第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 神経理学療法 口述

脊髄損傷理学療法2

Sat. May 31, 2014 4:40 PM - 5:30 PM 第13会場 (5F 503)

座長:望月久(文京学院大学保健医療技術学部理学療法学科)

神経 口述

[1260] 人工呼吸器への依存によりウィーニングに難渋した一例

津上千愛1, 小宮雅美1, 植田尊善2 (1.独立行政法人労働者健康福祉機構総合せき損センター中央リハビリテーション部, 2.独立行政法人労働者健康福祉機構総合せき損センター整形外科)

Keywords:嚥下, ウィーニング, 頸髄損傷

【はじめに,目的】一般的に頸髄損傷C4残存レベル以下では横隔膜が機能するためウィーニングは可能とされている。しかし呼吸筋麻痺や器質的障害,呼吸苦に対する不安感などにより人工呼吸器への依存度が高まると,ウィーニングが困難になるとの報告もある。長期にわたる人工呼吸器管理は感染や廃用性の筋力低下を引き起こし,嚥下障害や活動制限など患者のADL・QOLを低下させる。今回経験した症例は,器質的な問題がないにもかかわらず,嚥下困難を生じウィーニングに難渋した。そこで自発呼吸トライアル(以下SBT)と同時に嚥下機能改善を試みたところ,最終的には嚥下機能の改善や人工呼吸器離脱に至ったのでここに経過を報告する。
【方法】<症例紹介>10代女性。交通事故により受傷。<診断名>第3頚椎涙滴型骨折による頚髄損傷(C4残存レベル)。<入院経過>受傷3日目,気管切開術施行。4日目,ハローベスト装着。13日目,頸椎後方固定術施行。32日目,リハビリテーション(以下リハ)目的で当院に転院。33日目,リハ開始。38日目,後方固定術再施行。<入院時現症※受傷3日目>身体機能:ASIA分類A(運動スコア:0/100点,表在触覚:12/126点,痛覚:12/126点)。MMT(Rt/Lt)は僧帽筋4/4,胸鎖乳突筋4/4,横隔膜1三角筋1/0。嚥下:経鼻胃管より濃厚流動食1200kcalを注入。嚥下反射あり。喉頭挙上不可。ビデオ嚥下造影検査より喉頭挙上不十分による食道入口部の開大不全を認める。着色水テストは陰性で明らかな誤嚥は認められなかった。反復唾液飲み込みテスト(以下RSST)は測定不可。呼吸:人工呼吸器管理。モードはSIMV+PSに設定。<理学療法プログラム>非常勤言語聴覚士と連携し,頚部筋力強化,リクライニング式車いすでの座位耐久性向上,正常嚥下パターンの再教育を実施。その際の車いす乗車時間,自発呼吸時間,喉頭挙上,RSSTの経過を記録。
【倫理的配慮,説明と同意】書面にて本報告に関する趣旨・内容を説明し症例本人の同意を得た。尚,症例は未成年であるため母親にも同様に説明を実施し同意を得た。
【結果】<経過>経過日数は受傷日を1日目とする。45日目:直接嚥下練習開始。ゼリー1口摂取するも口腔より全量排出。RSST=1回。喉頭挙上0.5横指可能。59日目:リクライニング式車いす乗車練習開始。25分乗車可能。89日目:カフなしカニューレに変更。発声が可能。95日目:Tピース使用しSBT開始。自発呼吸時間=5分可能。VC=100ml,TV=50ml,SpO2=98~100%。115日目:自発呼吸時間=30分可能。ゼリー4口摂取し1/2嚥下可能。喉頭挙上1横指可能。125日目:経皮内視鏡的胃瘻造設術(以下PEG)施行。経鼻胃管抜去。137日目:自発呼吸時間=60分可能。VC=450ml,TV=100ml,SpO2=98~100%。ゼリー6口摂取し1/2嚥下可能。141日目:自発呼吸時間=120分可能。単語レベルで発声可能。乗車時間:120分。147日目:日中は人工呼吸器離脱可能※夜間は人工呼吸器装着。日中,リクライニング式車いす乗車可能。173日目:レティナカニューレに変更し自発呼吸へ移行。180日目:ゼリー1個全量摂取可能。喉頭挙上1.5横指可能。RSST=4回。臥位にて1横指頭部挙上可能。車いすでのリハビリ室来室開始。189日目:昼食のみ全粥食500kcalにて経口摂取開始。3割摂取可能。191日目:全粥食8割摂取可能。喉頭挙上2横指可能。RSST=5回。204日目:気管切開部完全閉鎖。209日目:3食常食1800kcalにて経口摂取開始。8割摂取可能。RSST=7回。
【考察】本症例は頚髄損傷(C4残存レベル)による呼吸筋麻痺を呈しており,人工呼吸管理となっていた。また頚椎の不安定性や起立性低血圧症状により離床が遅れ,呼吸・嚥下関連筋群の廃用性筋力低下を生じていた。嚥下痛や喉頭挙上制限より嚥下困難な状態となり,常に唾液は口腔より排出していた。そのため気道内への唾液の流入や気管カニューレの刺激により気道内分泌物が増加し,吸引回数の増大や呼吸困難感から人工呼吸器依存状態を助長していたと考えられる。気管カニューレや経鼻胃管の存在が呼吸コントロールを困難にし喉頭挙上を阻害するとの報告があり,早期抜管が重要となる。そこでPEGの施行やレティナカニューレへの変更を行い,外部刺激の軽減を図った。併せて頚部筋力強化や喉頭挙上の強化を実施したことでMMT(Rt/Lt)は僧帽筋5/5,胸鎖乳突筋5/5,横隔膜2,喉頭挙上2横指可能となり経口摂取の獲得に至ったと考えられる。また嚥下機能や車いす座位の耐久性向上に伴い,自発呼吸時間も急激に延長し人工呼吸器離脱に成功,さらには活動範囲の拡大に至ったと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】頚髄損傷者(C4残存レベル)に対するウィーニング難渋症例の報告は少なく希少なデータとなりうる。