[1276] 男性2型糖尿病患者の最大歩行速度に及ぼす諸因子の検討
キーワード:2型糖尿病, 最大歩行速度, 運動機能
【目的】
2型糖尿病の運動療法としてウォーキングが一般的に指導される。近年では速歩やインターバル歩行などが血糖コントロールに効果的であるとされ,運動強度の高い有酸素運動の導入が望まれる。しかし2型糖尿病を発症すると,筋力,関節可動域,バランスなどの運動機能の低下が生じ,その結果歩行速度の低下や歩容の悪化を招く。このような状態でウォーキングを継続させることは機能障害の発生を助長させる危険性があり,運動機能の改善は重要となるが,2型糖尿病患者の歩行速度に影響を及ぼす因子を検討した報告は少ない。そこで本研究は2型糖尿病患者の最大歩行速度,歩幅,歩行率に影響を及ぼす因子を検討することとした。
【方法】
対象は当院に教育入院し運動療法の依頼のあった男性2型糖尿病患者86例である。平均年齢55.9±12.7歳,BMI27.2±5.0,HbA1c(NGSP値)9.4±2.0%,糖尿病罹病歴7.4±7.0年である。測定項目は10m最大歩行速度,歩幅,歩行率,関節可動域(股関節屈曲・伸展,膝関節屈曲・伸展,足関節背屈・底屈,母趾MP関節屈曲・伸展)および下肢伸展位挙上角度,等尺性膝伸展筋力体重比,開眼および閉眼片脚立位時間とした。衣笠らや平澤らの報告から健常者年代別の参考基準値を用いて10m最大歩行速度,歩幅,歩行率,膝伸展筋力体重比の参考基準値からの低下率(%10m最大歩行速度,%歩幅,%歩行率,%膝伸展筋力)を算出した。統計解析は%10m最大歩行速度,%歩幅,%歩行率と各因子の相関関係をPearsonの相関係数を用いて解析した。また%10m最大歩行速度,%歩幅,%歩行率を目的変数とし,相関のある因子および糖尿病神経障害と運動習慣を説明変数として重回帰分析を行った。有意水準を5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には口頭にて研究の目的を十分に説明し,研究に対する参加の同意を得た。
【結果】
10m最大歩行速度は2.05±0.35m/sec,%10m最大歩行速度は66.4±11.6%であった。歩幅は0.85±0.11m,%歩幅は87.4±11.6%であった。歩行率は144.3±18.2steps/min,%歩行率は76.0±11.7%であった。%10m最大歩行速度と有意な相関関係を認めたのは股関節屈曲角度(r=0.27,p<0.05),股関節伸展角度(r=0.29,p<0.01),下肢伸展挙上角度(r=0.22,p<0.05),%膝伸展筋力(r=0.51,p<0.01),BMI(r=-0.42,p<0.01)であった。%10m最大歩行速度を目的変数とした重回帰分析では%膝伸展筋力(β=0.51,p<0.01)が有意な説明変数として選択された。%歩幅と有意な相関関係を認めたのは股関節屈曲角度(r=0.39,p<0.01),足関節背屈角度(r=0.36,p<0.01),下肢伸展挙上角度(r=0.26,p<0.05),%膝伸展筋力(r=0.24,p<0.05),開眼片脚立位時間(r=0.21,p<0.01),BMI(r=-0.30,p<0.05)であった。%歩幅を目的変数とした重回帰分析では足関節背屈角度(β=0.25,p<0.05)と開眼片脚立位時間(β=0.26,p<0.05)が有意な説明変数として選択された。%歩行率と有意な相関関係を認めたのは%膝伸展筋力(r=0.40,p<0.01),開眼片脚立位時間(r=-0.28,p<0.01),BMI(r=-0.21,p<0.05)であった。%歩行率を目的変数とした重回帰分析では%膝伸展筋力(β=0.44,p<0.01)と開眼片脚立位時間(β=-0.32,p<0.01)が有意な説明変数として選択された。
【考察】
2型糖尿病患者の最大歩行速度,歩幅,歩行率ともに健常者年代別の参考基準値より低下していた。歩行速度の改善には歩幅と歩行率の増加が必要となる。今回の検討で最大歩行速度は膝伸展筋力,歩幅は足関節背屈角度と開眼片脚立位,歩行率は膝伸展筋力と開眼片脚立位が関与することが明らかとなった。開眼片脚立位時間が短いと歩幅が狭くなり歩行率が増加していたが,それでも歩行率が低下しているのは膝伸展筋力の低下が要因と考えられた。今回糖尿病神経障害も合わせて検討したが,最大歩行速度,歩幅,歩行率ともに説明変数として選択されなかった。糖尿病神経障害が合併しても,筋力,関節可動域,バランスなどの運動機能を十分に保持することが重要であることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
2型糖尿病の運動療法としてウォーキングを指導する際には運動機能を評価した上で歩行速度,歩幅,歩行率を決定することで安全に運動療法を提供することが可能となる。
2型糖尿病の運動療法としてウォーキングが一般的に指導される。近年では速歩やインターバル歩行などが血糖コントロールに効果的であるとされ,運動強度の高い有酸素運動の導入が望まれる。しかし2型糖尿病を発症すると,筋力,関節可動域,バランスなどの運動機能の低下が生じ,その結果歩行速度の低下や歩容の悪化を招く。このような状態でウォーキングを継続させることは機能障害の発生を助長させる危険性があり,運動機能の改善は重要となるが,2型糖尿病患者の歩行速度に影響を及ぼす因子を検討した報告は少ない。そこで本研究は2型糖尿病患者の最大歩行速度,歩幅,歩行率に影響を及ぼす因子を検討することとした。
【方法】
対象は当院に教育入院し運動療法の依頼のあった男性2型糖尿病患者86例である。平均年齢55.9±12.7歳,BMI27.2±5.0,HbA1c(NGSP値)9.4±2.0%,糖尿病罹病歴7.4±7.0年である。測定項目は10m最大歩行速度,歩幅,歩行率,関節可動域(股関節屈曲・伸展,膝関節屈曲・伸展,足関節背屈・底屈,母趾MP関節屈曲・伸展)および下肢伸展位挙上角度,等尺性膝伸展筋力体重比,開眼および閉眼片脚立位時間とした。衣笠らや平澤らの報告から健常者年代別の参考基準値を用いて10m最大歩行速度,歩幅,歩行率,膝伸展筋力体重比の参考基準値からの低下率(%10m最大歩行速度,%歩幅,%歩行率,%膝伸展筋力)を算出した。統計解析は%10m最大歩行速度,%歩幅,%歩行率と各因子の相関関係をPearsonの相関係数を用いて解析した。また%10m最大歩行速度,%歩幅,%歩行率を目的変数とし,相関のある因子および糖尿病神経障害と運動習慣を説明変数として重回帰分析を行った。有意水準を5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には口頭にて研究の目的を十分に説明し,研究に対する参加の同意を得た。
【結果】
10m最大歩行速度は2.05±0.35m/sec,%10m最大歩行速度は66.4±11.6%であった。歩幅は0.85±0.11m,%歩幅は87.4±11.6%であった。歩行率は144.3±18.2steps/min,%歩行率は76.0±11.7%であった。%10m最大歩行速度と有意な相関関係を認めたのは股関節屈曲角度(r=0.27,p<0.05),股関節伸展角度(r=0.29,p<0.01),下肢伸展挙上角度(r=0.22,p<0.05),%膝伸展筋力(r=0.51,p<0.01),BMI(r=-0.42,p<0.01)であった。%10m最大歩行速度を目的変数とした重回帰分析では%膝伸展筋力(β=0.51,p<0.01)が有意な説明変数として選択された。%歩幅と有意な相関関係を認めたのは股関節屈曲角度(r=0.39,p<0.01),足関節背屈角度(r=0.36,p<0.01),下肢伸展挙上角度(r=0.26,p<0.05),%膝伸展筋力(r=0.24,p<0.05),開眼片脚立位時間(r=0.21,p<0.01),BMI(r=-0.30,p<0.05)であった。%歩幅を目的変数とした重回帰分析では足関節背屈角度(β=0.25,p<0.05)と開眼片脚立位時間(β=0.26,p<0.05)が有意な説明変数として選択された。%歩行率と有意な相関関係を認めたのは%膝伸展筋力(r=0.40,p<0.01),開眼片脚立位時間(r=-0.28,p<0.01),BMI(r=-0.21,p<0.05)であった。%歩行率を目的変数とした重回帰分析では%膝伸展筋力(β=0.44,p<0.01)と開眼片脚立位時間(β=-0.32,p<0.01)が有意な説明変数として選択された。
【考察】
2型糖尿病患者の最大歩行速度,歩幅,歩行率ともに健常者年代別の参考基準値より低下していた。歩行速度の改善には歩幅と歩行率の増加が必要となる。今回の検討で最大歩行速度は膝伸展筋力,歩幅は足関節背屈角度と開眼片脚立位,歩行率は膝伸展筋力と開眼片脚立位が関与することが明らかとなった。開眼片脚立位時間が短いと歩幅が狭くなり歩行率が増加していたが,それでも歩行率が低下しているのは膝伸展筋力の低下が要因と考えられた。今回糖尿病神経障害も合わせて検討したが,最大歩行速度,歩幅,歩行率ともに説明変数として選択されなかった。糖尿病神経障害が合併しても,筋力,関節可動域,バランスなどの運動機能を十分に保持することが重要であることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
2型糖尿病の運動療法としてウォーキングを指導する際には運動機能を評価した上で歩行速度,歩幅,歩行率を決定することで安全に運動療法を提供することが可能となる。