[1273] 足底知覚と膝伸展筋力・片脚立位時間の関係
キーワード:足底知覚, 膝伸展筋力, 片脚立位時間
【はじめに,目的】
黄川らはスポーツ活動時の体重支持における大腿四頭筋の重要性から,体重当たりの膝関節伸展筋力を体重支持指数(weight bearing index:以下WBI)として表わすことを提唱し,以後,WBIは下肢傷害予防やトレーニング処方をするための客観的な筋力評価方法として応用されている。また,山本らは立ち上がり動作を用いた下肢の筋機能評価法を考案し,WBIと立ち上がり動作に高い相関があると報告している。そのため臨床では,身体能力判定目的で膝伸展筋力測定を行う場面が多い。しかしながら,各種トレーニング,動作訓練等を行っても,実際の歩行・ADL場面になると,獲得した筋力が動作遂行に繋げられず苦慮するケースが多い。山中らによると足底の感覚が敏感で,中殿筋・大腿四頭筋・腓骨筋の筋力が強いほど,片脚立位姿勢が安定していたとしており,筋力と感覚には強い相関があると報告している。また,弘瀬らは,立位姿勢は視覚・前庭・体性感覚系からの感覚入力に基づき頚部・体幹・四肢の抗重力活動によって行われていると報告している。
そこで,末梢(足底)知覚の詳細なテストが可能な,モノフィラメント知覚テスターを用い,知覚異常の有無と膝伸展筋力および片脚時間との関係について検証したので報告する。
【方法】
対象は平衡機能,下肢・体幹機能に問題のない男女20名(男性13名,女性7名)とした。また対象者に表在感覚検査(酒井医療株式会社社製,モノフィラメント知覚テスター)を施行し,知覚異常を認めた10名(平均年齢26.67歳,平均身長168.89cm,平均体重63.33kg),知覚異常を認めなかった10名(平均年齢24.80歳,平均身長167.30cm,平均体重64.00kg)の2群に分けた。異常のない群をI群,異常を認めた群をII群とした。
表在感覚の評価として,腹臥位になり足部をベッドから出した状態で,足底にモノフィラメントが軽くたわむ強度で刺激を加え,3回の刺激のうち一度でも感じたものを正常とした。また足底の7箇所を刺激部位とし,それぞれ番号を付け,その部分に刺激を感じたらその番号を言ってもらうように指示した。フィラメントはNo.2.83(Green),No.3.61(Blue),No.4.31(Purple),No.4.56(Red),No.6.65(Red)の5本を使用した。片脚立位時間の計測は,平行棒内で上肢の支持をなくし,開眼・利き足(ボールを蹴る足)にて30秒を上限として2回測定し,最高値を採用した。膝伸展筋力は下腿下垂した端坐位,体幹垂直位で5秒間の最大等尺性収縮筋力を2回測定し,数値の高い方を採用した。測定にはハンドヘルドダイナモメーター(アニマ社製,等尺筋力測定装置μ-Tas F-1)を使用し,最大値を体重比百分率(%)に換算して行った。測定に際し,代償を防ぐため上肢は腕組みとし,対側足底は床面接地させた状態で測定を行った。統計処理にはSPSSを用い,群間の比較には対応のないt検定を,膝伸展筋力と片脚立位時間の関係にはPearsonの相関係数を用い,有意水準は5%未満とした。結果は平均±標準偏差で表記した。
【倫理的配慮,説明と同意】
全ての被験者には動作を口頭で説明するとともに実演し,同意を得たのちに検証を行った。
【結果】
年齢,体重,身長に両群間で有意差は認めなかった。膝伸展筋力はI群(平均57.21±13.40),II群(平均67.53±17.91)でありI群が有意に高値を示した(p<0.05)。I群の膝伸展筋力と片脚立位時間(平均36.09±23.47)で中等度の相関(r=0.561,p<0.01)を示した。またII群の膝伸展筋力と片脚立位時間(平均40.81±20.88)に高い相関(r=0.794,p<0.01)を示した。両群間の片脚立位時間に有意差は認めなかった(p<0.15)。
【考察】
感覚障害の有無が,膝伸展筋力,いわゆる筋出力に影響を及ぼしている事が示唆された。これは,筋力評価・トレーニングを行う場合には,末梢からの入力系障害についても考慮する必要性があることを示す結果となった。また,膝伸展筋力と片脚立位時間で高い相関を示した事は,感覚機能を代償するために筋力に依存している事を示しており,先行研究と同様の結果であった。今後は,性差・年齢による変化の有無,知覚異常部位との関連性についても検証したい。
【理学療法学研究としての意義】
知覚異常を有する群で,膝伸展筋力と高い相関を示したことから,膝伸展筋力に依存することが示された。これは,足底知覚異常検査を行うことの必要性を示すものである。筋力評価・トレーニングを行うにあたり,出力系に主眼をおく方法だけでなく,入力系の評価・トレーニングも重要であると考える。今後,運動器疾患のみでなく,多くの臨床の場で検証を深めたい。
黄川らはスポーツ活動時の体重支持における大腿四頭筋の重要性から,体重当たりの膝関節伸展筋力を体重支持指数(weight bearing index:以下WBI)として表わすことを提唱し,以後,WBIは下肢傷害予防やトレーニング処方をするための客観的な筋力評価方法として応用されている。また,山本らは立ち上がり動作を用いた下肢の筋機能評価法を考案し,WBIと立ち上がり動作に高い相関があると報告している。そのため臨床では,身体能力判定目的で膝伸展筋力測定を行う場面が多い。しかしながら,各種トレーニング,動作訓練等を行っても,実際の歩行・ADL場面になると,獲得した筋力が動作遂行に繋げられず苦慮するケースが多い。山中らによると足底の感覚が敏感で,中殿筋・大腿四頭筋・腓骨筋の筋力が強いほど,片脚立位姿勢が安定していたとしており,筋力と感覚には強い相関があると報告している。また,弘瀬らは,立位姿勢は視覚・前庭・体性感覚系からの感覚入力に基づき頚部・体幹・四肢の抗重力活動によって行われていると報告している。
そこで,末梢(足底)知覚の詳細なテストが可能な,モノフィラメント知覚テスターを用い,知覚異常の有無と膝伸展筋力および片脚時間との関係について検証したので報告する。
【方法】
対象は平衡機能,下肢・体幹機能に問題のない男女20名(男性13名,女性7名)とした。また対象者に表在感覚検査(酒井医療株式会社社製,モノフィラメント知覚テスター)を施行し,知覚異常を認めた10名(平均年齢26.67歳,平均身長168.89cm,平均体重63.33kg),知覚異常を認めなかった10名(平均年齢24.80歳,平均身長167.30cm,平均体重64.00kg)の2群に分けた。異常のない群をI群,異常を認めた群をII群とした。
表在感覚の評価として,腹臥位になり足部をベッドから出した状態で,足底にモノフィラメントが軽くたわむ強度で刺激を加え,3回の刺激のうち一度でも感じたものを正常とした。また足底の7箇所を刺激部位とし,それぞれ番号を付け,その部分に刺激を感じたらその番号を言ってもらうように指示した。フィラメントはNo.2.83(Green),No.3.61(Blue),No.4.31(Purple),No.4.56(Red),No.6.65(Red)の5本を使用した。片脚立位時間の計測は,平行棒内で上肢の支持をなくし,開眼・利き足(ボールを蹴る足)にて30秒を上限として2回測定し,最高値を採用した。膝伸展筋力は下腿下垂した端坐位,体幹垂直位で5秒間の最大等尺性収縮筋力を2回測定し,数値の高い方を採用した。測定にはハンドヘルドダイナモメーター(アニマ社製,等尺筋力測定装置μ-Tas F-1)を使用し,最大値を体重比百分率(%)に換算して行った。測定に際し,代償を防ぐため上肢は腕組みとし,対側足底は床面接地させた状態で測定を行った。統計処理にはSPSSを用い,群間の比較には対応のないt検定を,膝伸展筋力と片脚立位時間の関係にはPearsonの相関係数を用い,有意水準は5%未満とした。結果は平均±標準偏差で表記した。
【倫理的配慮,説明と同意】
全ての被験者には動作を口頭で説明するとともに実演し,同意を得たのちに検証を行った。
【結果】
年齢,体重,身長に両群間で有意差は認めなかった。膝伸展筋力はI群(平均57.21±13.40),II群(平均67.53±17.91)でありI群が有意に高値を示した(p<0.05)。I群の膝伸展筋力と片脚立位時間(平均36.09±23.47)で中等度の相関(r=0.561,p<0.01)を示した。またII群の膝伸展筋力と片脚立位時間(平均40.81±20.88)に高い相関(r=0.794,p<0.01)を示した。両群間の片脚立位時間に有意差は認めなかった(p<0.15)。
【考察】
感覚障害の有無が,膝伸展筋力,いわゆる筋出力に影響を及ぼしている事が示唆された。これは,筋力評価・トレーニングを行う場合には,末梢からの入力系障害についても考慮する必要性があることを示す結果となった。また,膝伸展筋力と片脚立位時間で高い相関を示した事は,感覚機能を代償するために筋力に依存している事を示しており,先行研究と同様の結果であった。今後は,性差・年齢による変化の有無,知覚異常部位との関連性についても検証したい。
【理学療法学研究としての意義】
知覚異常を有する群で,膝伸展筋力と高い相関を示したことから,膝伸展筋力に依存することが示された。これは,足底知覚異常検査を行うことの必要性を示すものである。筋力評価・トレーニングを行うにあたり,出力系に主眼をおく方法だけでなく,入力系の評価・トレーニングも重要であると考える。今後,運動器疾患のみでなく,多くの臨床の場で検証を深めたい。