[1259] 急性期頚髄損傷者に対するハンドエルゴメーター運動の実行可能性
キーワード:頚髄損傷, エルゴメーター, 運動療法
【はじめに,目的】頚髄損傷者の受傷後急性期には,活動性の低下を生じるケースがほとんどである。活動性低下は廃用性の機能低下に繋がるが,我々は現状よりもさらに積極的な運動介入を早期から実施すれば,廃用性の機能低下を抑止できるのではないかと考えた。頚髄損傷者の運動に関する研究には,ハンドエルゴメーター(以下ハンドエルゴ)を用いたものがあるが,受傷後急性期からの導入に関する報告は皆無である。そこで本研究の目的は,急性期頚髄損傷者にハンドエルゴの導入が,果たしてどの程度可能なのか,その実行可能性を検討するとともに,運動効果を分析することである。
【方法】
対象は受傷後1週以内に搬送された外傷性頚髄損傷者のうち,ハンドエルゴ駆動が可能で,心疾患あるいは呼吸器疾患の既往がない,入院時のFrankel分類がAからCのものとした。以上の条件を満たした6名を対象とした。対象は全例受傷即日搬送・即日頚椎手術された。内訳は,損傷レベルがC6~C8の頚髄損傷者5名および非骨傷性頚髄損傷者1名で,改良Frankel分類ではAが4名,B2が1名,C1が1名(平均年齢57.5±20.3歳)であった。対象には入院後,可能な限り早期にハンドエルゴ運動を導入した。ハンドエルゴにはRM-08(prime社製)を使用し,対象の手指を把持部に接触させた上から,固定具にて固定した。運動負荷は10Wとし,眼前のタイマーを目視しながら,30bpmの回転数を保つように指示した。運動時間は対象の疲労度に合わせて最低10分,最高20分とした。運動課題は,10回の実施(1回/1日)と設定し,その日の体調に応じて運動実施の可否を決定した。以上の実施内容で,運動開始までの日数と,運動課題が終了するまでに要した日数,運動実施および継続を阻害した因子を検討した。さらに,ハンドエルゴ運動効果の評価のため,運動前に2分間安静を保ったうえで,運動中の心拍数変化を計測した。心拍数は,リアルタイムでの心拍数変化が記録可能なパルスオキシメーターCMS50F(CONTEC社製)を母趾に装着して計測し,安静時心拍数から運動中の最大心拍数の変化値を算出した。また,運動前後の血圧変化を,上腕式自動血圧計HEM-7115(オムロン社製)にて計測した。加えて,起立性低血圧の評価のため,入院時・1ヶ月において,起立性低血圧の自覚症状の有無を聴取するとともに,臥位からベッド上ギャッチアップ座位時になった際の収縮期血圧の差を計測した。
【倫理的配慮,説明と同意】
研究に際して,当院の倫理委員会にて承認を受けたうえ,対象者に対して,本研究の目的,方法,期待される効果,リスク,リスクを回避する環境設定を十分に説明し,研究参加について同意を得た。
【結果】
入院後ハンドエルゴ運動開始には平均12.2±12.4日を要した。運動開始の阻害因子は,DVT・上肢点滴ルート確保・手術後頚部痛・呼吸状態の悪化であった。10回の運動課題終了には平均32.7±17.4日を要した。運動継続の阻害因子は,DVT・手術後頚部痛・疲労訴え,起立性低血圧であった。ハンドエルゴ運動中の心拍数は,すべての対象で上昇しており,10回の平均で,5bpmから28bpmの上昇を呈していた。運動後の血圧に関しては,6名中4名において,10回の平均で4mmHgから17mmHgの低下を呈していた。また,受傷後1ヶ月時には,6名中5名で起立性低血圧の自覚症状はなく,臥位から長座位への姿勢変化の際の血圧低下は,6名中4名において軽減していた。
【考察】
頚髄損傷者は受傷後の著明な身体機能低下により,受傷後急性期に実施できるリハビリプログラムが限られるため,積極的な運動介入が困難であり,残存した機能において,廃用性の機能低下を容易に起こしやすい。本研究におけるハンドエルゴ運動では,全ての対象において,運動に対する良好な心拍数上昇反応が得られていた。よって,急性期の頚髄損傷者に対して,一定の運動効果が得られていることが示唆され,身体の廃用性予防に有効であると考えられる。しかし,導入の際には,本研究で提示された様に,運動後の血圧低下を呈する症例が多いことを理解しておく必要がある。また,ハンドエルゴ運動実施には阻害因子が多く,特に運動開始に想定以上の日数を要していた。そのため,環境設定や頚部のポジションなどに検討の余地があると考えられる。起立性低血圧の経時的な変化に関しては,良好な経過を辿っていたが,ハンドエルゴの効果のみならず,早期からの積極的な座位姿勢や身体活動量の向上が,身体へ良好な影響を与えた可能性がある。今後,適切な運動負荷量などを検討し,さらなる詳細な分析を加えていく。
【理学療法学研究としての意義】
急性期頚髄損傷者に対する積極的な運動療法実施のアウトカムは,受傷早期からの運動療法および離床を推奨する際の根拠となりうる。
【方法】
対象は受傷後1週以内に搬送された外傷性頚髄損傷者のうち,ハンドエルゴ駆動が可能で,心疾患あるいは呼吸器疾患の既往がない,入院時のFrankel分類がAからCのものとした。以上の条件を満たした6名を対象とした。対象は全例受傷即日搬送・即日頚椎手術された。内訳は,損傷レベルがC6~C8の頚髄損傷者5名および非骨傷性頚髄損傷者1名で,改良Frankel分類ではAが4名,B2が1名,C1が1名(平均年齢57.5±20.3歳)であった。対象には入院後,可能な限り早期にハンドエルゴ運動を導入した。ハンドエルゴにはRM-08(prime社製)を使用し,対象の手指を把持部に接触させた上から,固定具にて固定した。運動負荷は10Wとし,眼前のタイマーを目視しながら,30bpmの回転数を保つように指示した。運動時間は対象の疲労度に合わせて最低10分,最高20分とした。運動課題は,10回の実施(1回/1日)と設定し,その日の体調に応じて運動実施の可否を決定した。以上の実施内容で,運動開始までの日数と,運動課題が終了するまでに要した日数,運動実施および継続を阻害した因子を検討した。さらに,ハンドエルゴ運動効果の評価のため,運動前に2分間安静を保ったうえで,運動中の心拍数変化を計測した。心拍数は,リアルタイムでの心拍数変化が記録可能なパルスオキシメーターCMS50F(CONTEC社製)を母趾に装着して計測し,安静時心拍数から運動中の最大心拍数の変化値を算出した。また,運動前後の血圧変化を,上腕式自動血圧計HEM-7115(オムロン社製)にて計測した。加えて,起立性低血圧の評価のため,入院時・1ヶ月において,起立性低血圧の自覚症状の有無を聴取するとともに,臥位からベッド上ギャッチアップ座位時になった際の収縮期血圧の差を計測した。
【倫理的配慮,説明と同意】
研究に際して,当院の倫理委員会にて承認を受けたうえ,対象者に対して,本研究の目的,方法,期待される効果,リスク,リスクを回避する環境設定を十分に説明し,研究参加について同意を得た。
【結果】
入院後ハンドエルゴ運動開始には平均12.2±12.4日を要した。運動開始の阻害因子は,DVT・上肢点滴ルート確保・手術後頚部痛・呼吸状態の悪化であった。10回の運動課題終了には平均32.7±17.4日を要した。運動継続の阻害因子は,DVT・手術後頚部痛・疲労訴え,起立性低血圧であった。ハンドエルゴ運動中の心拍数は,すべての対象で上昇しており,10回の平均で,5bpmから28bpmの上昇を呈していた。運動後の血圧に関しては,6名中4名において,10回の平均で4mmHgから17mmHgの低下を呈していた。また,受傷後1ヶ月時には,6名中5名で起立性低血圧の自覚症状はなく,臥位から長座位への姿勢変化の際の血圧低下は,6名中4名において軽減していた。
【考察】
頚髄損傷者は受傷後の著明な身体機能低下により,受傷後急性期に実施できるリハビリプログラムが限られるため,積極的な運動介入が困難であり,残存した機能において,廃用性の機能低下を容易に起こしやすい。本研究におけるハンドエルゴ運動では,全ての対象において,運動に対する良好な心拍数上昇反応が得られていた。よって,急性期の頚髄損傷者に対して,一定の運動効果が得られていることが示唆され,身体の廃用性予防に有効であると考えられる。しかし,導入の際には,本研究で提示された様に,運動後の血圧低下を呈する症例が多いことを理解しておく必要がある。また,ハンドエルゴ運動実施には阻害因子が多く,特に運動開始に想定以上の日数を要していた。そのため,環境設定や頚部のポジションなどに検討の余地があると考えられる。起立性低血圧の経時的な変化に関しては,良好な経過を辿っていたが,ハンドエルゴの効果のみならず,早期からの積極的な座位姿勢や身体活動量の向上が,身体へ良好な影響を与えた可能性がある。今後,適切な運動負荷量などを検討し,さらなる詳細な分析を加えていく。
【理学療法学研究としての意義】
急性期頚髄損傷者に対する積極的な運動療法実施のアウトカムは,受傷早期からの運動療法および離床を推奨する際の根拠となりうる。