[1263] 歩行停止動作の二重課題による影響と注意分配性の関連性
Keywords:二重課題, 歩行停止, 注意分配
【はじめに,目的】
歩行に関連した二重課題(dual task;DT)の研究は定速状態の歩行が多く,加速期や減速期である歩行開始や停止動作に関する研究は少ないのが現状である。特に歩行停止動作に関する研究は少なく,臨床上この動作に不安定さを呈する症例も多い。DTにおける定速状態の歩行能力は注意機能と関連することが明らかとなっているが,DTにおける歩行停止動作と注意機能との関連は明らかにされていない。本研究は,健常者を対象に歩行停止動作におけるDTの影響と注意分配性の関連性を検討することを目的とした。
【方法】
健常男性15名(年齢22.9±2.7歳:平均±標準偏差)を対象に,三次元動作解析装置VICON MX(VICON MOTION SYSTEMS社製)と床反力計(AMTI社製)を使用して歩行停止動作の分析を行った。赤外線マーカーを,両側の肩峰,上前腸骨棘(ASIS),大転子中央と両側ASISを結ぶ線上で大転子から1/3の位置,膝関節裂隙中央の高さで膝蓋骨を除いた膝の前後径の中点,外果,第5中足骨頭の計12点に貼付した。歩行停止動作は,8mの歩行路を快適歩行速度にて歩行し,床反力計上に両足を揃えて停止する課題とした。条件は歩行停止動作のみ行うsingle task(ST)条件と,それに加え100から3を順番に引く課題を行うDT条件の2条件とした。減速開始の定義は,両側ASIS中点の速度が,定速状態の平均値から2標準偏差以下になった時点とし,停止の定義は,身体重心の前方移動加速度が,±0.005m/s2以下になった時点とした。測定項目は,定速状態の指標として,歩行速度,歩行周期時間,重複歩距離を算出し,歩行停止動作の指標として,減速開始から停止までの時間(停止時間)と距離(停止距離)を算出した。また,歩行速度と停止時間の変化率を算出し,速度変化率と停止時間変化率とした。各条件を3回測定し,分析には歩行速度が最大値の試行を採用した。また,注意分配性としてTrail Making Test-B(TMT-B)を測定した。統計処理はIMB SPSS statistics19を用いて,各指標の条件間の差を対応のあるt-検定を用いて分析し,TMT-Bと各項目の関連性をPearsonの相関係数を用いて分析した。なお,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に則り,群馬大学医学部臨床研究倫理審査委員会の承認後,対象者に説明用紙と口頭にて研究内容の説明を行い,書面にて同意を得た上で測定を行った。
【結果】
歩行速度はST条件1.38±0.11m/s,DT条件1.29±0.14m/s,歩行周期時間はST条件1.03±0.05sec,DT条件1.05±0.07sec,重複歩距離はST条件1.42±0.08m,DT条件1.35±0.12m,停止時間はST条件2.04±0.47sec,DT条件2.61±0.80sec,停止距離はST条件0.99±0.34m,DT条件1.19±0.58m,速度変化率は6.4±6.3%,停止時間変化率は-27.8±26.1%,TMT-Bは65.9±10.0secであった。条件間の比較では,ST条件に比してDT条件にて歩行速度と重複歩距離は有意に低値となり,停止時間は有意に延長した(p<0.01)。定速状態の指標や変化率は各条件でTMT-Bとの間に有意な相関を認めなかった。歩行停止動作の指標は,ST条件の停止時間でr=-0.607(p<0.05),停止距離でr=-0.535(p<0.05)とTMT-Bとの間に有意な中等度の負の相関を認めたが,DT条件では有意な相関を認めなかった。
【考察】
今回の結果では,停止時間がDT条件で有意な延長を認めた。停止時間は安全に停止するための過渡的な準備時間であり,DT条件では早期から減速を開始し,安全に停止するための準備を行っていると考えられる。そのため,DT条件では健常者の歩行停止動作の戦略が異なることが示唆された。注意分配性については,定速状態の指標や変化率,DT条件の停止動作の指標との間に有意な相関を認めなかった。これは,定速状態の歩行が健常者において容易な課題であることや対象者が運動課題と認知課題のどのように注意を分配したか不明なこと,代表値の採用定義の影響など様々な要因が考えられる。一方,ST条件の停止時間や距離は有意な負の相関が認められた。歩行停止動作は定速状態から,停止位置や減速開始の時期に注意を分配する動作と考えられ,注意分配性が低い場合,早期から減速を開始することも推測されるが,今回の結果のみでは歩行停止動作と注意分配性に関連があるとは断言できないであろう。そのため,対象数の増加や代表値の採用定義の検討,停止動作の戦略の検討が課題である。そして,高齢者や疾患を有する患者を対象に測定することも重要な課題だと考える。また,足圧中心軌跡の解析を行い,歩行停止動作の姿勢制御を明らかにすることも必要だと考える。
【理学療法学研究としての意義】
DT条件下では,健常者においても歩行停止動作の戦略が異なるため,臨床にてDT条件での歩行停止動作の評価と介入を行う必要性が示唆される。
歩行に関連した二重課題(dual task;DT)の研究は定速状態の歩行が多く,加速期や減速期である歩行開始や停止動作に関する研究は少ないのが現状である。特に歩行停止動作に関する研究は少なく,臨床上この動作に不安定さを呈する症例も多い。DTにおける定速状態の歩行能力は注意機能と関連することが明らかとなっているが,DTにおける歩行停止動作と注意機能との関連は明らかにされていない。本研究は,健常者を対象に歩行停止動作におけるDTの影響と注意分配性の関連性を検討することを目的とした。
【方法】
健常男性15名(年齢22.9±2.7歳:平均±標準偏差)を対象に,三次元動作解析装置VICON MX(VICON MOTION SYSTEMS社製)と床反力計(AMTI社製)を使用して歩行停止動作の分析を行った。赤外線マーカーを,両側の肩峰,上前腸骨棘(ASIS),大転子中央と両側ASISを結ぶ線上で大転子から1/3の位置,膝関節裂隙中央の高さで膝蓋骨を除いた膝の前後径の中点,外果,第5中足骨頭の計12点に貼付した。歩行停止動作は,8mの歩行路を快適歩行速度にて歩行し,床反力計上に両足を揃えて停止する課題とした。条件は歩行停止動作のみ行うsingle task(ST)条件と,それに加え100から3を順番に引く課題を行うDT条件の2条件とした。減速開始の定義は,両側ASIS中点の速度が,定速状態の平均値から2標準偏差以下になった時点とし,停止の定義は,身体重心の前方移動加速度が,±0.005m/s2以下になった時点とした。測定項目は,定速状態の指標として,歩行速度,歩行周期時間,重複歩距離を算出し,歩行停止動作の指標として,減速開始から停止までの時間(停止時間)と距離(停止距離)を算出した。また,歩行速度と停止時間の変化率を算出し,速度変化率と停止時間変化率とした。各条件を3回測定し,分析には歩行速度が最大値の試行を採用した。また,注意分配性としてTrail Making Test-B(TMT-B)を測定した。統計処理はIMB SPSS statistics19を用いて,各指標の条件間の差を対応のあるt-検定を用いて分析し,TMT-Bと各項目の関連性をPearsonの相関係数を用いて分析した。なお,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に則り,群馬大学医学部臨床研究倫理審査委員会の承認後,対象者に説明用紙と口頭にて研究内容の説明を行い,書面にて同意を得た上で測定を行った。
【結果】
歩行速度はST条件1.38±0.11m/s,DT条件1.29±0.14m/s,歩行周期時間はST条件1.03±0.05sec,DT条件1.05±0.07sec,重複歩距離はST条件1.42±0.08m,DT条件1.35±0.12m,停止時間はST条件2.04±0.47sec,DT条件2.61±0.80sec,停止距離はST条件0.99±0.34m,DT条件1.19±0.58m,速度変化率は6.4±6.3%,停止時間変化率は-27.8±26.1%,TMT-Bは65.9±10.0secであった。条件間の比較では,ST条件に比してDT条件にて歩行速度と重複歩距離は有意に低値となり,停止時間は有意に延長した(p<0.01)。定速状態の指標や変化率は各条件でTMT-Bとの間に有意な相関を認めなかった。歩行停止動作の指標は,ST条件の停止時間でr=-0.607(p<0.05),停止距離でr=-0.535(p<0.05)とTMT-Bとの間に有意な中等度の負の相関を認めたが,DT条件では有意な相関を認めなかった。
【考察】
今回の結果では,停止時間がDT条件で有意な延長を認めた。停止時間は安全に停止するための過渡的な準備時間であり,DT条件では早期から減速を開始し,安全に停止するための準備を行っていると考えられる。そのため,DT条件では健常者の歩行停止動作の戦略が異なることが示唆された。注意分配性については,定速状態の指標や変化率,DT条件の停止動作の指標との間に有意な相関を認めなかった。これは,定速状態の歩行が健常者において容易な課題であることや対象者が運動課題と認知課題のどのように注意を分配したか不明なこと,代表値の採用定義の影響など様々な要因が考えられる。一方,ST条件の停止時間や距離は有意な負の相関が認められた。歩行停止動作は定速状態から,停止位置や減速開始の時期に注意を分配する動作と考えられ,注意分配性が低い場合,早期から減速を開始することも推測されるが,今回の結果のみでは歩行停止動作と注意分配性に関連があるとは断言できないであろう。そのため,対象数の増加や代表値の採用定義の検討,停止動作の戦略の検討が課題である。そして,高齢者や疾患を有する患者を対象に測定することも重要な課題だと考える。また,足圧中心軌跡の解析を行い,歩行停止動作の姿勢制御を明らかにすることも必要だと考える。
【理学療法学研究としての意義】
DT条件下では,健常者においても歩行停止動作の戦略が異なるため,臨床にてDT条件での歩行停止動作の評価と介入を行う必要性が示唆される。