第49回日本理学療法学術大会

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身体運動学17

2014年5月31日(土) 16:40 〜 17:30 ポスター会場 (基礎)

座長:櫻井好美(学校法人湘南ふれあい学園大学設立準備室)

基礎 ポスター

[1266] 歩き始めにおける体幹傾斜の影響

丸毛達也1,2, 武田尊徳1,2, 金村尚彦3, 高柳清美3 (1.上尾中央総合病院リハビリテーション技術科, 2.埼玉県立大学大学院リハビリテーション学専修, 3.埼玉県立大学保健医療福祉学部理学療法学科)

キーワード:歩き始め, 体幹傾斜, Jerk Index

【はじめに】
歩き始めはADL上頻回に繰り返される動作である。変形性膝関節症(以下,膝OA)において歩き始めは歩行時と同様に立脚側の外部膝関節内反モーメント(以下,膝内反モーメント)が増加すると報告されている。歩行時の膝内反モーメントを減少させる為に様々な介入研究が行われている。その中でも立脚側への体幹傾斜歩行は健常人において膝内反モーメントを減少させるという報告があり,膝OA患者の膝内反モーメント減少に対して有効ではないかと報告されている。しかし,体幹傾斜歩行を全ての膝OA患者が用いている訳ではない。そこで,仮説として歩き始め時の立脚側への体幹傾斜は膝内反モーメントを減少させるが動作円滑性を低下させると考えた。歩き始め時の体幹傾斜に伴う下肢各関節への影響および動作円滑性について報告した研究はない。先行研究において動作円滑性を客観的に評価する指標として躍度(Jerk)があり,Jerkを動作時間と動作距離で正規化した躍度の指数(Jerk Index)が用いられている。Jerk Indexの増加は動作円滑性の低下を意味する。床反力作用点(COP)は姿勢制御能力を反映するということから,動作円滑性の指標としてCOP軌跡のJerk Indexに注目した。本研究の目的は歩き始め時の立脚側への体幹傾斜が下肢各関節に及ぼす運動学・運動力学的変化および動作円滑性への影響を調査する事である。
【方法】
下肢に整形外科的既往がない健常女性8名(年齢25.1±3.3歳,身長158.3±5.3cm,体重49.3±5.5kg)を対象とした。先行肢は右脚とし,静止立位姿勢からの歩き始めを計測した。計測条件は至適条件と体幹傾斜条件とした。至適条件を3試行計測した後,体幹傾斜条件を3試行計測した。体幹傾斜条件では姿勢矯正鏡に正中線を引き,被験者の左右上前腸骨棘を結んだ線との交点から正中線より反時計回りに10°の傾斜線を引いた。歩き始め時の左単脚支持期に傾斜線に合わせて体幹傾斜するよう指導した後,十分に練習を行った。姿勢矯正鏡なしで動作が可能となってから計測を行った。体幹傾斜の程度を確認するために動作時の肩峰・骨盤傾斜角度を測定した。計測には8台の赤外線カメラによる三次元動作解析装置(VICON社製,100Hz)を用いて,35個の反射マーカの三次元座標を記録した。マーカの三次元座標情報から関節角度を算出した。床反力計(KISTLER社製,1000Hz)を用いて床反力を計測した。左下肢各関節における最大関節角度・モーメントは歩き始め開始時から3歩目の右足尖離地までを解析対象とし,COP軌跡は左単脚支持期を解析対象とした。左単脚支持期におけるCOP軌跡のX成分・Y成分からJerk Indexを算出した。肩峰・骨盤傾斜角度は左単脚支持期の50%時点での値を採用した。肩峰傾斜角度・骨盤傾斜角度は共に正中線を90°とし,向かって反時計回りを正とした。統計処理は対応のあるt検定を用い,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には研究の目的と内容について書面と口頭にて十分に説明を行い,書面にて同意を得た。本研究は本学倫理委員会の承認を得て実施した。
【結果】
肩峰傾斜角度(至適条件87.9±4.9°,傾斜条件107.6±14.7°)と骨盤傾斜角度(110.1±20.2°,128.8±22.2°)共に有意差を認めた。最大関節角度では股関節外転(6.0±2.8°,9.6±5.9°)・内転角度(5.1±3.5°,6.2±3.8°),足関節背屈角度(11.7±3.1°,8.1±4.2°)において有意差を認めた。最大モーメントでは外部股関節内転(1.9±0.3Nm/kg,1.7±0.2Nm/kg),外部膝関節内転(1.0±0.3Nm/kg,0.8±0.3Nm/kg),外部足関節背屈モーメント(3.1±0.6Nm/kg,2.8±0.5Nm/kg)において有意差を認めた。COP軌跡のJerk IndexはX方向(1.8×1011±1.1×1011,2.0×1012±1.2×1012),Y方向(3.2×1011±1.9×1011,3.6×1012±1.7×1012)共に有意差を認めた。
【考察】
歩き始め時の立脚側への体幹傾斜は膝内反モーメントを減少させたが,前額面のみでなく矢状面上の下肢関節の運動学・運動力学的変化させた。体節間の協調運動を阻害した結果として,動作円滑性が低下しCOP軌跡のJerk Indexに有意差を認めたと考えられる。立脚側への体幹傾斜は膝内反モーメントを軽減するが,動作円滑性を低下させると考えられる。膝内反モーメント軽減に向けた動作指導を行う際は適用を慎重に検討する必要があると考えられる。歩き始め時の体幹傾斜は至適歩行と比較し肩峰傾斜角度・骨盤傾斜角度に有意差を認めたものの,個々人によるばらつきが大きかった事から運動戦略の違い,課題遂行の正確性・熟達度については考慮しなければならない。
【理学療法学研究としての意義】
歩き始め時の体幹傾斜が下肢関節に与える影響が明らかになった。歩き始めにおける円滑性の指標としてJerk Indexを用いることは有用な情報となりうる。