第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 基礎理学療法 ポスター

運動生理学3

2014年5月31日(土) 16:40 〜 17:30 ポスター会場 (基礎)

座長:西原賢(埼玉県立大学理学療法学科)

基礎 ポスター

[1271] 脊髄損傷者におけるギャッジアップ時の循環応答

浅原亮太, 柳政完, 鄭勲九, 山崎昌廣 (広島大学大学院総合科学研究科身体運動科学研究領域)

キーワード:脊髄損傷, 心拍変動, 体位変換

【はじめに,目的】
心臓洞房結節は,交感神経系と副交感神経系の双方の影響を受け,心拍数や心収縮力を調整している。この心臓への自律神経機能を測定する方法として,非侵襲的な手法である,心拍変動のパワースペクトル解析が用いられ,周波数帯の変動から心臓への迷走神経及び交感神経の影響を把握することが出来る。臨床的には,呼吸同期成分(HF)として0.15-0.40Hz,圧受容器反射成分(LF)として0.04-0.15Hzの周波数帯での積算パワーを用いることが推奨されており,HF成分は,副交感神経活動による影響を受け,LF成分は,交感神経,副交感神経双方の影響下にあることが示唆されている。
脊髄損傷者は,損傷レベルや損傷程度に応じた交感神経遠心路の障害を有している。脊髄損傷者に心拍変動解析を行った研究では,安静時には,健常者と差がないことが報告されている(Wecht et al, 2006)。一方で,体位変換時には,健常者と異なる制御を示すことも報告されている。脊髄損傷対麻痺者(以下,対麻痺者)では,受動的起立(以下,HUT)時の自律神経系の反応として,交感神経活動の増加なしに,平均血圧が維持され,ホルモンやレニン系の関与が示唆されている(Houtman et al, 2000)。また,対麻痺者では,HUT時の圧受容体反応が変化している可能性も指摘されている(Wecht et al, 2003)。このように先行研究では,体位変換動作として,HUTを用いた心臓自律神経機能の測定は見られるが,対麻痺者が日常的に用いる車椅子座位に類似した姿勢である,ギャッジアップ座位を用いた測定はほとんど行われていない。
そこで本研究では,対麻痺者を対象として背臥位からギャッジアップ座位への体位変換を行い,心臓自律神経機能の測定を行うことを目的とした。
【方法】
対象者は,健常群5名,対麻痺群6名(損傷レベルTh4-12)であった。対象者には,測定前日からアルコールやカフェイン,激しい運動を避けるように指示した。ベッド上で安静背臥位を15分間とった後,心拍変動の測定を開始した。プロトコールは,安静背臥位5分間,ギャッジアップ60°で5分間とした。解析には,それぞれの体位における5分間のデータを使用した。心拍変動のスペクトル解析は,ECG-3D Analysis(株式会社TAOS研究所)で行い,サンプリング周波数は,204Hzであった。心拍変動の各成分範囲は,LF:0.04-0.15Hz,HF:0.15-0.40Hzとし,TP,LF,HF等を算出し,各値を常用対数化した。心拍数は,RF-ECG(株式会社医療電子科学研究所)で測定した。血圧は,水銀血圧計で,2分毎に測定し,平均血圧を算出した。各群とも,ギャッジアップ期の測定データを安静期と比較することに加え,両群間での比較も行った。統計学的有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,測定を行った広島大学大学院総合科学研究科の倫理委員会の承認を得ると同時に,ヘルシンキ宣言に基づいて被験者に研究内容を説明し,署名によって同意を得た。
【結果】
ギャッジアップ期の自律神経指標,心拍数,平均血圧は,両群とも,安静期と有意差を認めなかった。また,両群間において,安静期の測定データには有意差を認めなかった。ギャッジアップ期においては,LFのみ,群間に有意差を認めた(健常群6.39±0.78,対麻痺群5.02±1.10,p<0.05)。また,ギャッジアップを行ったことにより,健常群ではLFが増加し,対麻痺群では減少する傾向を示した。
【考察】
心臓交感神経は,Th5以下の脊髄損傷では,機能的に残存していることが報告されている。しかし,今回対象とした対麻痺群では,ギャッジアップ時のLFが健常群よりも低く,背臥位からギャッジアップによる座位への体位変換により減少する傾向を示した。LFの変動は,血圧調整に関わる圧受容器反射による成分で,コリン作動性迷走神経枝及びアドレナリン作動性心臓交感神経双方の影響を受けると考えられている。今回の結果と併せると,Th5以下の脊髄損傷者であっても,ギャッジアップを用いた体位変換に伴う,圧受容器反射由来の自律神経変化が乏しい可能性が示唆された。しかしながら,健常者においても,ギャッジアップにより,LF成分が十分に上昇したとはいえず,HUTと比べると,ギャッジアップは,交感神経刺激としては負荷が乏しい可能性が考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
車椅子を常用しており,座位耐性のあると考えられる対麻痺者では,体位変換に伴い,血圧を維持したが,健常者と比べ自律神経変化が乏しいことが示唆された。今後は,この背景にある生理学的機構を検証していきたい。