第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 内部障害理学療法 ポスター

代謝3

Sat. May 31, 2014 4:40 PM - 5:30 PM ポスター会場 (内部障害)

座長:河江敏広(広島大学病院診療支援部リハビリテーション部門)

内部障害 ポスター

[1275] 糖尿病教育入院期間における行動変容ステージ別の身体活動量の変化

武井圭一, 國澤洋介, 森本貴之, 岩崎寛之, 高畑朱理, 前川宗之, 山本満 (埼玉医科大学総合医療センターリハビリテーション科)

Keywords:糖尿病, 身体活動量, 行動変容ステージ

【はじめに,目的】糖尿病に対する運動療法では,運動習慣の形成や身体活動量(PA)の増加といった行動変化を支援することが重要である。PAは増加することが重要だが,対象者の体力や合併症の程度に対して過剰な増加になると運動による不利益を生じることが危惧されるため注意が必要である。また,PAは対象者の行動変化の状態により異なると考えられ,特に望ましい行動を開始している症例に対しては継続の支援を目的に介入するが,PAを用いてどのように評価するのかは不明確である。本研究の目的は,糖尿病教育入院(教育入院)期間における行動変容ステージ(ステージ)別のPAの変化を検討することにより,PAを指標としたステージごとの介入方針を明確にすることである。
【方法】対象は,2013年2月から10月までに当院教育入院に参加し,理学療法(PT)を実施した23名とした。除外基準は,PAの記録が4日未満の者,入院中にPAに影響を及ぼす体調不良を認めた者とした。対象者の特性は,平均年齢59±10歳,平均HbA1c10.0±2.3%,平均BMI26.6±5.7kg/m2,歩行能力は全例自立,重度な合併症として前増殖網膜症3名,腎症3B期2名,大血管障害4名であった。当院の教育入院は2週間の日程で,運動療法の指導・実践を目的にPTを6回実施している。調査項目は,PAとステージとして診療録より調査した。PAは,歩数計で計測した1日の歩数であり,1回目から5回目のPT介入日における5日間のPAを調査した。ステージは,Prochaskaらが提唱した5段階の変化ステージを用いて退院時評価の結果を調査し,準備期以下を低ステージ群,行動期以上を高ステージ群として2群に分類した。分析は,5日間のPAの平均値を求め,低ステージ群,高ステージ群間の比較についてt検定を用いた。1-2回目の平均PAを前半,3-5回目の平均PAを後半として,2群ごとの前半・後半のPAの比較について対応のあるt検定を用いた。PAの変化量について前半・後半のPA差の平均と95%信頼区間を求めた。また,5日間のPAの変動係数を求め,ステージと変動係数の関連についてSpearmanの順位相関分析を用いた。統計解析には,IBM SPSS statistics 19を用い,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,当院倫理委員会の承認を得て実施した。
【結果】退院時のステージは,低ステージ群11名,高ステージ群12名であった。平均PA(歩/日)は,低ステージ群4300±2100,高ステージ群9500±5800であり,高ステージ群の方が有意に高かった。前半・後半の平均PAは,低ステージ群が前半2900±1400,後半5200±2800であり,後半に有意な増加を認めた。高ステージ群は,前半9000±6000,後半9900±5900であり,有意差を認めなかった。前半・後半のPA差の平均(95%信頼区間)は,低ステージ群2300(下限1000-上限3600),高ステージ群900(下限-800-上限2600)であった。PAの変動係数は,熟考期37±19%,準備期38±15%,行動期22±9%,維持期17±6%であり,ステージとの間に有意な負の相関(rs=-0.61)を認めた。
【考察】退院時に低ステージの症例は,高ステージよりも低いPAで変動が大きく,後半に増加する傾向を認めた。低ステージの症例は,望ましい行動に到達していない状態であり,PA増加を目的に介入している。後半にPAの増加を認めたことは,療養指導の効果を反映している可能性が示唆された。しかし,PAを安全に増加するためには段階的な増加が推奨されており,低ステージで特に低体力や合併症を有した症例に対しては増加量の評価,調整が重要であると考えた。退院時に高ステージの症例は,PAが介入前半から後半にかけて一定して高い傾向を認めた。望ましい行動を実行している症例に対しては,PAを指標とした介入方針は明確ではなかったが,より高いステージの方がPAの変動が小さかったことから,教育入院中に安定したPAを促すことが行動を継続するための支援として有効であることが示唆された。これらのことから,低ステージの症例に対しては日々の増加量に配慮しながらPA増加を目的に介入すること,高ステージの症例に対しては教育入院中の日々の変動を評価しながら安定したPAを促すことが重要であると考えた。
【理学療法学研究としての意義】糖尿病療養指導は,画一的に実施するのではなく,対象者の行動変化の状態に応じて実施することが推奨されている。PAを指標にしたステージ別の介入方針を提示したことは意義があると考える。