旨を十分に説明し書面にて同意を得た。
【結果】
立位練習前後でのプッシュアップにおける%MVC(%)は,症例AでIT:30.6→24.0,LD:44.2→45.9,ES:8.9→15.5,症例BでIT:45.2→72.8,LD:62.5→89.4,ES:45.6→63.8,症例CでIT:31.7→42.8,LD:19.8→30.7,ES:20.8→27.7と,症例AのIT以外の筋活動は条件2で増加を認めた。また,立位練習前後のプッシュアップで最大値を認めた相は,症例Aは条件1,2ともIT・LD・ES全てII期で記録され,変化を認めなかった。一方で,症例BはIT:III期→II期,LD:III期→II期,ES:II期→II期,症例CはIT:II期→I期,LD:II期→II期,ES:II期→II期と立位練習前後で最大値を示す相に変化を認めた。また,立位練習前後のプッシュアップのT1は,症例Aで6.35秒→4.93秒,症例Bで5.67秒→3.35秒,症例Cで3.64秒→3.57秒と3症例ともに到達時間の短縮を認めた。
【考察】
今回,完全対麻痺者に対して立位練習を実施し,立位練習前後のプッシュアップにおける背面筋群の筋活動とT1を検討した。3症例における条件2では,症例AのIT以外で筋活動の増加を認めた。これは,立位練習における抗重力位での姿勢制御により背面筋群が賦活され,条件2で背面筋群の筋活動が増加しT1の短縮,つまりは円滑なプッシュアップに繋がったと考えられる。一方で,立位練習前後のプッシュアップで最大値を示す相に症例B・Cでは変化を認め,立位練習がプッシュアップ時の筋活動量だけでなく,筋活動様式にも影響を及ぼす可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,完全対麻痺者における短期的な立位練習が,プッシュアップの背面筋群の筋活動の増加と円滑なプッシュアップを促すことを示した報告である。
完全対麻痺者の立位練習の意義としては,排泄機能の促進や拘縮予防等が挙げられている。完全対麻痺者の立位練習後は,プッシュアップ時の僧帽筋下部・広背筋の活動が促通され,プッシュアップ開始から殿部浮上までの時間の短縮を経験する。諸家らは,プッシュアップの体幹前屈時に背面筋群の遠心性コントロール(Allison,1996)の重要性を示唆している。しかし,立位練習がプッシュアップの背面筋群の筋活動の増加や動作時間を短縮させるという報告は見当たらない。
そこで今回,完全対麻痺者3例に対して,立位練習前後のプッシュアップにおける背面筋群の筋活動とプッシュアップ開始から殿部浮上までの到達時間を測定し,若干の知見を得たので報告する。
【方法】
対象は,第12胸髄損傷の男性3例(ASIA impairment Scale;A),平均年齢は29.7±12.0歳,受傷日からの日数は平均619±99.6日,車いす生活は床から車いすへの移乗を含め自立していた。
測定は,20分間の立位練習の前後で,プッシュアップの背面筋群の筋活動とプッシュアップ開始から殿部浮上までの到達時間を計測した。立位練習は,平行棒内で長下肢装具を使用し,両上肢平行棒支持での立位保持から片側上肢の支持,片測上肢の拳上へと段階的に課題を上げて実施した。プッシュアップは,立位練習前(条件1)・後(条件2)で行い,両上肢支持の位置は任意とするが各条件間で位置が変化しないように配慮した。また,被験者には「出来る限りお尻を高く上げ,ゆっくり降ろしてください」と口頭指示を行った。
計測機器は,被験者の左側に表面筋電図(酒井医療社製,MyoSystem1200)を貼付し,両側手掌下に重心動揺計(ANIMA社製,G-7100),矢状面上にビデオカメラを設置した。これらを同期させて,プッシュアップを上肢移動期(I期),殿部浮上期(II期),殿部最高期(III期),殿部下降期(IV期)の各4期(安田,2010)に分けて分析した。表面筋電図は,僧帽筋下部線維(IT)・広背筋(LD)・脊柱起立筋(ES)の計3筋を記録筋とし,sampling周波数1kHzで測定した。得られた筋電図は,全波整流後に上記4期毎にroot mean square(RMS)値を算出した。この値を等尺性収縮で測定した各筋の最大筋力で除し%MVCとして算出した。また,条件1と条件2で%MVCの最大値が変化した相を抽出した。重心動揺計のFz値は,II期からIII期にて最大荷重量値が記録されたため,プッシュアップ開始時から最大荷重量値までの到達時間(T1)を算出した。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象および家族に研究の趣旨を十分に説明し書面にて同意を得た。
【結果】
立位練習前後でのプッシュアップにおける%MVC(%)は,症例AでIT:30.6→24.0,LD:44.2→45.9,ES:8.9→15.5,症例BでIT:45.2→72.8,LD:62.5→89.4,ES:45.6→63.8,症例CでIT:31.7→42.8,LD:19.8→30.7,ES:20.8→27.7と,症例AのIT以外の筋活動は条件2で増加を認めた。また,立位練習前後のプッシュアップで最大値を認めた相は,症例Aは条件1,2ともIT・LD・ES全てII期で記録され,変化を認めなかった。一方で,症例BはIT:III期→II期,LD:III期→II期,ES:II期→II期,症例CはIT:II期→I期,LD:II期→II期,ES:II期→II期と立位練習前後で最大値を示す相に変化を認めた。また,立位練習前後のプッシュアップのT1は,症例Aで6.35秒→4.93秒,症例Bで5.67秒→3.35秒,症例Cで3.64秒→3.57秒と3症例ともに到達時間の短縮を認めた。
【考察】
今回,完全対麻痺者に対して立位練習を実施し,立位練習前後のプッシュアップにおける背面筋群の筋活動とT1を検討した。3症例における条件2では,症例AのIT以外で筋活動の増加を認めた。これは,立位練習における抗重力位での姿勢制御により背面筋群が賦活され,条件2で背面筋群の筋活動が増加しT1の短縮,つまりは円滑なプッシュアップに繋がったと考えられる。一方で,立位練習前後のプッシュアップで最大値を示す相に症例B・Cでは変化を認め,立位練習がプッシュアップ時の筋活動量だけでなく,筋活動様式にも影響を及ぼす可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,完全対麻痺者における短期的な立位練習が,プッシュアップの背面筋群の筋活動の増加と円滑なプッシュアップを促すことを示した報告である。